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罪人たちのライブショー ― AI裁きのデスゲーム ―  作者: 雪沢 凛


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33/36

第33話 錯綜の招待、檻の中の三十人

 部屋の空気が一気に冷えた。

 熊谷が眉をひそめ、低く口を開く。

「……俺たちも、参加するべきか?」


 間宮は片眉を上げて鼻で笑った。

「は? 何それ、選べるとでも?」


 八雲がゆっくりこちらを見た。

 その笑みは、まるで割れ目から漏れる冷気のようだった。


「今回のルール、ちょっと特別なんだよ。」

「西園寺だけは――強制出場。」

「それ以外はね、観客の投票と、自発的なエントリー。」


 彼は一呼吸おいて、芝居がかった仕草で手を大きく広げた。

「定員は三十人。揃ったら即開始。」


 俺は目を細め、喉が詰まる感覚に息を詰めた。

「……何のルールだよ。」

「なんでそんな変なことを……」


 八雲は背を向け、何も答えずに肩をすくめただけ。

 その笑みは広がって、まるで腐った喜劇を眺めているようだった。


「ふふっ。」

「迷える子羊たちよ――」

 まるで詐欺師じみた神父のように、両手を広げる。

「盛大なショーを捧げよ!」


 部屋の中は、呼吸の音すら響くほど静まり返っていた。

 遠くで機械仕掛けの鐘が鳴る音が、教会の葬鐘のように低く響いていた。


 八雲は表情を消し、リモコンでスクリーンを消した。

「時間だ。」


 彼が背を向けて歩き出した瞬間、俺は思わず声を出した。

「……八雲。」


 彼の足が止まり、片目だけをこちらに向ける。


 息を吸い込む。

 喉がギシギシと引き裂かれるように痛む。

 脳裏には、あの時の詩音の目――血走った、悲鳴のような目が焼きついていた。


「……彼女に会わせてくれ。」

「詩音に。」

「俺は確かめたい……なぜ『白』だったのか。」


 八雲は俺を見つめる。

 笑みは消え、冷たい目だけが残った。


「……なぜだ?」

 その声は、心臓の奥をえぐるように低かった。


 奥歯を食いしばり、拳を握る。指が白くなる。

「――あの日、俺は彼女の罪を言っていない。」

「なのに、罪装は発動した。……その答えが、欲しい。」


 八雲は一瞬黙り込んだ。

 やがて、ゆっくりと口元に例の狐のような笑みを浮かべた。


「来なよ、子羊ちゃん。」


 そう言って、彼は扉を開けて出て行った。

 閉まるドアの音が重く響き、部屋の空気が一気に凍りついたようだった。


 俺はその場に立ち尽くした。

 呼吸が喉で詰まり、肺が重くなる。


 そしてゆっくり振り返って、間宮と熊谷を見る。


 二人は何も言わなかった。

 ただ、それぞれ視線を逸らしただけだった。


 低く息を吐く。喉は乾いて、ひび割れているかのようだった。

 俺は黙って踵を返し、彼らより先に教室を出た。



 廊下の照明は冷たい白。

 その下に、細長く落ちる影。


 壁の掲示板に新しい告知が貼られていた。

 画面には無機質な文字が浮かんでいる。


【特別SHOW 参加者募集】

【観客投票枠 + 自主参加枠】

【定員30名 / 定員到達時に開幕】

【罪人各位、参加意思の判断を】


 俺はその文字を睨みつけ、眉間に深くシワを寄せた。

「……今回は、何を仕組んでやがる。」

「AIは、何を考えてるんだ。」


 八雲が足を止め、俺を一瞥して、口元に薄く冷たい笑みを浮かべた。


「ふっ。」

「まだわからない?」

「今回は、デスマッチでもないし、単に誰かを裁けってわけでもない。」


(……じゃあ、何なんだ?)

(また何か、新しい手口か。)

(……なぜ、俺だけ固定されてる。)


 八雲はゆっくりと手を上げ、告知の画面を指差す。


「投票でも、自発でも。」

「本質は――三十人を同じライブステージに閉じ込めること。」

「中にはお前を殺したい奴も、すり寄ってくる奴も、許しを乞う奴も、巻き添え狙いもいる。」


 彼の声はゆっくりと、言葉一つひとつを脳に打ち込むような調子だった。


(……気持ち悪い。)

(人間を檻に詰めて、誰が先に壊れるか見世物にしてるだけ。)

(こんなもんが、番組だと?)


「AIは、誰にも『殺せ』とは命じない。」

「ただ、ルールを置くだけで――」

「観客は、お前らが自分で壊れていくのを見て楽しむ。」


 胸の奥に焼き付いた罪印が、再び熱く疼くような感覚。

 もう、言葉にする気力さえ失せる。


(……俺も、ああなっていくのか?)

(カメラの前で、ゆっくり自分を壊していくのか?)


 八雲の目が、まるで俺の内側を解剖しているかのようだった。


「それが、番組。」

「それが、商品。」

「誰もが互いを裁き、裏切り、協力し、そして引き裂く。」

「それを、視聴者は楽しむ。」


(そうだ。こいつの言ってることは、全部正しい。)

(……でも、クソッタレ、俺はそれを認めたくない。)


 彼は最後にそっと手を下ろす。

 空気が、さらに冷たくなった気がした。


 俺は何も返さず、ただ拳を握りしめる。

 骨が軋む音が、静かに鳴っていた。

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