表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪人たちのライブショー ― AI裁きのデスゲーム ―  作者: 雪沢 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/36

第10話 獣籠の中の邂逅

 コミュニティに戻った頃には、夜間供献はもう始まっていた。


 頭上のスピーカーから、冷たい電子音が無感情に響く。

〈罪人の皆さん、夜間供献の時間です。指定エリアへ移動してください〉


 任務表に視線を落とす。

 ──「コンビニ」。


 コンクリートの箱に押し込まれた半自動の店舗。

 倉庫みたいに冷え切って、肌に突き刺さる寒さ。


 無機質な金属棚が並び、奥のAIレジが無感情な光を放っていた。

 今日の仕事は、リスト通りに商品を補充すること。

 ただの肉体労働だ。頭を使う余地なんてない。


(……自給自足? 笑わせる)


 意識は霞み、瞼が鉛みたいに重い。

 休む時間なんて、どこにもない。


 自動ドアが低くうなるような音を立て、開いた。

 リストを握りしめたまま、ゆっくりと中へ進む。

 天井の監視カメラが赤い光を瞬かせ、無言でこちらを見下ろす。


〈西園寺透、供献シフト開始確認〉


 深いため息が漏れた、その時――


 棚の向こうで、かすかな物音。

 影が一つ、ぬっと現れる。


 視線を上げると、見覚えのある顔。

(……6C班のやつ)

 名前までは出てこない。だが、あの顔は忘れない。


「……よう」

 向こうも気づいたらしい。だらしない笑みを浮かべ、片手をひらひらさせる。

 声は軽く、妙に伸びる。


 俺と同じくらいの年に見える。だが、目つきだけが鋭くて――蛇みたいに俺の動きを一つ残らず舐めていた。


「お前、西園寺透だろ」


 手元でリストをめくりつつ、何気なく視線を胸のプレートに流す。

 6C班の刻印。

「……6Cか」


 相手は眉を吊り上げ、薄笑いを深める。

「ハッ、聞いてるぜ。――あのCODE男」


(……探りか)


 一瞬で、空気がぴんと張り詰めた。

 無言で作業を続ける。商品を棚に並べ、一言だけ吐き捨てる。

「そうだよ。どうした、サインでも欲しいか」


 軽く笑い、数歩近づいてきた。金属の棚にもたれ、気安い声で言う。

「肩の力抜けよ。ただの挨拶だ」


 リストを裏返し、視線もやらずに答える。

「……好きにしろ」


(――顔に『探り』って書いてあるぞ)


 奴の細い目が、さらに細くなる。

「フン、つれねぇな。ショーの時と同じだな」


 わざとらしく声を張り、続ける。

「そういや、あれだろ? 罪装起動CODE? クッサいセリフだなぁ」


(またそれか)


 眉をわずかに跳ね上げ、口角で乾いた笑いを作る。

「そりゃどうも。……邪魔だから、さっさと精算して消えろ」


 奴の笑みが、じわじわと凍りつく。

「――明日のショー、手加減すんなよ」


 指先が、わずかに止まる。

 視線は上げない。


「……努力するよ」


 鼻で笑い、奴は背を起こす。

「ハッ、つまんねぇ野郎だな。――まあ、せいぜい見苦しく死ぬなよ」


 リストをポケットにねじ込み、ようやく顔を上げる。

「……その言葉、そっくり返すよ」


 奴の口角が、ぴくりと震える。

 だが、何も返さず踵を返した。

 AIレジが冷たく鳴る。


〈供献ポイントを70減算しました〉


 店内の照明が、さらに冷ややかに光を増す。

 空気ごと凍りつくようだった。


 奴は片手をひらりと振り、吐き捨てるように言う。

「――明日な、CODE男」


 自動ドアが音を立てて閉まり、静寂だけが残る。


(……探り終わって、さっさと消えやがった)

(やっぱり――誰も、ただの駒じゃない)


 肺の奥から、重い息がこぼれる。


(……結局、俺たちは同じ檻の中の獣だ)


 頭上の監視カメラが、赤く瞬いた。

 無感情な電子音が告げる。


〈西園寺透、供献進捗率不足。作業を継続してください〉


「……分かってるよ」

 低く呟き、残りの荷物を棚に押し込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ