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真空

あの日から三日後、あの白髪の男が絵に描いていた子を連れてきた。

絵ではわからなかったが、手足はやつれて細く、クロム様より一回りほど小さかった。



「じゃあ、頼むよ。名前はテオだ。」

「はい。」



僕はテオの手をとる。



「本当に俺以外に適任はいなかったのか。」



ダイヤの冷たい声が白髪の男にとぶ。



「君たちにしか頼めない。前にも言ったはずだ。」

「そうか。」



ダイヤはポンと僕の頭を撫でた。

彼はそのまま男を見送らずに、アルクス様の部屋に入っていった。

僕は男を見送ったあと、テオを部屋まで案内した。



「ここが君の部屋だよ。」



テオの部屋の扉を開け、ダイヤと準備をした部屋を見せる。



「城内を案内するから、荷物置いてきて。」



テオは少し大きめの肩掛けカバンを下ろすと、僕のところに戻ってくる。



「夕食まで時間あるけれど、お腹空いてない?」



テオは黙ったまま首を横に振る。

彼は表情も変えなければ、一言も話さない。

緊張しているのだろうか。











テオに城を案内していると、中庭の方からクロム様が走ってくる。



「ニーニャ!」



クロム様は僕の右腕にギュッとしがみつく。

クロム様の様子を見て、テオは少し僕から離れる。



「ニーニャ、遊ぼ。…誰?」

「この子はテオです。僕の弟として、今日からこの城で預かることになりました。」

「ふぅん。」



クロム様は僕に隠れてテオを見る。



「今、彼に城を案内しているんです。クロム様も一緒にどうですか。」

「…。こっち。」



クロム様はテオの袖をガッと掴んで歩き出す。



「ここキッチン、勝手に入っちゃダメなんだよ。」



クロム様は、少し乱暴なやり方だが、テオに城を案内してくれているようだ。

僕は二人の後ろをついていく。












テオに城内を案内していると、あっという間に時間が過ぎてしまった。

中庭でシートを敷いて、おやつのスコーンを食べる。

ダイヤとアルクス様は仕事で忙しいようだ。

テオとクロム様は、だいぶ打ち解けてきたようで、クロム様は楽しそうに話している。




「テオはどこから来たの?」

「わからん、俺どっから来たんやろうな。」



表情は全く変わらないが、テオも話をしてくれる。

テオは聞いたこと無いような言葉で話す。

理解できないわけではないし、クロム様が楽しんでいるからいいだろう。



「なんだか、わからないって悲しいね。」

「まぁ、そうなんかもね。」

「ニーニャは?ニーニャは、いつからこの城にいるの?」

「僕は六年前にダイヤに連れられて、この城に来ました。」

「その前はどこにおったん。」

「西の国の洞窟にいたようです。あとから知りました。」



テオの視線が気になる…。

彼は僕から何らかの情報を抜き取ろうとしているかのように見えた。

何かを怪しむ目、疑いの音。

テオの心拍数がさっきよりも少し上がった気がする。

本当にテオは五歳の獣人の子なのか。

不必要な音が僕の邪魔をする。



「西の国かぁ。僕この国から、まだ出たこと無いよね?」

「産まれてすぐのときに北の国の前まで行ったので、一応この国からは出ていますよ。」

「それ、出たに数えない!」



そんな事を話していると、城の中からオルターさんが中庭に出てきた。



「失礼します。クロム様、そろそろお時間です。」

「やだ、まだ遊ぶ。」

「クロム様、オルターさんを困らせてはいけませんよ。僕達とはまた遊びましょう。」

「テオも、また遊んでくれるの?」

「え、あぁ…ええよ。」



クロム様は、やや不機嫌そうだったが、オルターさんについて行った。



「クロム様はどこ行くんや?」

「最近お勉強を始めたらしいよ。字の読み書きとか。」

「へぇ。」



テオから聞いてきたことなのに、あまり興味のなさそうな返しに違和感が走る。



「なぁ。」

「なに?」



テオの問いかけに、テオの方を振り返る。

テオは僕の服の裾を握っている。



「西の国の洞窟にいたってことは、奴隷としてこの城にきたんやろ。」

「え。」

「自分に嘘ついて、楽しい?」

「嘘って何の。」



テオの目がまっすぐ僕を見る。



「洞窟から来たんが嘘やって言ってる。」

「嘘じゃない。」

「西の国出身で、東の国にいる。そんなやつがこんなにキレイなわけ無いやろ。」

「キレイってどういうこと。」



僕がそういったのとほぼ同時に、テオの顔がサァっと青くなる。

振り返ると、僕の後ろにダイヤが立っていた。

何も音が聞こえなかったから、後ろにいたのがわからなかった。



「ダイヤ。」

「ちゃう…、そんなつもりはなかってん…。」



テオは小さくつぶやきながら、僕から手を離し後ずさる。

ダイヤは僕の肩にポンと手をのせた。

ダイヤから何も聞こえない。

いつもうるさく聞こえる音たちが、全く聞こえなくなってしまった。



「雨が降るらしいぞ。戻っておいで。」



優しいにラッピングされた冷たい声が響く。



「うん、わかった。」



ダイヤは僕の頭を優しく撫でると、また城の中へ戻っていった。

僕は、広げていたシートを片付ける。

テオの顔色が、まだ悪い。

ダイヤが来た瞬間、テオの音が変わってしまった。

まだ、会って間もないけれど、二人は仲が悪いのだろうか。

それともやっぱり…。



「中に入ろう。」



僕はテオの手を引いて城の中に入る。

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