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罪人たちのライブショー ― AI裁きのデスゲーム ―  作者: 雪沢 凛


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12/36

第12話 開演まで三十秒

薄暗い廊下を進む。

冷たい照明がチカチカと瞬き、壁に並ぶAI監視カメラが、無言で俺たちを追っていた。

まるで表情の一つひとつをデータに分解するみたいに。


誰も口を開かない。

間宮はポケットに両手を突っ込み、まっすぐ前を見ているが、その視線はどこか定まらない。

熊谷は後方で拳を握りしめ、ゴキゴキと骨の軋む音を響かせていた。

詩音は俺のすぐ後ろを歩く。足取りは微塵も乱れず、顔には相変わらず何の色もない。


廊下の突き当たりに、重厚な金属扉が開かれていた。

扉枠の上、電子パネルが冷たい赤字を点滅させる。


【審判SHOW・参加者集合】


中は灰色に染まった「待機室」。

刑務所みたいなコンクリートの壁。冷白の照明。

壁際には金属製のベンチがいくつか並んでいる。

正面のスクリーンにはカウントダウン。


【00:04:58】

【00:04:57】


俺は奥のベンチに腰を下ろした。

間宮は眉をひそめ、当然のように隣に座り、足を投げ出す。

熊谷は距離を取って、別のベンチにドスンと腰を下ろし、荒く息を吐いた。


最後に入ってきた詩音は、目的もなく歩き回るように一度だけ視線を巡らせ、ゆっくりと俺の隣に腰を下ろした。

肩は驚くほど細いのに、背筋はまっすぐ。

焦点のない瞳が、無機質にスクリーンを射抜いている。


「緊張してるのか」

感情を込めず、淡々と尋ねる。


首を横に振った彼女は、しばらくしてからぽつりと口を開いた。

「……ちょっと考えてた。私も……何か演じるべきなのかなって」


「……考えすぎるな。指示に従え。

観客が勝手に妄想してくれる」

低い声でそう返すと、詩音はこちらを向いた。


その瞳に、ほんのわずかな色が差した。

空っぽの殻じゃない――けど、その一瞬に何を見たのか、俺には分からなかった。


視線を外し、短く息を吐く。


(……こいつがいなきゃ、もっと単純だった)

(だが――こいつがいる方が、面白くなる)

(悪くない)


「なぁ」

間宮が口を開いた。まるで世間話みたいな軽い声で。


「今回さ、もしあたしがアンタを守り切ったら――

一晩、付き合ってくれない?」


注文でもするような自然さで言いやがる。

俺は返事をせず、ただゆっくりと横目で彼女を見た。


口元に笑み。だがそこには冗談の欠片もない。


しばらく黙ったあと、俺は呟く。


「……そんな台詞、よく言えるな」

天気予報みたいな声で。


「言わなきゃ、OKしないでしょ」

肩をすくめ、彼女は続ける。

「たださ、タダ働きは性に合わないんだよ」


「……いいぜ」

低く返した。

「だが――生き延びられたらな」


「当然」

間宮は笑った。その笑みは、もう腹を決めた奴のそれだった。

――俺は言わない。守る気なんて欠片もないことは。

だが、今は頷く方が楽だ。


(試してるんだろ、俺を。

いいさ、こっちも見極めてやる)


彼女の唇には火のついてない煙草。噛み跡だけが深くなる。

熊谷は歯ぎしりをしながら視線を伏せ、不安と苛立ちを隠そうともせず、ただ拳を握り締めている。

……それでも何も言わない。沈黙は鉛みたいに重い。


詩音は一切動かない。

ただ赤い数字を追っていた。

その横顔は、何を考えているのか分からない。


俺は冷たい壁に背を預け、目を閉じる。


(役? ドラマ?)

(演じるよ、八雲――だが、てめぇの台本じゃねぇ)


(……俺は、生きるために演じる)

(この地獄から――必ず抜け出す)


スクリーンの数字が淡々と減っていく。

低く、規則的な電子音。


【00:00:32】

【00:00:31】


(――来い)


(ショータイムだ)

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