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こぼれ落ちてしまうもの

僕がこの城にきてから、約一ヶ月。

サリーの大きなお腹から、小さな赤ん坊が産まれた。

アルクスと同じ髪、サリーと同じ瞳の色。


小さな王子は、みんなに愛される。

とてもいいことだが、すこし羨ましい気持ちが勝ってしまう。

けれども、ダイヤも先生も僕の母親とは違い、僕のことをかわらず気にかけてくれている。

僕はそれだけで十分だ。


小さな王子はクロムという名前をもらったらしい。

みんなが順番にクロムを抱き上げる。

ダイヤがクロムを抱き上げたときに、すこし腹が立ってしまった。

誰が悪いわけでもないが、なんだか気分が悪い。



「これからよろしくな。クロム。ニーニャも、抱っこするか?」



僕は全力で首を横に振る。



「そうか。たしかに、ちょっと怖いよな。」



ダイヤは、僕に優しく微笑むとクロムをサリーのもとに返す。

すると、ダイヤは僕をヒョイと抱き上げて、僕の頭を彼の方に寄せた。

僕はそれで気分が落ち着いた。












城での生活にも慣れてきた。

紅茶、植物、文字、予定管理。

先生ほどうまくはまだできないけれど、成長している自覚はある。

うまくできると、みんな必ず褒めてくれる。

うまくできるところをもっと見てほしい。もっとダイヤと一緒にいたい。


けれど、ダイヤは平日の昼間に仕事に出かけてしまう。

その時だけ、気が落ちる。

ダイヤは、どのような仕事をしているのだろうか。

前に少し聞いたときは、この城を守っていると言っていたけれど、平日の仕事はこれとは違う気がする。


ある日の夕食終わりに思い切って、ダイヤに聞いてみることにした。



「ねぇ、ダイヤ。平日のお昼間どこに行ってるの?」

「ん、魔法学校だよ。みんなに魔法を教えているんだ。」

「魔法…。僕も使える?」

「使えるぞ。練習すればな。」

「僕も魔法やってみたい。」

「そう…か。じゃあ、少しずつやってみようか。

紅茶も、庭の手入れも覚えが早かったからな。きっとすぐうまくなるぞ。」

「ほんとに?」

「もちろん。」



僕はダイヤの部屋で魔法を習うことになった。



「見た感じ、ニーニャは超属性だな。」

「超属性?」

「獣人、妖精、竜人には、属性という物があって、それに応じた魔法が使える。

他の魔法も使うことはできるが、取得が難しいから属性に合った魔法を練習しようか。」



そう言って、ダイヤは僕の前にある机にペンを置く。



「まずは、これをあの棚の上に移動させるところからだ。見とけよ。」



ダイヤは右手を少し前に出す。



空間(ディメンション)置換(スワップ)



ダイヤが、呪文を唱えるとペンが少し奥にある棚に瞬間移動した。



「すごい…。」

「まずは詠唱ありでやっってみようか。呪文は空間(ディメンション)置換(スワップ)だ。」



ダイヤは元の位置にペンを戻す。

僕はワクワクしながら呪文を唱える。



空間(ディメンション)置換(スワップ)!」



しかし、何も起こらない。



「あれ、どうして。」

「ニーニャ、魔法で大切なのはイメージだ。この魔法は、空間と空間を交換させる魔法だ。

あの棚の上の何も無い空間と、このペンがある空間を交換するっていうイメージを持て。」

「うん。」



僕は二つの空間を頭に浮かべながら、もう一度唱える。



空間(ディメンション)置換(スワップ)。」



すると、ペンが少しだけ違う場所に動く。



「わ!」

「いいね。上出来だ。」



初めてできた喜びと気持ちの高揚で、その日の夜は空間(ディメンション)置換(スワップ)の練習をたくさんした。

その日から、ダイヤと寝る前に魔法の練習することが一日の楽しみの一つとなった。


なるほど、ダイヤはこういう風に魔法を教える仕事をしているのか。














それから、約三年が経った。

僕の身長はダイヤよりも高くなった。ダイヤは、なぜか全く見た目が変わらない。

クロム様も大きく育っていたが、病気があることがわかった。

これを機に、ダイヤは医療免許を更新することを決めた。

昼には学校で勤務、夜は僕の魔法の特訓、空いた時間に更新試験の勉強をしていた。



「大丈夫かな、ダイヤ。」



心配になったので、先生に相談してみた。



「そうですね。私もとても心配です…。

でもあの方は、ああなると誰の言うことも聞いてくれないのでね。」

「前にもこういうことがあったの?」

「はい。この城に来てすぐ、彼は教員免許を取りました。

その時も、あんな感じで一日中部屋にこもって勉強していましたね。」

「どれだけ頑張っていても、試験日に風引いたら、元も子もないよ。僕行ってくる。」

「どこへ?」

「ダイヤのとこ。」



僕は、キッチンによってからダイヤの部屋に向かう。

白湯の入ったポットと、マグカップをトレーに乗せて。


僕はノックをしてから、ダイヤの部屋に入る。



「失礼します。」



ダイヤには届いているのかわからない。



「どうぞ。」



ダイヤが向かっている机の端に、白湯を注いだカップを置く。



「お湯?」

「白湯だよ。紅茶はカフェインがあるでしょ。」

「なるほどな。」



ダイヤはそう言ってカップを手に取り、口をつける。



「少し休んだほうがいいんじゃない?試験が終わるまで、僕の魔法の特訓はいいよ。」

「心配してくれてるのか。優しいな、でも俺は大丈夫だ。

俺の事情で、ニーニャのやりたいことができないのは、あってはいけないことだ。」

「僕は自分のことより、ダイヤが体調を崩さないことが大事。僕のお願い、聞いてくれるよね。」



ダイヤは、少し困ったように答える。



「いいよ。」

「じゃあ、休憩しよう。」



僕はそう言って、ダイヤを庭に連れ出した。









ダイヤの手を引き、連れてきたのは大きな噴水。

噴水の周りには、先生と最近植えた花が風に揺れている。

今日は心地の良い春日和。

二人で水盤に座り、暖かい日に背を向ける。



「頑張るのはいいことだけど、頑張り過ぎは良くないよ。」

「…、そうだな。」



僕の肩にダイヤはもたれかかる。

少しすると、ダイヤは寝てしまったようだ。

僕がそれに気づいたのと、ほぼ同時にアルクス様が、クロム様を連れて庭に来た。

僕は彼らに一礼する。

クロム様はテチテチと僕の方に近づき、僕の足に引っ付いた。



「おっと、ごめんね。クロムはニーニャのことが好きみたいなんだよね。」

「直接何かをした覚えは無いんですが…。」

「ニーニャの優しさが、小さな行動や些細な言葉から溢れているんだよ。」

「そうなのですか。」

「こういうのに子どもは敏感だよ。」



クロム様が僕の足をよじ登ろうとしたので、膝の上に乗せてあげた。

クロム様の嬉しそうな顔を見ると、自然と心がほっこりした。


アルクス様もサリー様もとても優しい。

僕はそのもらった優しさを、時間をかけて彼らに返したい。

それは、もちろんクロム様にも。

僕が彼に与えた優しさを、どこかの誰かに返してほしい。

これは僕のエゴだけど。

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