霞む
次の日、朝からコクエンさんに車で送ってもらい、温泉街にやってきた。
初めて見る温泉に高揚感を覚える。
「おぉ!すごいなぁ!」
「この島のほうが気温が低いな。」
「私は一度戻りますので、お帰りになるときに、また連絡をください。」
「わかった。ありがとうな。」
コクエンさんは車を走らせて、もと来た道を戻っていった。
「じゃあ、行こうか。」
僕達は、島に入ってすぐのところで温泉券を買うと、島の中心に向かって歩き出した。
ここで温泉券を買うと、この島の温泉に自由に入れるらしい。
レンシンに、この券のことを聞いておいて良かった。
僕達は島の真ん中にある一番大きなお風呂やさんに着いた。
「この建物も大きいね。」
「温泉独特の匂いがする。」
「テオは温泉初めてじゃないの?」
「俺が東に来る前にいたとこは、温泉があったからな。」
僕達は、中に入ってお風呂に浸かる。
「あったかい。」
「そういえば、前にここに来たときも、ここはちょうど温泉があったな。
こんなに立派な建物はなかったけど。」
「そうなの?」
「池みたいに、森の中にいくつかあったんだよ。
センリが言うには、井戸を掘ろうとしていたらしいぞ。」
「井戸?」
「生活に必要な水を得るために、地下水を汲み上げる設備だ。」
「井戸のために地面掘ってたら、温泉を掘り当ててもうてんな。」
「そういうこと。」
「…そういえば、ダイヤのそれって入れ墨やないんやね。」
「入れ墨じゃないぞ。こういう肌なんだよ。」
そういうダイヤの顔が、少し寂しそうに見えた。
僕は、手首のあたりまで真っ黒な模様が入った、ダイヤの左腕をギュッと抱きしめる。
その時、初めて近くでダイヤの腕を見た。
ダイヤの腕の黒い模様は、全て何らかの細かい記号で形成されていた。
「どうした?のぼせちゃったか?」
「ううん、大丈夫。」
ダイヤは僕の頭を優しく撫でると、彼は立ち上がった。
「そろそろ上がろうかな。お前らはゆっくりしとけ。」
「うん。」
僕は脱衣所の方に向かう、ダイヤの姿を眺めた。
テオが僕の方に寄ってくる。
「なんかあったん?」
「ダイヤのあの黒い模様、初めてちゃんと見た。」
「? どういうことや。」
「あれ、全部記号みたいな物が集合して、模様になってた。でも…、」
「でも?」
「記号というより、文字?」
「ニーニャ読み書きできるやろ?」
「そうだけど、僕が知っているトヤヘリノで使われている文字じゃない。」
「ダイヤの故郷の文字とか?」
「その可能性はある。」
「でも、ダイヤの故郷なんて知らんしなぁ。」
「…。」
僕はテオの言葉を聞いたとき、とある言葉を思い出した。
「テオ、自分に嘘ついて楽しいの?」
「え、…何のことや。」
僕はテオの瞳を見つめる。
テオも僕の目を見ていた。
「ううん、テオが嘘ついてるように聞こえただけ。」
「そうか。」
僕が風呂から上がろうと、立ち上がると、テオの声が聞こえる。
「ニーニャ、ごめんな。ニーニャが俺のこと、どんだけ信用してても、俺はお前に言えへんこといっぱいある。
ニーニャのこと嫌いなわけやないねん。」
これは嘘じゃない。
僕はテオを信用しているし、テオは僕のことをよく思っていてくれている。
でも、僕には何かが足りない。
その何かが無いと、テオは僕に何も教えてくれていないだろう。
でも、さっきの会話、”ダイヤの故郷を知らない”は嘘だけど、”ダイヤの故郷の文字”というのは嘘ではないと感じた。
この文字を解明すれば、テオは僕に何かを教えてくれるかもしれない。
僕が風呂から上がると、テオもそれについてきた。
脱衣所にはダイヤが、送風機の前に座っていた。
「おかえり、アイス食べな。」
ダイヤは僕に硬貨を渡した。
二人分には、少し多いような気がしたが、冷凍庫からアイスを取り出し、金銭箱に硬貨を入れた。
テオもアイスを取ったので、その分の額の硬貨を入れた。
送風機の前に座る、ダイヤに余った硬貨を返し、アイスの袋を開ける。
火照った体内に、アイスの冷たさが染み渡る。
それと同時に、この甘さが僕とテオの間にある壁をぼかしてくれているようだ。
アイスを食べ終え、ダイヤに髪を乾かしてもらってから、大きなお風呂やさんを出た。
周りにある屋台やごはん屋さんで、昼食を済ませ、他のお風呂やさんにも行っていると、いつの間にか空は茜色に染まっていた。
「そろそろ戻るか。」
「うん。」
ダイヤがコクエンさんに連絡している間に、テオとお土産を見ていた。
お土産を見ていると、クロム様のことを思い出す。
ララや義兄弟に、いじめられていないかがとても心配なのだ。
リリィさんや、オルターさんがいるから大丈夫だと、自分の心を落ち着かせる。
先生やステラさんにも、お土産を買って、迎えに来てくれたコクエンさんの車に乗り込む。




