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罪人たちのライブショー ― AI裁きのデスゲーム ―  作者: 雪沢 凛


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第14話 光と鎖の告解

 光の残像の中で、ある「美櫻」が冷笑した。

「……何、いい子ぶってんの?」

「告解しなきゃ、『告解不能』で失格判定だよ?」


 俺は動かない。ただ、冷ややかな視線を幻影の群れに向けた。


「……やれよ。どうせ俺を追い詰めたいんだろ」

 言いながら、ゆっくりと両手を上げる。

 無防備を装う――いや、演じる。


「俺は……反撃するつもりはない」


(――少なくとも、この舞台はお前に任せる。

 俺は裏方に回る)


 スクリーンがざわめき、弾幕が一斉に吹き出した。

【何これww】【降参ポーズ?】【草】

【おいビビってんのかCODE男w】【泣き顔w】

【クソ中二どこいった】【でも血出てんじゃん】

【妙に絵になるな】【この方が人間味ある】

【上から目線より好きかも】【同情票入りそう】

【あーこれ女キレるやつ】


(……そう、それでいい)

(AIも観客も、求めてるのは「芝居」だ)

(なら――演じきってやるよ)


 美櫻の動きが止まる。

 光を握る指先が震えているが、撃つ気配はない。


「……何のつもり?」

 声が反響し、迷宮に砕ける。


 震えを含みながらも、尖っていた。

「今さら善人のフリ?

 観客の前で憐れみでも買うつもり?」


 弾幕が狂ったように流れる。

【あーあw女キレた】【泣きそうじゃん】【もっとやれ】

【美櫻頑張れ】【でもCODE男血まみれだし】【絵面いいな】

【AI様最高の脚本w】


 彼女は唇を噛み、視線をスクリーンに走らせる。

 ――そこに踊る「コメントの群れ」。

 瞳の光が、歪んだ。


「……なんで」

 声が沈む。

「なんであんたは、何もしないで……好かれるの?」


 手の光が激しく脈打ち、壁に影が蠢く。


「……私、ずっと努力してきた」


「楽しそうに笑う練習もした。

 作り笑顔を“本物”に見せるために。

 みんなの視線を奪うために」


「……全部やったのに、なんで――

 なんであんたに拒絶されなきゃいけないのよ!」


 俺は沈黙する。

 弾幕は、熱狂と冷笑をないまぜにして弾けた。


【重www】【でも分かる】【リアルすぎ】

【告白エピ暴露ターンw】【CODE男反応しろ】

【AI様、神演出です】


 息を吸い、掠れた声を押し出す。

「……お前が努力してたのは、分かってる」


「でも――」

「お前が好きだったのは、『副会長の俺』だろ」


「人に期待され、人に必要とされた“役”の俺だ」

「好きだったのは、俺じゃなく、その“ポジション”」


 美櫻の顔が一瞬で紅潮し、

 手の光が、ふっと暗んだ。


 唇が震え、声にならない呼吸だけが零れる。

 その瞳に、砕けたガラスの光。


 スクリーンが一拍、静止する。

 ――そして爆発するようにコメントが奔った。


【刺さる】【正論パンチwww】【どっちもクズw】

【でも泣ける】【AI様これが告解か】

【許したくなる演出】【もっとやれ】


 俺は視線を逸らし、

 血で濡れた手を壁に擦りつけた――

 まるで、それが告解であるかのように。


(……これで、観客は満足だ)

(“芝居”をやれ、八雲)


 美櫻の呼吸が乱れ、肩が大きく震える。

 唇を噛み切り、血が滲む。


「……黙れ」

 その声は、砂を噛むように掠れていた。


「黙れ黙れ黙れええええっ!」


 光が暴れ狂い、音を立てて空間を裂く。

 歪曲する光刃が何本も走り、視界を白で焼き尽くした。


 AIの冷酷な音声が重なる。

〈罪装維持限界超過。精神制御異常〉


(……くそ)

(完全に暴走だ)


 喉が裂けそうに乾く。胸が焼ける。


(本当は、手を出したくなかった――

 こんな形じゃ、なおさら)


 でも、もう――限界だ。


「……罪装起動。CODE――」

「『他人の心を絡め取る、黒き妬蛇』」

「――この審判を受けろ」


 掌に走る冷たい衝撃。

 今回は、蛇じゃない。

 生まれたのは、分岐し蠢く黒鉄の鎖――

 節ごとに棘を刻んだ、光を裂くための鎖。


「うおおおおっ!」


 鎖を振り抜く。

 鉄が悲鳴を上げ、空気を裂き、

 暴走する光束を絡め取り、強引に引き裂く。


 眩い閃光と轟音。

 空間が爆ぜ、粉塵が炎の匂いを孕んで舞う。


 美櫻の絶叫が、瓦礫の迷宮に反響した。

 光の投影は崩れ、粒子になって消える。


 彼女は瓦礫に崩れ落ち、

 濃いアイラインの下で涙をこぼした。


「……なんで」

「なんで、あんたはそんなこと……言えるの」

「私だって……ただ“見てほしかった”だけなのに……」


 嗚咽が、壊れた楽器みたいに響く。


(……これは、俺が生んだ怪物だ)

(俺みたいな人間が、こういう人間を作った)


 ――だが、俺は手を伸ばさない。

 それは、救いじゃない。

 それは、新しい鎖だ。


「――お前の罪、ここで封じる。

 これが、俺の審判だ」


 AIの音声が冷たく宣告する。

〈告解完了。罪装解除〉


 黒鉄の鎖は粉塵に砕け、

 血に濡れた黒雪のように、静かに降り積もった。


 スクリーンが、また爆ぜる。

【やば…】【泣ける】【CODE男カッケー】

【女の子可哀想】【これが神回】


 俺は最後に彼女を一瞥し、

 崩れかけた階段に足をかける。


(満足かよ、AI様。

 ――観客様)


 胸に、鈍く重い塊を抱えたまま。

 俺は、次の「舞台」へと歩き出した。

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