最重要任務
ダイヤは小さなナイフで何度も魔物を切りつけているが、魔物の動きは鈍らない。
それに、魔物の傷は少し時間が経つと塞がってしまう。
ダイヤの息が上がり、額に汗がふきだしていた。
「あ、もう疲れちゃったか?人間にしては頑張ってると思うぞ。まぁ、純血だからノーマル人間じゃないけど。」
離れたところで眺めていたベルリアルがドンドン近づいてくる。
僕らの近くまで来ると、ベルリアルはふわっと浮かび上がった。
「こいつと戦いながら、周りの状況を気にしているなんて…。素晴らしいね。
こいつに太刀打ちできたのは、君と君に似た黒髪の少年だけだ。俺は黒髪に何か縁があるのかも。」
ダイヤは箒の上に立つと、フゥーっと息を吐いた。
「テオ、ライガー。死守だ。」
ダイヤはそう言うと、箒を下に向かって蹴った。
箒は僕を乗せたまま降下し、地面に当たりそうになった瞬間、テオが僕を受け止めた。
テオはそのまま、ダイヤとは逆方向に走っていく。
「テオ、戻って!」
「あかん。それは無理や。」
テオが走っていった先には、離れていっていたはずのベルリアルがいた。
テオの道を塞ぐようにベルリアルは立つ。
テオがベルリアルを見て止まり、ダイヤの箒がベルリアルに向かって飛ぶ。
ベルリアルが箒に視線をそらした瞬間、僕達とベルリアルの間に三メートルほどの氷の壁ができた。
少し上を見上げるといたのは、ダイヤ。
ダイヤから聞こえてきたのは、また別人のような音。
「お前の相手は俺だ。」
「へぇ。」
ベルリアルの姿は見えないが、ダイヤに視線が向いているようだ。
テオは氷の壁を左側に、再び走り出した。
後ろから爆発音や、魔法同士がぶつかる音が聞こえる。
ダイヤの箒はテオを急かすように、背中を押す。
「僕降りるよ、自分で走れる。」
「そのまま戻ってもらったら困るんや。」
テオが僕にそう返したとき、僕は一瞬だけ自分とは違う視点の世界が見えた。
テオの首のあたりに、ベルリアルの魔法が当たってしまう光景。
視点の手前には、黄色い花が見えていた。
いつの間にか、自分の視点に戻っていた。
その時すぐ、目に入ったのはさっきの黄色い花。
あの花を通り過ぎた頃に、ベルリアルの魔法が飛んでくる。
僕は、テオの首に両手を伸ばし、思いっきり自分の方に倒した。
そのままテオは前に倒れ、僕達の上を大きな魔法の弾が通り過ぎていった。
「危ない…。」
僕が頭を上げると、ダイヤの箒が僕の頭を叩く。
金具のついた部分で、叩かれてしまい、痛みに耐えるために頭を埋めると、僕の上をまた魔法の弾が通り過ぎていった。
これは僕も予想していなかった。
これでわかったのは、僕はどこかのタイミングの一部の未来が見えるということ。
三人でパンケーキを食べる未来、テオに魔法の弾が当たってしまう未来。
偶然かもしれないが、どれも実際に起ったこと、もしくは起こりそうになったことだ。
けれども、僕に魔法の弾が当たることは見えていなかった。
僕が行動し、テオに魔法の弾が当たらなかったことで、未来が変わったのだろうか。
テオが僕の手を引いて、僕を立たせ、そのまま走り出した。
テオはどこまで走るのだろうか。
それに、ダイヤが言っていたライガーとは、一体誰なのだろうか。
考え事をしながら、手を引かれるままに進んでいると、この島に渡るときに通った橋が見えてきた。
この島から離れるつもりなんだろう。
森を抜けようとした瞬間、何かが僕らの眼の前に降ってきた。
衝撃で割れた地面の中に、倒れていたのはダイヤだった。
驚いた僕らは後ずさってしまった。
体の八割が焼けただれてしまっていて、尖った耳がなければ、誰か判別できなかっただろう。
仰向けになったダイヤの頬には、ガラスのようなものが付いていた。
多分、魔法で張ったバリアであろう。
ベルリアルの魔法はバリアも貫通してしまうようだ。
倒れたダイヤをめがけて、大きな魔物が、足を下ろそうとしている。
ベルリアルもいつの間にか、僕らの後ろを追っていたようだ。
でも、僕にはベルリアルの足音以外に、重く厚い足音が聞こえていた。
ダイヤが踏み潰される前に、ソラが魔物の足を食い止めたのだ。
「ダイヤ起きて!踏み潰されちゃうよ!」
ソラがダイヤに呼びかけるが、ダイヤの目は開かない。
魔物の重さに耐えているためか、ソラは震える声でベルリアルに話しかける。
「ベルリアル、宝を渡す。宝の所有者は僕だ。」
ソラがそう言うと、魔物は足をどかした。
ベルリアルも、僕らのすぐ後ろまで近づいていた。
「そうか、所有者だったのか。なら話は早い。
その宝を俺に渡しな。」
「僕の城にある。取りに戻るから、少し待っていてくれないか。」
「いいぞ、待ってやろう。こいつとそいつは置いていけよ。」
「え。」
ベルリアルが指さしたのは、僕とダイヤ。
ソラさんは、僕らを連れ帰り、体制を立て直すつもりだったのだろう。
「お前が、宝を持って戻ってこれば、こいつら二人とお前の息子を返してやろう。」
ベルリアルはそう言って、僕の肩に触れた。




