第1話 罪を曝け出せ、コードを紡げ
(何回目だ?十回?百回?このリングで何人潰した?)
(AIは「贖罪」って言うけど、いつまで続くんだよ、このゲーム。)
ライトが明滅し、リングは白く光っていた。
血が流れても、床はステンレスみたいにピカピカだ。
画面にゴミみたいなコメントが流れる。
血を見て安心するクソどもめ。
【CODE男、今回はどんな罪だ?】
【告解タイムキタ━(゜∀゜)━!】
【また罪自慢ショーかよww】
(いいぜ。今日も罪人同士、罪を晒して殺し合う。
それでお前らは「平和」だと思ってる。)
(このショーは、てめえらが「俺は違う」って安心するためのもんだ。)
〈AI音声:西園寺 透、志賀 連也、準備完了〉
志賀が対面に立っている。
肩が震え、荒い息を吐いていた。
こいつも同じだ。
生きるために殺す、罪を背負った奴。
視線がぶつかる。
目はギラついてる。でも、指先が震えてた。
(……潰れそうだな。負けたら終わりだ。
告解室行き。中で何が起きるか、誰も知らねぇ。)
志賀:「ビビってんだろ、CODE男」
俺は鼻で笑った。
(お前もだろ)
「ハァ?覚悟できてんのかよ」
俺たちは殺し合う。
AI様がそう決めた。
〈AI:罪人よ、告解せよ。汚れを曝け出し、贖罪の路を進め〉
(神様気取りか。ただの処刑ショーだろ)
胸が締め付けられる。
言わなきゃ武器は出ない。
ライトが眩しい。
(言え。言わなきゃ終わる)
深呼吸。喉が焼けるみたいに乾く。
歯がガチガチ鳴った。
「……罪装起動。CODE――」
声が震えた。舌を噛みそうになる。
「『暴力はお前の弱さを隠す仮面に過ぎない』
――この審判を受けろ。」
(分かってる。弱いのは俺だ。
殴って、殺して、隠してるだけだ。
AIに言われなくてもな。
でも、罪を言うたびに心が削られる。)
【ダサwww】
【またそれかww】
【もっと吐けよww】
〈AI:告解の代価を確認。罪装生成〉
〈西園寺 透、罪装:制裁鎖刃、起動完了〉
手に冷たい感触。
鎖が蛇みたいに絡みつき、鈍い刃を生やす。
手首を締め付ける。
(鎖刃か。どうでもいい。使えりゃいい)
志賀の喉が動いた。
乾いた唇を舌で濡らす。
(さあ、見せろよ。AI様も観客も見てるぜ)
次の瞬間、志賀の手に骨のように歪んだ刃が生成された。
血走った目に敵意しかない。
柄を握る指は、力みすぎて真っ白になっていた。
「お前もだろ?ここでしか生きられねぇクズだ」
志賀は吐き捨てるように言った。
(クズ?ハッ、どっちもどっちだ。
ただ、俺はお前みたいに目を逸らさねぇ)
志賀が咆哮し、突っ込んでくる。
刃を振り上げ、ためらいもなく振り下ろす。
金属のぶつかる音と、飛び散る火花。
(速ぇ……だが雑だ!)
鎖刃を振り、刃を絡め取った。
腕に痺れが走る。それでも歯を食いしばり、距離を詰める。
肘を叩き込み、鈍い音と共に志賀の腹が折れた。
血を吐いても、視線は逸れない。
泣きそうな目で、睨み続けていた。
「告解は?」
低く問う。自分でも吐き気がする声で。
志賀は血混じりの唾を吐き、牙を見せた。
喉から絞り出すように声を出す。
「……殺せ……!」
(ハッ、いい目だな。
だが終わりだ)
鎖刃を操り、口元を狙う。
一閃。
肉を裂き、骨に当たり、何か柔らかいものが転がった。
鮮血が飛び散り、リングに不規則な紋様を刻む。
【舌切ったww審判官かよww】
【CODE男、相変わらずエグいw】
【AI様、今日も神采配ww】
(これで喋れねぇし、罪装も使えねぇ。
告解室に送られた奴がどうなるか、誰も知らない。
……いや、分かる時が来る。
俺が喋れなくなった時、告解できなくなった時、その時だ)
血の匂いが鼻を突く。
AIの声が響いた。
〈AI:西園寺 透、告解手続を続行してください〉
(……ああ、まだ終わりじゃねぇのか)
深く息を吐く。
喉の奥に鉄錆みたいな血の味。
「――お前の罪は、ここで封じる。これが俺の審判だ」
〈AI:告解完了。罪装解除〉
〈勝者、西園寺 透。贖罪進度、加算10ポイント〉
〈敗者、志賀 連也、告解室へ送致〉
(まただ。
また一人の罪を吐き出して、赦されたフリをする)
【お疲れww】
【CODE男サイコーww】
【次も頼むぜww】
(ああ、笑えよ。
AIも、観客も。
俺だって、最後には笑うしかねぇ。
これが「贖罪」?
……ただの公開処刑の台本だろうが)
告解?
一度だって、自分の罪を告白したことなんてない。
ただ、他人の罪を叫び続けて、
まるで自分が「審判官」みたいに演じてるだけだ。
(――神の裁き気取りとか、反吐が出る)