猫と狐と妖精
次の日、ミントグリーンの髪をした小さな少女が城にやってきた。
「リリィーだ。ここトヤヘリノの妖精王。」
「みんな、よろしくね。」
「主にクロムとアリスを頼む。」
「わかったわ。クロムちゃん、もう大丈夫だからね。」
クロム様はコクコクと頷く。
「アルちゃんは、いったいどうしちゃったのかしら。」
「外部の奴らに何か言われたんだろ。俺が何を言っても聞かなかったから、あいつもだいぶ思い詰めてたんだな。
そういうことだが、ニーニャとテオはエリオットの家に行ってもらおうかと思うんだが。」
「え、先生のところ…。」
「俺はここに残る。」
「テオが残るなら、僕も。」
「おいおい、夏季休暇中とはいえ、俺はずっとこの城にいられる訳じゃないんだぞ。」
「この子達の気持ちを尊重してあげましょうよ。それに、この二人はダイヤが思っているよりも弱くないわよ。」
「…はぁ、気をつけるんだぞ。常に二人で行動、これが条件だ。」
「はい!」
僕とテオは返事をする。
リリィーさんが来てから、城の様子が少し変わった。
小さな読み書きのできる賢い妖精たちが、城の後ろにある妖精の森から招集され、城のあちこちを見張っている。
ララやその子ども達が僕らにいたづらをすると、ダイヤの元に報告され、すぐに駆けつけてくれる。
そのこともあって、僕らに対する嫌がらせはほとんど無くなった。
そんなある日、ララの子ども達が妖精を捕まえていじめているのを見かけた。
「お前ら、それ妖精やで。」
「それがどうしたんだよ。」
ノクスがテオに近づく。
「お前ら、前から思ってたけどキモイんだよ。特にお前!変な目の色しやがって!」
ノクスは僕を指さし、どんどん近づいてくる。
彼は何かを手に持っていた。
拳くらいの大きさの岩だ。
岩を持った手が僕の顔に向かってくる。
びっくりして、動けなくなってしまった時、僕とノクスの間にテオが入った。
岩は、テオの頭に当たってしまったのだ。
血を流し、テオはその場にうずくまる。
その時、僕の中で何かがプツンと切れた。
気がついたその時には、僕はノクスの頭を掴んで床に叩きつけていた。
そのことに怒ったのか、フェルが僕に何かを言いながら近づいてくる。
いつもは色んな音がよく聞こえるはずなのに、テオの血の匂いで今は何も聞こえない。
ルゥがテオの方に向かっている、手に持っているのはハサミ。
そのハサミを取り上げて、彼女の目を潰そうとして…その後どうなったんだっけ?
テオが僕を呼ぶ声で気がついた。
僕はフェルの首を絞めていた。
僕の隣には、頭から血を流し、目に涙をためているテオ。
僕はフェルから手を離す。
何が起こったのか大体理解した。
騒ぎを聞きつけたのか、ララが上の階から急いで降りてきた。
「何やってるのよ!」
僕の足元に倒れたフェルのところに、ララが駆け寄ってきた。
僕の後ろにはノクスとルゥがおり、少し遠くの方にハサミが落ちていた。
テオは僕の袖をひいて、逃げようとしている。
けれど、僕は動かない。
おおもとをどうにかしないと、この状況は永遠に続く。
「跡が残ったら、どうするのよ!」
「それは、こちらも同じ意見だ。テオの顔に傷跡が残ったら、どうするつもりだったんだ。」
「私の子がやった証拠がないでしょう。」
「ノクスが岩を持っている。」
ララがそれに気がつくと、急にイライラしだした。
「こっちは王族なのよ。あなた達平民以下の階級の奴らより、存在価値があるのよ!」
「いいえ、あなた達は王族ではない。この城の安定を崩す不届き者だ。」
「うるさい!」
ララの手が僕に向かって振り下ろされようとする。
その振り下ろされる手を、僕に届くかなり前にとめた手が見えた。
かすかに香る、花と紅茶のにおい。
ララの手をとめていたのは、ダイヤだった。
僕の力が少し抜けたときに、テオが僕を引っ張って後ろに下がった。
「離してよ!」
ララは、ダイヤの手を振り払った。
その時、ちょうど外に出ていたアルクス様が帰ってきた。
「何…、してるんだ…。」
「アルクスさん!あの黒猫が、私の子ども達をいじめていて、注意しようとしたら、あの男に手を掴まれたの!」
「…ダイヤ、本当なのかい。」
「自分の目で確かめてみろよ。お前にはテオのこの怪我が見えないのか。」
「え。」
「自分でつけたんでしょ!獣人なんて危ないから、城においておくべきじゃないのよ!
アルクスさんもそう思うでしょ!悪いのはみんなアイツらなの!」
「ぼ、僕は…。」
「アル、俺との契約を覚えているか。」
「ぅ…、」
アルクス様は、そのまま黙ってしまった。
「そうか。」
ダイヤはアルクス様たちに背を向け、僕とテオの方に近づく。
ダイヤはテオを抱き上げ、僕の手を引いてダイヤの部屋に入った。
ダイヤは、椅子にテオを座らせると、傷の治療を始めた。
「痛いっ。」
「少し我慢しろ。傷口触るぞ。」
ダイヤは、ここ三年で取れる医療関係免許を、全て取ったらしい。
テオの傷口にダイヤの手が触れると、淡い光を放ち、テオの傷が治っていく。
ダイヤはテオの傷を塞ぐと、お湯に浸したタオルで顔に垂れてしまった血を拭き取る。
「テオ、ニーニャを守ってくれるのは、嬉しいし俺的には助かるんだけど、自分のことも大事にしてくれよ。」
「…うん。」
「ニーニャは、怪我してないか?」
「大丈夫。」
僕の返事を聞いて、何かを察したのかダイヤが口を開く。
「気分転換しようか。」




