表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

僕の足場


ワイは35歳になった。手取り15万、年収200万。コンビニ弁当を温め、独りきりの部屋で、ネットの海を漂う。彼女はいない。いや、できたことすらない。35年間、僕の人生には、誰かの温もりを感じる瞬間がなかった。


中学時代の同級生、いじめっ子たちの話が耳に入ったのは、つい最近のことだ。母親が同窓会の話を伝手で聞いてきたのだ。「○○くん、今はペンキ屋さんの三代目でね。もう結婚して、子供もいるんだって。フードコートで家族仲良くご飯食べてるの見たって言ってたわよ」。もう一人はIT企業で成功したらしい。三人目は、プロアスリートになったと。ニュースで何度か見た顔だった。


「ワイくん、謝りたいって言ってたわよ」

耳を疑った。謝罪?今さら?

僕の人生を、その後の人間関係を、精神を、ぐちゃぐちゃにした張本人が、何を謝るんだ。

謝って、何になる?

あいつらが過去を清算して、いい大人として生きるための、踏み台にされるだけだ。

「謝られても、許せない」と言えるだろうか?

多分、言えない。


「もう昔のことだから」と、笑って許すフリをするしかない。

そうして、また僕は、彼らの「良い人」という評判の、土台にされる。

僕の足場は、彼らの上にしかなかった。

彼らが踏みつけ、踏みしめた地面の上で、僕は35年間、立ち尽くしている。

そして彼らは、僕という足場を使って、高く飛んでいった。

彼らが幸せに生きているという事実は、僕にとっての拷問だった。

「いじめっ子が落ちぶれる」という物語は、ただの幻想だった。


現実では、積極的に他人を傷つけるエネルギーを持った人間が、社会で成功していく。

僕はそのエネルギーを持たず、ただただ、耐えることしかできなかった。

なぜ、彼らは僕をいじめたのか。

ストレス解消手段。大人になって、そう理解した。

僕は、彼らの成功への糧だった。


「お前が育てたようなもん」

ネットの匿名掲示板に書かれたその言葉が、頭から離れない。

育てたのは、彼らの「悪」の部分だ。

そしてその悪は、彼らを強くし、高く飛翔させた。

僕は今日も、部屋で一人、パソコンの画面を見つめる。

不摂生な生活と、鬱でボロボロになった身体。


あと何年、この人生が続くのか。

外は雨が降っている。

雨音が、僕の孤独を慰めてくれる。

彼らが僕を傷つけ、そこから高く飛んでいく。

その事実は、この先もずっと、僕を地面に縛り付けるだろう。

雨は止まない。

僕の足場は、いつまでたっても、あの日のままだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ