浮遊感
ベルリアルが僕の肩に触れた瞬間、ベルリアルの頭が飛んだ。
円を描くように舞い、地面にゴトッと落ちる。
テオは僕の手を引いて、頭の取れたベルリアルから離す。
「えぇ、そんなこともしちゃうんだ。」
地面に落ちたベルリアルの頭が言葉を発する。
離れた頭から、声がしたので驚いた。
「丸焦げなのに、まだそんな力残ってるんだね。」
ベルリアルは頭の方に歩いていき、頭に手を伸ばした瞬間、テオがベルリアルの頭を遠くに蹴り飛ばした。
テオはダイヤの方を一瞬見たが、その後蹴った頭と反対方向に走っていく。
その後ろを頭のないベルリアルが追ってくる。
「なんや、こいつは。頭ないのに動いてるとか、神とかそんなんやなくて、バケモンやないか!」
「君も同じようなものじゃないか。」
ベルリアルはスっと僕らの前に出て、右腕を広げる。
すると、磁石で引き寄せたようにベルリアルの頭が彼の手元に戻ってきた。
その頭を彼はブロックを積むように簡単に元の位置につけた。
「じゃーん。
さぁて、狐って焼いたら美味しいかな。」
「…。」
ベルリアルはテオが言うように、神と言うよりバケモノ。
こいつとどう戦うか…。
そもそもこんなやつと戦うことができるのだろうか。
そんな時、ふとレンシンから貰った紙を思い出した。
強く握ってしまっていて、しおれていたが、中の文字は読める状態だった。
紙に書いてあるのは古代文字。
僕は迷いもなくその文字を呟いた。
「黒桜の主、ミーフリート、我に力を貸したまへ。」
僕がつぶやくと、桜吹雪が舞う。
見たことがないくらい、黒く深い色の桜は魔法陣のようなものを成形した。
そこから光か溢れ、出てきたのはレンシンだった。
「ニーニャ、どういうことや。」
「レンシン…。」
全身が包帯で巻かれたレンシンは、ベルリアルの方にヨロヨロと歩いていく。
「お前は、昨日俺が丸焦げにしたやつじゃないか。」
ベルリアルはそう言って、レンシンの肩を軽く押す。
すると、レンシンは後ろにバタリと倒れてしまった。
「レンシン!」
僕は倒れたレンシンの傍によったが、そこにあったのはペラペラの包帯だけだった。
「レンシンは…。」
「ここだよ。」
レンシンは、ベルリアルの後ろにおり、剣を彼の首元にかけていた。
レンシンの皮膚はただれてしまっていて、頬の当たりは骨が顔を出していた。
「魔女め。」
「正確には、魔女じゃないよ。」
レンシンは、ベルリアルの首をスパンッと切った。
「こいつ、首切ってもあかんかったで。」
レンシンはコクコクと頷く。
ベルリアルの首が、また地面に落ちた。
「今日はこういう日なのか?
そこの狐が言った通り、俺の頭を切り落としても無駄だって。」
ベルリアルは、口を開けて笑っていたが、何かに気づいたようで笑うのをやめた。
「お前、何したんだ。」
「少し、魔力を分けてもらおうと思って。」
レンシンがベルリアルの体を指さす。
ベルリアルの体は、元々首があったところから、木の幹が生えていた。
その木は黒い桜の木。
この木が生えているから、ベルリアルの体は動かないのだろうか。
魔力を分けてもらうと言っていたが、どういうことだろうか。
レンシンの方を見ると、彼のただれた皮膚は、元の綺麗な白い肌に戻っていた。
「どういうこと。」
「魔力を貰っただけ。」
「あんな木1本だけで俺の体を乗っ取れると思ったのか!」
「できるよ。」
レンシンがパチンと指を鳴らすと、木の生えたベルリアルの体が起き上がった。
「木の根が、この体全体にしっかりと広がっている。
つまり、この木は僕のだから、この体も僕のものになったって事。」
「言っている意味が全くわからん。」
「それでいいんだよ。」
レンシンはベルリアルの体に指示し、その体はベルリアルの頭に向かって炎の弾を撃った。
頭は丸焦げになり、後には何も残らなかった。
大きな魔物も、ベルリアルが消えたからか、灰のように散ってしまった。
「危なかった…。」
レンシンは崩れたように、その場に座り込んだ。
僕も安心した途端、奥にいた魔人がレンシンの頭を目掛けて、大きなハンマーを振り下ろそうとする。
それをソラさんが受け止め、テオが魔人を蹴り飛ばす。
「魔人と龍人の国だと聞いていたのに、まだ魔女がいるのか!」
「まだ…、前に来た時もいたってこと?」
「さあな!お前には教えてやらない。」
魔人は僕たちのことを睨む。
「気ぃつけや。あいつ姿変わっとるけど、中身はベルリアルやで。」
「え!? 今、丸焦げになったはずじゃ…!」
「どういう原理か分からんけど、魔力の流れ方や強さ的にあいつや。」
「狐くんは凄いですね。そうだよ、あの体は単なる器だからな。」
ベルリアルはバカにするようにテオに話す。
ベルリアルは、中身が消滅してしまう前に、器となる体を乗り換えたということなのだろうか。
「さぁ、第2ラウンドといこうか。」
ベルリアルは、ハンマーを構える。
すると、一筋の雷がベルリアルを撃ち抜く。
うつ伏せで倒れたベルリアルに、僕の後ろから近づいていく足音が聞こえる。
聞きなれた、この足音はダイヤのものだ。
ダイヤが僕の横を通り過ぎた時、ダイヤではない他の誰かの音がした。
もしかすると、ダイヤも器なのかもしれないと思った。
時々、違う音や音がしない時はダイヤではない誰かが、ダイヤの体を器として利用しているのかもしれない。
そうだとしても、一体誰が使っているのだろうか。
「第2ラウンドなんてものはないぞ。」
ダイヤが前に出した手を、ぐっと握ると、ベルリアルが入った魔人は、クシャッと潰れてしまった。
森の茂みでカサカサと音がした。
もしかすると、森の小さな動物に中身を移したのかもしれない。
ダイヤも僕と同じ方向を見ていたから、同じ考えかもしれない。




