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贈り物

車が止まった。

車の荷台にかかっていた布が取られる。

荷台は檻のようになっていて、周りにはたくさん人がいた。

ここはどこなのだろう。僕がいた村よりずっと都会だ。


男たちが大声を出して、人を集めている。

あの洞窟に入った後から耳の調子が悪い。


人が男に金を渡して、車の中の人を連れて行った。

一人、また一人と車の中から連れ出されていった。

彼らはこの先どうなるのだろう。仲が良かったわけでも、話したことがあるわけでもないが、気になってしまう。







とうとう僕が最後の一人になってしまった。余ったのほうが正しいのかな?

日が落ちかけ、空はきれいな茜色に染まっていた。

連れて行かれてしまった人のことも気になるが、余ってしまった僕はどうなるのだろう。


ぼんやりと遠くの空を見ていると、僕の目に一人の少年が止まった。

少し小走りでこちらによってくる。

僕より少し年上の少年は俺の顔を覗き込む。



「君の目はとてもきれいだ。」



少年の青い目はじんわりと紫色に変わる。



「おい、坊主。金がねぇと、そいつはやれないぞ。」



男が少年に話しかける。

小柄な少年はあの大男には勝てない。

しかし、この少年は僕から目を離さない。



「おい、聞いてんのか。」



男が少年に手を伸ばすと、その手をパッと誰かが掴む。

見上げると、背の高い金髪の男性がいた。



「すみません、うちのものが。」

「あ、あ、アルクス様!申し訳ございません!」



あの大きな男が小さくなる。もちろん物理的にではない。

この金髪の男は何者なのだろう。

あの大きな男が振り下ろした拳を片手で受止めた。



「欲しいのかい?」



金髪の男の問いに少年はこくりと頷く。

すると、金髪の男の後ろから白髪の老人が現れた。



「では、こちらを。」



老人が男に金を渡すと、男は檻の戸を開ける。



「ほら出ろ。」



男が僕を引っ張り出した。

僕の前にさっきの少年が立った。

少年は僕の手首に着いているものに触れる。

すると手首についているものは簡単に外れてしまった。僕自身で外そうとしても全く外れなかったはずだ。


少年は、足首に着いているものを外そうとして、かがんだ。

足首に着いているものが外れたら、走って遠くに逃げようと思っていた。

しかし、そんな体力はもうどこにも残っていない。

今立っているのが精一杯な僕には、少年が足首に着いているものを外すところを見ることしか出来なかった。


カランと音をたてて足首に着いているものがはずれた。

すると、少年は僕を優しく抱き上げて檻とは反対方向に歩き出す。



「少年、奴隷を買ったんじゃないのか?」



男が僕を抱き上げた少年に話しかける。



「奴隷?俺はこいつを買ったんだよ。この猫をね。」



猫?僕のことだろうか。

どうやら僕は奴隷として売り出されていたようだ。


少年に抱き上げられ、着いた先は大きな車だった。

僕と少年、金髪の男は後ろに座り、老人は前の運転席に座った。



「急に車を降りたから、何事かと思ったよ。」



金髪の男がにこやかに話す。



「こいつの目が綺麗だったもんでな。」

「たしかに綺麗だね。あまり見ない色だ。」



金髪の男が俺の目をのぞき込む。

俺は思わず目を逸らしてしまった。

俺の頭を優しく少年が撫でた。

彼の手はとても冷たかったが、僕には暖かく感じた。

青かった彼の目は完全に紫に変わっていた。



「あ、ダイヤその目。」

「こっちのほうが俺の好みだからな。」

「おそろい、いいじゃん。」



金髪の男が頬をぷくぅっとふくらませる。



「お前も変えてやろうか?」

「いや、いいよ。僕はこれが気に入ってるんだよ。」



金髪の男は上着の内ポケットから何かを取り出し、覗き込む。

僕はその時、板に彼の顔が映ったのを見て驚いた。

彼の持つ板をジロジロ見ていると、金髪の男はその板を僕にも見せてくれた。

板に映っていたのは黒い髪に三角の耳、そして少年と同じ色の目をした薄汚れた子供。

そう、僕はこの時初めて自分の姿を視認した。この板に映っているのは僕だ。



「そういえば、君、名前なんて言うの?僕はアルクスだよ。」

「なまえ…?」



久しぶりに出した声はひどくかすれていた。

僕の名前ってなんだろう。僕の名前は…、



「…ない。名前、ない。」

「ない君っていうの?」

「違うだろ、バカ。名前が無いって言ってんだよ。」



少年が呆れたように言う。

二人を困らせてしまったようだ。



「じゃあ、名前どうしようか。」

「アルが考えろよ。得意だろ?」

「君の子なんだからダイヤが考えなよ。」



少年の名前はダイヤと言うらしい。

アルクスに言われると、ダイヤも納得したのか眉間にシワを寄せて考え始める。



「ねぇ、君はどこから来たの?」

「えっと…、洞窟みたいなところ、その前は村にいた。」

「洞窟…あぁ西の国のあそこか。」

「ダイヤ知ってるの?」

「何年も前から石炭と鉄をとって儲けていた西の国の会社があっただろ?

あそこが倒産したんだよ。そりゃ、石炭も鉄も取りゃ無くなるわな。」

「なるほど。そんなことが…。」

「お前もその洞窟で働かされていたんだろ。」



僕はゆっくりと縦に首を振る。

すると、アルクスが僕をぎゅっとした。



「頑張ったね。」



彼のその言葉で僕の目は熱くなった。

僕もアルクスをぎゅっとした。



「危ないぞ、ちゃんと座れ。」

「もう!君にはココロが無いのか!」



アルクスの目からはポロポロ涙が溢れている。

ダイヤは聞いていないのか、また眉間にシワを寄せて僕の名前を考える。










しばらくすると、車が止まり、前に乗っていた老人が車から降りる。

老人は後ろのあるアルクス側のドアを開ける。



「決めた。」

「え、」

「お前の名前。」

「何にするの?」

「ニーニャ。」

「ニーニャ、いいね。君はどう?」

「…嬉しい。名前、ニーニャ!」

「お前に夢と希望を…な。」



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