鏡の僕
車から降りると、そこは大きなお城だった。
「今日からここが君のお家だからね!」
アルクスがニコニコしながら僕に話しかける。
こんなに大きい家…。
その時、僕はアルクスとダイヤが身分がとても高い人だと気づいた。
逆に今までどうして気づかなかったのだろう。
ダイヤと手を繋いで城の中に入ると、たくさんの人が出迎えてくれていた。
「おかえりなさいませ。アルクス様、ダイヤさん。」
「エリオット、風呂沸かしてくれ。夕食の前にこいつを入れておきたい。」
「おや、可愛いですね。お名前は何ですか?」
「ぼ、僕はニーニャ…です。」
「ニーニャさんですか。いい名前ですね、お風呂を沸かしてきますので、少し待っていてくださいね。」
優しい老人、エリオットはそう言うと長い廊下を歩いていった。
あの老人からは甘い匂いがした。
昔食べたみたいな、甘い匂い。なんだろう。
前に家に来た人が持ってきてくれた、あれは誰だったかな。
「いくぞ。」
ダイヤは僕の手を引いてエリオットが歩いていった方に進む。
廊下にはたくさんのドアと置物、絵画があり、窓からは広い庭ときれいな夕日が見えた。
ゆっくり歩いているとバスルームにたどり着いた。
中にはエリオットが先におり、風呂の支度をしてくれていた。
「ダイヤさん、ニーニャさんのお着替えはどうしましょうか。」
「あ、すっかり忘れていたな。俺のじゃ厳しいか…。」
「かなり大きいかと…。」
「アルが小さいときのとか残ってないのか?」
「うぅ…、どうでしょう。確認してきます。」
エリオットはバスルームから出ていってしまった。
僕に合うサイズの服がないようだ。
今まで服を気にしたことがなかったが、風呂に入ったあとにこのボロボロの布をもう一度着るのは気が引ける。
そんな事を考えていると、ダイヤが隣で上着を脱ぎだした。
上着をハンガーにかけると、ワイシャツの袖のボタンを取り、腕まくりをする。
彼の腕には元の肌の色がわからないほどの、入れ墨が入っていた。
僕はそれを見て驚いてしまい、後ろに後退る。
「あぁ、怖がらせちゃったか? ごめんな。」
ダイヤは優しく僕に謝る。
その目はどこか悲しげだった。
彼が、悪いわけではない。きっと彼なりの理由があるのだ。
俺はそっと彼の腕に抱きついた。
「少し、びっくりしただけだから。」
僕がそう言うと、ダイヤは優しく僕の頭を撫でた。
するとダイヤは、僕が着せられていた布を取り除き、風呂に入れた。
こんなに綺麗であたたかい水に触れたのは初めてだった。
「え、獣人って人間用の洗髪剤でいいのかな。」
「いいと思う。前にそうだった気がするから。」
「前?」
「うん。すごく前にこういうことあった…かも。」
「そうか。」
ダイヤは洗髪剤を手に出し、僕の頭をワシャワシャと洗う。
僕が風呂から上がるのとほぼ同時にエリオットがバスルームに帰ってきた。
「アルクス様のお下がりがありました。ステラさんがとっておいてくれたみたいです。」
「よかった。ありがとうな。」
ダイヤはエリオットに礼を言うと、僕に持ってきてもらった服を着せる。
長い間しまわれていたのが、嘘のように綺麗な服だ。
「あとは、この髪だな。エリオットより、ステラのほうがいいかな。」
「そうするのがいいと思いますよ。」
「どうして?」
「少し前にめっちゃ失敗して、前髪ないメイドさんが何人かいるんだよ。」
「え。」
「な、なので、ステラさんに頼みましょう!」
ダイヤがきれいに髪をといて、乾かしてくれた。
僕達はバスルームから出て、キッチンの横にあるメイドや執事の集団部屋の前にやってきた。
ダイヤがノックしてドアを開けると、カタカタとミシンを動かしている、おばあさんがいた。
「ステラ、今いいか?」
「ダイヤさんでしたか。はい、大丈夫ですよ。」
「ニーニャの髪を切ってほしいんだよ。」
「あら、きれいな黒髪ね。できるだけ残して整えましょうか。」
「いいか?」
「うん。お願い…します。」
「じゃあ、たのんだ。」
「はい、お任せください。」
ステラは、奥から木製の椅子持ってくると、それを大きな布の上に乗せた。
その椅子に僕は座り、髪が目に入らないように目を閉じた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
目を覚ますと、僕はソファーに座っていた。
隣にはミシンを動かすステラがいた。
「あら、起きた?疲れていたのね。」
ステラは小さな水晶に話しかけた。
「ダイヤさん、ニーニャちゃん起きましたよ。」
水晶は怪しく光っていたが、遠くにいるダイヤと話しているのはすぐに分かった。
「ダイヤさんすぐに来てくれるからね。」
ステラがそう言うとすぐにノックの音が聞こえた。
開かれたドアの先にいたのはダイヤだった。
「あら、本当にすぐ来た。」
「ステラありがとう。世話かけたな。」
「大丈夫よ。とってもいい子だったからね。」
「いい感じじゃん。」
ダイヤは僕の頭を優しく撫でる。
「そうだ、切ったあとちゃんと見ていなかったわね。」
ステラはそう言うと、少し大きめの板を持ってくる。
自分が映る板だった。
しかし、さっき車の中で映っていたのとは別の僕が映っていた。
整えられたきれいな黒髪に、ふわふわの三角の耳。
ダイヤと同じ色の瞳がよく見える。
「きれいな子ね。」
ステラとダイヤも、板に映った僕を覗き込む。
「これは?」
「これか?鏡だぞ。」
「鏡…。」
僕は鏡に触れる。
「ニーニャ、夕食を食べに行こうか。アルも待っているぞ。」
「いってらっしゃい。」
ダイヤが差し出した手をとる。




