天の導き
橋を渡り、森にたどり着く。
どの木も高く太い。
まるで、何かを隠しているかのようだった。
どんどんと進んでいくと、立っていた木がバタバタと倒れている。
そしてさらに向こうに、ソラさんの大きなしっぽが見えた。
その奥では、なんとも言い表せない禍々しい魔力の塊とダイヤが見えた。
あの魔力の塊が、ベルリアルなのだろうか。
この辺りには、緊張と不安の音が敷き詰められている。
ベルリアルはたくさんのカクーダを連れていたが、ダイヤは一人。
また、ダイヤの周りの茂みにはたくさんの魔人が潜んでいるのが僕にはわかった。
数で勝負しようとしているのだろう。
僕に気づいたのか、ソラさんが手招きをする。
僕は、静かに彼の方へと駆け寄った。
「これは、酷いね。」
「ダイヤは大丈夫なんでしょうか。」
「分からない。」
ソラさんの表情が曇る。
ダイヤの方に視線を送ると、少し口が動いていた。
耳を澄ますと、声が聞こえてくる。
「龍人と宝は交換だ。宝を渡せ。」
「それは出来ない。」
「お前は、頭の固い奴だなぁ。昔この国にいたあいつによく似ている。お前と同じ黒い髪だった。」
「そうか。」
「お前にもう用はないぞ。宝を持ってないなら、とっとと帰るんだな。それとも…。」
ベルリアルは、カクーダ達に攻撃の合図をした。
潜んでいた魔人達もその合図に合わせて一斉にダイヤに襲いかかる。
ダイヤは、雷の魔法で何十人かを撃ち落とし、氷魔法で何人かを氷漬けにした。
近くまで寄ってきたカクーダの剣士の攻撃を、バリアで受け止め、水魔法で遠くに飛ばした。
ダイヤと手下たちが戦っているのをベルリアルは上から見ていた。
そのベルリアルにいくつかの炎の弾が飛ぶ。
炎の弾はベルリアルに弾かれてしまった。
「なんだ、お前は。」
ベルリアルの視線の先にいたのはテオだった。
炎の弾を撃ったのもきっと彼だろう。
テオの姿を確認したベルリアルは急に機嫌が悪くなったようだ。
ベルリアルが纏っていた音が変化する。
怒りの音だ。
「また、まただ。またアイツが俺の邪魔をする!
俺が力を持つことが、そんなに恐ろしいのか!」
「俺は仕事で来ただけや。アイツの思うてることなんて知らん。」
「アイツの天狐を、また見るとはな!
お前を、塵にしてやる。」
「ええよ、別に。俺は出来損ないの捨て駒やからな。」
捨て駒…。
その言葉に何か引っかかった。
テオは、自分の死は軽いものだと思っているのだ。
でも、それは違う。
彼は僕のたった一人の弟だからだ。
ベルリアルは、テオに向かって魔法を撃つ準備をしている。
ダイヤもそれに気づいているようだが、大量のカクーダと魔人が彼の邪魔をする。
僕は、恐怖と緊張で体が動かなかった。
もう、ダメかもしれない。
そう思った時、ソラさんが動き出した。
魔法が撃たれ、テオに届くギリギリのところで、彼はテオを抱えて魔法を避けたのだ。
「龍人か。」
二人の無事が確認できると、僕はホッとした。
「どいつもこいつも、俺の邪魔ばかり。
このベルリアル・タフィーを怒らせたことを後悔させてやる。」
そういうと、彼のマントの中から、森の木よりも大きな魔人…。
いや、魔物が出てきた。
大きな口に鋭い歯。赤い目に鋭い爪。
大きな魔物にその場にいるみんなが驚いた様子だった。
魔物は周りの木や地面をどんどん壊していく。
カクーダの人達は驚いて、逃げ出してしまったようだ。
「もう一人そこにいるな。」
ベルリアルと目が合った。
ダイヤの顔が強ばる。
周りに群がってきた魔人を、ダイヤは剣で切り倒した。
その後すぐに、僕とベルリアルの間に入った。
「こいつは関係ない。」
「それはどうだ?さっきまでの余裕さが嘘みたいだぞ。」
ベルリアルの言うように、ダイヤの緊張の音はだんだん大きくなっている。
「こいつに触れた瞬間、お前の頭を潰す。」
「そんなこと、できないくせに。」
ベルリアルはニチャっと笑う。
後ろから足音が聞こえ、どんどん近づいてくる。
僕が振り返ると、そこに居たのは人だったもの。
頭が絞ったレモンのようにしおれ、地面に倒れている。
「へぇ、そいつのためなら、そんなことできちゃうんだ。」
ベルリアルがそういうと、ダイヤの音が変わった。
ダイヤのようでどこか違う音。
ダイヤはベルリアルを睨みつける。
「なるほど、その魔力量にも納得だな。」
ベルリアルの後ろから大きな魔物がドシンドシンと音を立てて僕たちに近づく。
魔物は僕たちを地面に押し付けようと、手を伸ばす。
ダイヤは、僕を抱えて箒に乗り、魔物の指の間から抜け出した。
魔物の動きは速く、的確に僕たちを狙ってくる。
ダイヤは箒に乗りながら、魔物に向かって魔法を撃つが、全て弾かれてしまっているように見える。
魔法が効かないのだろうか。
「そのままだと、魔力切れで終わってしまうぞ。」
ベルリアルは煽るように口角を上げる。
その時、ダイヤの音がまた変わる。
変わるというか、元に戻った感覚だ。
ダイヤは、腰のベルトから小さなナイフを取り出す。
その後、箒で魔物の方に突っ込み、ナイフで切りつける。
魔法よりかは効いているようだが、小さなナイフじゃ少しの傷をつけるのが精一杯のようだ。
ナイフと魔物が当たる瞬間の音から、魔物の体が鎧よりも硬いことがわかった。




