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闇夜の仇討ち

 夜を迎え、晴奈と雪乃は道場への道を駆けた。今宵(こよい)は双新月――この世界の空に浮かぶ白い月も、赤い月も見えない、まったくの闇夜である。仇を討ち取るには、絶好の夜だった。


「……っ、なん……だ?」

 道場のど真ん中で酒を飲み、(さかな)を食い散らしていた島は、ぞくっと身震いする。腐ってもまだ一端の剣士ではあったらしく、その異様な気配に即応し、立ち上がった。

「向かってきおる……!」

 床の間に放っておいた刀を手に取ると同時に道場の扉が×状に裂け、燃え上がる。一瞬で燃え尽きた扉の向こうには、雪乃と晴奈の姿があった。

「だ……誰かと思えば昼間の女どもか。一体、わしに何の用だ? 可愛がってもらいにきたか?」

「可愛がるのはわたしたちの方よ、島竜王。この焔流免許皆伝、柊雪乃があなたの猪首、討ち取ってあげるわ」

「同じく焔流門下生、黄晴奈。義によって我が師の助太刀をいたす」

 名乗った二人に、島は嘲った笑い声を立てた。

「は、は! 焔流だと? あの男の同門か。察するに仇討ちでもしようと言うつもりか? 馬鹿馬鹿しい! 逆恨みもいいところではないか。真っ当な勝負でわしはこの道場を手に入れたのだ。誹られるいわれなど欠片も無いわ!」

 臆面もなく言い放った島に、二人は憤りをあらわにする。

「戯言をほざくな、島。楢崎殿の家族に危害を加え脅迫したこと、すべて割れているぞ」

「フン、身に覚えがないわ! 証拠でもあると言うのか!?」

 この期に及んでなおもしらばっくれた島をにらみつけ、晴奈と雪乃は同時に刀を上段に構え、火を灯す。

「問答無用! 友の無念、晴らさせてもらう!」

 そして同時に、刀を振り下ろした。

「『火射』ッ!」

 振り下ろされた刀から放たれた炎が迫り、島は慌てて飛びのく。

「おわ……っと! いきなり攻撃か! 油断を突くなど、それでも剣士か、お前ら!」

「敵を前にして油断など、それこそ剣士ではない! 覚悟しろ、島ッ!」

 晴奈たちは同時に道場へ上がり、瞬時に距離を詰めて島に斬りかかる。だが――。

「なめるなよあばずれ共ッ!」

 二人の刀は島が左右の手に持つ刀に阻まれ、斬り捨てるには至らなかった。

「二刀流か!」

「この島流二刀剣術、女の細腕なんぞに敗れるものかッ! 貴様らもわしの刀の錆にしてくれるわ!」

 島は左右同時に師弟の刀を弾き――まだ未熟と見たらしく――晴奈の方に斬りかかった。

「まずは貴様からだ、猫娘ッ!」

「甘いッ!」

 が、晴奈はその左右から繰り出される連続攻撃をいなし、(さば)き切る。

(太刀筋が読める……! クラウンに備え、師匠と行っていた鍛錬の成果か)

 続く三太刀、四太刀目を止め、晴奈は攻勢に転じる。

「りゃあッ!」

「うお……っ!?」

 晴奈が()いだ刀を十字に構えて受けたところで、初めて島に焦りの色が浮かぶ。

「うぬ、ぬ……ぬおうッ!」

 再度晴奈の刀を弾き、島は間合いを取ろうとする。だがその瞬間、雪乃が島の背後から袈裟斬(けさぎ)りに刀を振り下ろす。

「でやあッ!」「甘い!」

 ところが島は背中に剣を回し、防ぐ。

「この二刀剣術に死角なぞ無い! 前後左右、攻防一体だ!」

()()?」

 晴奈と雪乃、二人の声が重なる。

「一人で一体とは笑止千万」

()()()一体とはこうやるのよ」

 同時に、晴奈と雪乃が島の前後から斬り掛かった。

「……ッ!」

 島は中途半端に晴奈と雪乃、両方に腕を伸ばしたまま――立ち往生した。




 一夜明け、道場では大掃除が行われた。島が食い散らかし、飲み散らかしたものの後片付けと、死闘の後始末である。もちろん晴奈と雪乃も手伝い、昼前には綺麗に片付けられた。

「これで元通りかしら」

「本当にありがとうございました! 本当に、本当に何とお礼を言って良いか!」

 柏木は泣きながら雪乃に頭を下げたが、対する雪乃は「待って」とそれを制する。

「お礼を言うのならわたしにだけじゃなく、この娘にも言ってあげて。二人で討ったんだから」

「さ、さようで! ありがとうございました、黄様!」

「さ、様は変でしょう」

 柏木に頭を下げられ、晴奈は戸惑った声を上げた。

「私はまだ門下生、修行中の身です。あなたとは同輩、同格の立場ですから、どうかそのように扱って下さい」

「いえ、とてもそのようなことはできません。私はあの男に手も足も出なかったのですから」

「それなら晴奈」

 と、雪乃がぱた、と手を打つ。

「いっそ、あなたが指導してあげたら? 元々修行のつもりでここを訪れたのだし、教える立場になってみるのも、いい経験になるわよ」

「わ……私がですか!?」

 面食らったものの――結局雪乃に押し切られ、晴奈は一週間、この道場で柏木たち楢崎派門下生たちを指導することになった。

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