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08 異世界の女神7 悪女(ぽんこつ)

アレイン(28)黒スーツに黒コートを羽織った金属製の玩具ロボットみたいな見た目。

 人型の時は身長15センチ〜280センチで伸縮可能。手足めちゃ長い。みぞおちに大穴が開いており、主にスペルモルの服を収納している。加工や実験もそこでやる。

 前世は人間。今世は機械人種の特徴をもつ人間でマスコット。

 ちなみにレルムは後天的に幻想人種の特徴を得た人間。

 なんにせよ見た目が違って能力も違うだけで同じ現生人類。

 アウローラは双子の特別である。

 母親を知らない双子の渇望を本当の意味で理解し、愛着形成の役割(プロセス)を担っている。

 レルムの最愛の妻であり、アンナの親友であり、ヒュプシュとは互いに「はじめてのともだち」。叔父であるアレインにとって宝であり、カイザルからは恩人と見做されており、ヴィルヘルミナからは親愛を含んだ敬意を向けられている。


 転移前は公爵令嬢。血筋としては王族の末裔。ありとあらゆる知識、情報、教養、技術…様々な得難い王家の秘宝を宿した、まさに「生きる伝統」。そんな彼女の特殊魔法「画面」(アカシック・レコード)は、別名「全知の書」だ。

 その気になれば支配者やれちゃう怖い実力をもつ姫君なのだが、あいにくアウローラにその気はない。できない。致命的に向いていない。

 何故なら本性がポンコツなのである。あとチョロい。


 アンナが面白がって教えた異世界の(それってホントに)流行語(はやってる?)を大真面目に使い倒して、なんの疑問を抱かないくらいに。

 突然、夫の耳が馬のそれに変化しても動じず喜ぶくらいに。

 カイザルに夫を盗られまいと暴走しては、周囲から「死者(カイザルさん)だから色恋が存在しない」と大前提をツッコまれているにも関わらず、2人が絡むと毎回コロッと忘れて敵愾心を燃やすほどの鳥頭(ぽんこつ)である。

 同時に様々な物事を並行して考えすぎる癖が染み付いており、常に脳内がとっちらかっているのだ。喋らせれば蛇足が多く、取り越し苦労を胸に秘めがち。


 そんな彼女(ぽんこつ)の転移が、神域投影を理想郷へ変える転換点(はじまり)であった。


 双子は判断に迷うときに彼女を求める。つい見てしまう。解決を期待するというより、一服の清涼剤(ティーブレイク)を欲して、だ。

 動じない淑女の微笑みであればリンは安堵する(たいしたことないのね)し、レルムは喜ぶ。

 涙目であればドS紳士(スペルモル)(おれ)癒される(まもってやろ)


 異世界「神域投影」では、不測の事態(へんてこりん)はザラに起きる。

 今回の不測の事態(いみわからんが?)においても、微笑みの淑女は真っ先に注目をあびた。

 数多のへんてこりん現象を経て、おおいに成長した覚悟決まりすぎ淑女(アウローラ)は…己の意志でもって痴女となることを選んだ。


 ◆


 救いを求めるように貪り食うヴィルヘルミナ。

 途方に暮れてただ立ち尽くすヴィルヘルミナ。

 苦悩が明らかな友人を目にしたアウローラは、すぐさま「画面(まほう)」を発動した。


 本音では「人のこころを一方的に赤裸々にする魔法なんて使いたくないよう」だが、治療に必要とあれば絶世の美女(しゅうどうじょ)(の心)だって赤裸々に脱がす(あばく)。ためらわない。アウローラは冷徹な痴…悪女なのである。


 「よぉ。ヴィルヘルミナ。まだ具合が悪そうだ。座ろうぜ」

 スペルモルは歩み寄り、立ち尽くすヴィルヘルミナに手を差し出した。

「…、…」

 何かを言おうとして、しかし言葉なく、ヴィルヘルミナは半ば反射的に少年のエスコートに応えた。

 震える指先を己の腕にしっかり掴まらせてから、スペルモルはゆっくり歩き出す。

 ちら、とさりげなくアウローラを見れば目があい、ソファへ促された。


 ソファには、両手に持ったクッキーを交互にサクサクサクサクとやる、もうひとりのヴィルヘルミナがいる。

 それを愉快げに眺めるカイザルもいる。


 スペルモルは対面するソファへヴィルヘルミナを座らせ、クッキーを一枚、手に持たせてやった。

 常であればピンクの色気を発して喜んでサクサク(リスちゃん)する。しかし、食べようとしない。縋るような視線でスペルモルを見る。

 その目がふと伏せられた。

 ほぼ同時に、もうひとり(ヴィルヘルミナ)もピタッとクッキーを食べ止んだ。目がゆっくり伏せられる。

 アウローラの「画面」による治療が効いてきたようだ。

 どちらも、重い荷を降ろした後のような放心状態を経て、徐々に顔色が良くなっていった。


 スペルモルの横に、レルムが音もなく戻ってきた。

 アウローラを縦抱きにしているのはいつものことだが、今回は背中にリンもぶら下がっていた。移動の気配を察した女帝が、飛びついて付いてきちゃったらしい。

「レディ・ヴィルヘルミナ。よろしければ詳しく診察をいたします。

 より効果が高い治療が可能です。いかがですか?」

 アウローラからの穏やかな声かけに対し、ふたりのヴィルヘルミナは真逆の反応をしめした。

 強く頷いたひとりの向かい側で、もうひとりが力強く拒絶したのだ。

「診察を断れるような身分じゃない。

 けど、無理よ。治療なんて高価なもの、修道女(あたし)が受けていいわけないじゃない。赦されないの。誘惑してこないで!」

 そう吐き捨て、さらにお喋りを始めた。

 下品だった。

 小学生男子(ちびゆうしゃ)無知なる迷惑(オモシロ!オモシロ!)のほうも混ざっていたが、主に聞くに堪えない方面の下ネタが満載だった。

 内容を要約すれば、「いるせいで迷惑な騒動が起きる。原因はお前だと誰もが言うのに認めない卑怯者。修道女の恥さらし。他の誰が許されることでもお前だけは赦されない」

 末尾は必ず「部屋に戻れヴィルヘルミナ! 出てくるな!」

 ただし、棒読みだった。

 復唱するように、ただ台詞を読み上げているように、かつて浴びせられた言葉(いしつぶて)暗唱(マネ)しただけの、愉悦(ねつ)を演じる空虚さがそこにある。


 アウローラに耳を塞がれながら、リンは思った。

(…後で思い出した時の、脳内で再現される相手の声の調子に似ているわね。

 モドキの影響で、自分への加害が抑えられないの? それとも精神が回復する過程のひとつ?

 かつて強いられ溜め込むしかなかった()()を、やっと表現でき(はきだせ)たとしたら、今があなたのスタートラインなのかしら?)


 もうひとりのヴィルヘルミナは、言い返そうとしていた。焦って口を開くものの、あえぎを繰り返すばかりで吐息にしかなっていない。

「…っ、…! …」

 彼女の傍に立つスペルモルにだけは、身に覚えがない、本当にわからない、それでは仕事が出来ないから、部屋は侵入が、といった囁き(ニュアンス)がかすかに聞き取れた。


 ひととおり喋らせた後、スペルモルは断言した。

「いや、コッチが本物だろ。どう見ても」

 その視線の先は、うろたえるヴィルヘルミナの涙目。

 もうひとりの自分が放つ暴言に傷ついて…も、あろうが、今はどちらかというと至近距離に迫る少年(スペルモル)に対する困惑が強そうだ。

 スペルモルは鼻先触れ合う距離からガン見し、舌舐めずりした。

「画面で確認するまでもねぇな。ヴィルヘルミナはこっち。

 レルム。偽物どうする? 捕獲しておこうぜ。俺そっち泣かせたい」

「?! えええ待ってください。スペルモル、ええと…」

ママ枠(アウローラ)はうろたえ、パパ枠(レルム)は叱った。

「こら。まずは離れなさい。レディへの接し方がなっていません…まったく」

 珍しい涙目(ヴィルヘルミナ)を堪能する現行犯(スペルモル)を引き剥がし、護衛官(レルム)はボヤいた。

「ヴィルヘルミナ嬢は護衛対象です。よくわかりませんが、どうもしませんよ。

 どちらかというと、君のほうをどうにかしたい。

 そのドS癖(あくへき)まだ落ち着かないのか…どうしたら治るんだ…」

「諦めろ。つか確信した。俺、泣き顔が好き。美味い。

 なぁアウローラ。お前はどう思う? どっちが本物だと?」

「ええぇっ泣き…うま、好?! えっ、どっ…ちが? に、答え、る、ために、は…っ、本物、の…っ」

 診察結果と可愛い(スペルモル)の唐突な自己開示(カミングアウト)のダブルパンチで混乱したアウローラは言いよどみ、勢いのまま叫んだ。

「…「本物」の、定義、とは…っ!?」


 ところで、アウローラには叔父がいる。アレインだ。

 彼は、姪の困りごとを解決することに使命感を抱いている。そして、研究者肌でもある。

 姪が発した問い(さけび)は、彼の心をおおいに燃え上がらせた。


 長い長い手足をくにゃんと動かし、アレインはソファの元に乗り込んだ。マシンガントークを開始した。わけだが。

「…して論理的思考に貢献するという意味でも真理値は重要な基本単位であり、命題や条件の真偽を現す概」

「…っ、…!」

 ヴィルヘルミナはアレインの左腕にすがる。

「ちょっと! 放しなさいよ! あたしのアレインたん!」

 ヴィルヘルミナはアレインの右腕にしがみつく。

 くにゃんとしがちな長い手足を左右からピンと引っ張られていようがアレインは気にしない。得意分野を楽しく喋り続ける。

 スペルモルは半眼で口を挟んだ。

「違う。おいちゃんは俺の親友(ぼうし)。貸しただけだって。そろそろ返せ」

 ふたりのヴィルヘルミナは揃って聞こえないフリをした。


 前世で国の一部(もの)として役割を全うした聖人(アレイン)は、今は神域投影(このせかい)のマスコットである。

 アンナの発案だが、アレインも喜んで自称している。

 人の下に人を造らず。人の下に帽子(マスコット)も造らず。彼にとって「人間を帽子(もの)呼ばわり可哀想」的な現実世界(いせかい)価値観(はいりょ)は見当違いだった。

 アレインは機械の自分サイコーと思っている。なので、四方八方から所有を主張されるのも「そりゃそう。だって僕、変形ロボット。誰だってずっと被っていたいよね分かる(早口)」なのである。


 スペルモルは重ねて諭した。

「アレインは俺のシルクハット。な?」

「…でも! ウシャンカは、あたしの! アレインたんはあたしのもの!!」

「…っ! …! …、…!!」

 アレインは考えた。

「ふむ…? レディへの献身は紳士の誉と教わった。ならば広義においてはレディのもの、とも…いえるかもしれない…?」

「アレイン、流されるな。拡大解釈だ」

「全ての女はオレの(もの)だ。だから「女のもの」を自称するとなると、アレイン、お前はオレの部下(もの)だな?」

「カイザル兄上、参戦しないで。紫ひっこめて」

「愚かね。神域投影(ここ)にいる者は皆わたくしの手中(オモチャ)なのに」

「姉さま」


 絆されかける親友をツッコんでいる間に、面白がった兄が漁夫の利ようと煽り、それを咎めた矢先に、高みの見物で問答無用に全てかっさらおうとする姉に手加減を乞う…うちに、綱引きは更にヒートアップする。


 アレインが殉教者のような雰囲気だれのものでもかまわないを漂わせはじめた。

「…! もうやめろ、ヴィルヘルミナ! アレイン千切れるぞ、離せ!」

 さっきから聞こえるギチギチという音の正体が、親友の肩関節だと気づいたスペルモルが、鋭く叫んだ。

 ふたりのヴィルヘルミナはビクッと肩を揺らし、同時に手を離した。

 アレインは床にベチンと音を立てて落ちた。すぐさま身体をクニャとしならせ、自ら座布団(したじき)になった。

「うむ。間に合った。石床は冷たい。「レディは冷やすな」と教わっている。防げて何より」

 青ざめ崩れ落ちたふたりのヴィルヘルミナは、下敷きにしてしまったアレイン(ざぶとん)の言葉を聞くなり、とうとう揃って泣き出した。

 悲痛な声を上げて泣くその姿は、鏡写しのようにそっくりだった。


「…む…。あ。そうか、冷やすな、には続きがあった。「温めろ」とも父さまは言っていた。コートを」

 そこで、はたとアレインは気付く。

「しまった。機械人種(いまのぼく)には体温がない。石床と温度が変わらないかも知れない」


「なるほど。尻が冷たいせいでワンワン泣いているのか…」

 カイザルは離れた通路に潜んだまま、魔法で毛足の長い毛布を出した。

 魔法の毛布はふたりを包み込み…ヴィルヘルミナは長毛種ぬいぐるみ寝袋と化した。

 ふたりまとめて無骨にラッピングされ、驚いたヴィルヘルミナ’Sは、ワンワンからベソベソに勢いが落ち着いてきた。


 カイザルは遠く離れた位置から様子をうかがっている。出てこない。

 アウローラはカイザルの生い立ちを知っている。逃げ潜む理由が分かる。

 他の皆はまったく何も知らないが、揃ってダンディの奇行をごく自然に受け流した。


 ただし拘束状態(ラッピング)は見過ごせない。女子たちは慌てて友人に駆け寄り、皆でせっせと解く。

 ヴィルヘルミナを優しく包み直し、アウローラは告げた。

「まずは、禊を。説明は後ほど」


 アウローラとリンは、ベソベソ’Sを湯殿に連れ込みヒエヒエにした。それからベソベソヒエヒエ’Sをサウナへ連れ込み、ホカホカにした。

 ホカホカしょんぼりになったヴィルヘルミナ’Sを連れ、また皆の元へ戻る。


 談話スペースでは、アンナがおしるこを配っていた。

「おかえり。

 ほい、お飲み。おしるこだよ。白玉はよく噛みなね」


 ヴィルヘルミナは小豆料理が大好物である。

 なんたってアンナのおしるこは美味しい。ぜんざいのようにトロみのある濃厚さ、舌ざわりなめらか。わざわざ別に作った特製こしあんを追加で溶かしこんだ、上澄みすら羊羹を思わせる特別製だ。

 神々しい逸品を前に、ふたりのヴィルヘルミナはお馴染みのピンク色(びじょのいろけぇ)✕2を発して、揃って感嘆のため息をついた。


 レルムがウチワで器を扇ぐも、トロトロのおしるこはなかなか冷めない。

 ヴィルヘルミナ’Sはそっと両手で器を持ち上げ、ゆっくり口をつけた。熱々の飲む羊羹が、舌の上に流れ込む。

 同時にふたりの両目がカッと光り、そのまま一気に顎をあげてあおり()()寸前、素早くレルムが防いだ。

「あっぶな。ほい、スプーン。掬って飲めば安全。おしるこは吸うもんじゃないよ。アンタの場合ラーメンもね」


 食いしん坊(ヴィルヘルミナ)は、ラーメンを大変に気に入った。気に入りすぎて、両目を光らせた呑む掃除機(AIイラストすな)と化した結果、大火傷した。

 止める間も無かった。


 ヴィルヘルミナの特殊魔法は「治癒」。発動させるためには苦痛に共感する必要がある。

 その蛮勇(あぶないくいかたすな)により、火傷の痛みを知ったヴィルヘルミナは、打撲や裂傷、内臓損傷に加え、火傷も治癒できるようになった。

 つまり自分の火傷はすぐ治せた。

 結果的に治せたとしても、目の前で豪快に火傷をしにいかれたら誰でもギョッとする。

 ヒュプシュは泣いたし、リンとアンナは叱った。

 お世話好き夫婦(レルムとアウローラ)は決断した。

 食事に関してのみ、年上(レディ)成人前(こども)と見なす、そう決めてしまったのだ。


 なので、レルムはさっそく「失礼」とおしるこを取り上げた。

 懲りずに液体吸引(のみほす)掃除機(いっぱい)になろうとしていたヴィルヘルミナ’Sは首を振って絶望(イヤイヤ)した。

 絶望の視線(たべたいよぅ)を浴びながら、レルムは熱々をスプーンでかき回す。ほどよく冷ましてから「どうぞ」と器を返した。

 21歳に対し、いらん過保護である。だが、食欲に理性をK.O.されがち21歳にとっては、必要な配慮だった。

 ヴィルヘルミナはありがたい反面、気がひけた。友人(アウローラ)に申し訳ないと様子をうかがい…すぐ拍子抜けした。

 全方位ポンコツ妻が、「レルムがついていれば安心ね」と心から安堵していたからだ。


 彼女は彼女でリンの器をせっせと扇いで冷まそうとしていたし、猫舌チャンは、それを当然と受け入れている。

 アンナはというと、ヒュプシュのおしるこをいちいち「ふーふーあーん」していた。

 ヒュプシュは「あーん」され慣れている。アンナに慣らされたともいう。


 周囲(それら)をみたヴィルヘルミナ’Sは思った。

((信仰対象(アンナ)が…やるのだから…これで良いに決まっているわ…))

 ならば、と目礼でレルムに感謝を伝え、さっそくスプーンで掬う。飲む。白玉を噛みしめる。もっちもち。一滴残らず飲み干す。恍惚のため息は二重唱。

 ふたり分の体質(いろけ)は、玄関ホール全体をラメ入りピンクに染めた。



 「ふたりとも本物?」

「同一人物です。「復元」による…ええと、増えました。ヒュプシュの特殊魔法です」

 全員の視線がヒュプシュに向かった。

「? 使ってないよ? だって発動しないよう条件ちゃんと気を付け…あ」

 ヒュプシュが指折り数え、呻く。

「あわわ心当たりある…っ。中途半端に揃えたまま忘れてた。

 何か初産は時間かかるらしいってアンナと話してて…」

 ヒュプシュは頭を抱えてしまった。

 アンナがパチンと指を鳴らして注目ごと話を引き継いだ。

助産師さん(ヴィルヘルミナ)おちおち眠れないねって。冗談で、ふたりいたら日勤と夜勤で分かれて多少は楽になるかなぁ的な話になったのよ。その時に?」

 アレインは頷いた。

「恐らくは。「復元」がヴィルヘルミナ嬢に作用し、成功したということだろう。奇跡である。とてつもない幸運でもある…無事で、良かった」


 特殊魔法は、この世界において女神だけが使える固有能力だ。

 個性豊かに様々な種類が存在し、発動条件もそれぞれ違う。そして通常の魔法より強烈な効果をもたらす。謎が多い個性なのである。


「復元という特殊魔法は、いかなる文献にも名すら見つからないほど希少な能力だ。

 ただし、いわゆる「本当にあった怪奇現象」という扱い(ジャンル)で、可能性を思わせる事象が記録されている。

 特殊魔法をもつ本人が条件を知らず、気付かず揃い、かつ生物に作用したとすれば。なるほど…だから、ほぼ全てのケースで…、…」

「え。おいちゃん…何? 怖いんだけど、何!?」

 アンナとヒュプシュがひっつきあった。

 そんな夫婦をじ…と見つめたアレインは、一言「…うむ!」と答えた。

「作戦の決行は明日である。各自、やっておきたいことがあれば今日のうちに」

 露骨に話をそらされ、夫婦(アンナとヒュプシュ)は揃って小さく奇声(ぴぇえ)を上げた。

 二度と繰り返すまいぞ、と心に決めた夫婦は、ああだこうだ言い合った結果、「ていうかアウローラに封印してもらえばいいのでは?」に至った。


 夫婦は、女帝セラピーで癒され中のヴィルヘルミナ’Sに寄り添う傾聴士(カウンセラー)のもとに突撃した。

 女子たちはわちゃわちゃはじめた。

 いつもの光景である。


 少し離れた位置で妻を見守る護衛官(レルム)に、アレインが声をかけた。

「レルム卿。実証試験に付き合ってもらいたい。退魔の魔道具だ」

 レルムの穏やかな目が、軍人のそれに切り替わる。静かに答えた。

「はい、閣下」

女帝セラピー…みんなの妹リンちゃんサマが膝にスライディング寝そべりしてくださる時は、いっぱい愛でて良いの合図。サラツヤ金髪を編み込むと、お褒めの言葉を頂ける。

 なお、リンちゃんサマ「を」はべらせる権利を持つのはスペルモルのみ。

 ちなカイザルは用がなければ近寄ってすらもらえない。

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