深海
温泉街がある島から、城がある島に帰ってきた。
城へ向かっている道中、なんだか街が騒がしい。
車に乗っているからか、外の人の声がよく聞こえない。
「なんか、あったんかな?」
「僕がこの島を出る前は、いつも通りだったんですが…。どうしたのでしょう。」
コクエンさんは城に向かって、車を走らせる。
城に着いたが、街と同じように城内が騒がしい。
「ダイヤ!」
「ソラ、どうしたんだ。」
ソラさんの顔は青白く、焦っている様子だった。
「ジンとレンシンがいないんだ。」
「落ち着け、大丈夫だ。最後に見たのはいつだ?」
「昼頃に二人の部屋にいるのは見た。
夕食だから、城の者が呼びに行った時にいないことに気づいた。
この城にはいないし、窓が空いていたと城の者が言っていた。」
「わかった。探しに行ってくる。
ニーニャ、テオ。必ず二人一緒にいろ。この城から出るなよ。」
「わかった。」
ダイヤの目は、いつもより強く僕を見た。
ダイヤはさっき入ってきたドアから、城を出て行ってしまった。
「何が起きてるんや?
もしかして、前のジンを狙ってたやつらの仕業なんやろか…。」
「その可能性はありますよね。」
「心配や…。」
ダイヤが出ていったあとを、ソラさんが見つめる。
彼の背中は大きいが、寂しく見える。
「ソラさん、大丈夫ですか。」
「うん、大丈夫。ダイヤ取っちゃってごめんね。せっかくの楽しい旅行なのに…。」
ソラさんの目にはうっすら涙が浮かんでいる。
「たしかに、旅行は大切ですが、友達も大切です。」
「せやな、センリさんも探しに行ったん?」
「センリも軍を連れて、二人を探しに行ったよ。
僕も情報を集めないと。…コクエン、二人を部屋までたのんだよ。」
「はい。」
ソラさんは自室に戻り、僕達はコクエンさんと部屋に戻った。
日は完全に落ち、月が顔を見せた。
ダイヤも、センリさんもまだ、戻ってきていない。
時間が経つほど、僕の不安も増していく。
「ダイヤ、おそいなぁ。」
「そうだね。」
僕達が小さく口を開いたとき、廊下からかすかな物音がした。
テオもそれに気づいたようで、扉の隙間から廊下を覗いた。
廊下にいたのは、あきらかに軍でも、城の人でもない真っ黒の格好をした人が数人。
僕は思わず、息をのむ。
テオは僕を扉から離し、扉を静かに閉める。
「ジンとレンシンがおらんのは、アイツらが原因ちゃうか。」
「そうだと思う。」
「ここが見つかる前に、どうにかしやんと。」
「窓はどうだろ。」
「この城から出たあかんって言われたし…。」
「これは、例外だよ。」
その時、僕らの部屋の扉が、ガチャリと音を立てて開いた。
「あいつだ!あいつが俺のことを殴ったんだ!」
集団の中の一人が、僕の方を指さした。
「行くよ!」
「え、」
僕はテオの手を引っ張り、窓から城の外に出た。
僕達がいたのは二階の部屋。
着地したときに、少し足がジーンとした。
さっきの人たちも、窓から僕達のことを追ってきている。
僕達は、城下町の方に走り出した。
城下町には昼間ほど人がいなかった。
街灯がポツポツついている、長い一本道をテオと走り続ける。
月が反射した海が見えてきてしまった。
海は闇に沈んだように暗い。
「行き止まり…。」
「ニーニャは泳げるんか?」
「テオと一緒。」
「なるほどな。」
完全に追いつかれてしまった。
「お前のその顔、原型が無くなるまで殴ってやるよ。」
「? お前珍しい目の色をしてるな。こいつはくり抜いて売れば、いい値で買い取ってくれそうだ。」
「狐の方も尾が五つ。…尾が五つ。」
その言葉に真っ黒な人達が、全員驚いたような顔になる。
「狐が優先だ。」
「そうだな、確実に殺せ。」
真っ黒な人たちは、銃を取り出す。
「ニーニャ、俺のこと…信じられるか?」
「もちろん。」
「了解や。」
テオは、僕のことを海に突き落とした。
彼は僕の話を聞いていなかったのだろうか。
僕が海に落ちたのと、ほぼ同時にテオが海に落ちてきた。
赤いベールをまとって。
海に落ちた衝撃で、銃声が聞こえなかったのか。
冷たく暗い闇が、僕達二人を沈める。
息が持たないから、上にあがりたいのに。
その時、誰かが僕を上にあげてくれた。
僕は陸から少し離れたところに沈んでいた。
さっきの真っ黒な人たちは、暗闇の中を探すのを諦めたのか、城の方へ戻っていた。
「君、大丈夫?」
僕を助けてくれた人が話しかける。
「テオが…、弟も落ちたんだ。怪我をしている。」
「弟?わかった。」
暗くて、顔が見えなかったが、レンシンだったのだろうか。
声が少し似ていた。
さっきは沈んだのに、今僕の体はふわりと浮いている。
まるで、浮かされているよう。
僕から離れたところで、ボコボコと音が聞こえる。
海の中から、テオとさっきの人が現れた。
「弟ってこの子?」
「そう!」
「行こう、夜は冷えてるから危ないよ。」
僕達を助けてくれた人は、陸に向かって泳ぎ始めた。
「助けてくれて、ありがとう。」
「大丈夫だよ。でも、弟くんの傷が深いから急がないと。」
「テオは、まだ生きてる?」
「まだ、大丈夫。」




