第二十二首『恨み骨髄に徹す』
「へぇ……それがジョレードっていうのか」
「そうバケ。説明してなくて悪かったバケ」
俺は生首のついたバイクに跨り、壊滅したジョレード本部に向かいながらバケロンから話を聞いていた。
いつのまに改造されたのかは知らないが、バイクのヘッド部分、生首がくっついているすぐ横にはバケロン専用の小さなシートが取り付けられている。
「にしても、ベロたん大丈夫かな」
つむぎがすぐ横のバケロンに尋ねる。
「本当なら除霊師は本部の医療設備で治療できたはずだったバケ。それが壊滅して救急車で普通の病院に……」
バケロンが不安そうな顔をしている。よほどジョレードの医療設備は凄かったらしい。
もっとも、壊滅した今となっては確認の術も無いが。
「でも壊滅っていったい……え?」
そう聞きかけたが、すぐにその言葉は喉を逆流していった。目の前の光景が信じられず、俺は思わずバイクのブレーキをかける。
「嘘だろ……」
そこにあったのは大量の瓦礫の山と、アチラコチラに散らばった、除霊装束を身に纏った死体の数々だった。
「ようやく見つけたぞ! 架井心矢!」
俺は声に驚き、振り返る。そしてそこにいた男の顔に目を疑った。
「……狩居太ジン!?」
その男は死んだはずの狩居太ジンそっくりだった。
「まさか、そんな……だって……死んだはずの人が生き返るなんて!」
つむぎも目の前の光景が信じられない様子だ。
発言に関しては完全にブーメランだよな……とは思ったが、指摘はしないでおく。
「違う! アイツはジンじゃない!」
「そうさ……、ぼくは誉れ高い除霊師ジンの弟! 狩居太カン!」
男は声高らかにそう名乗った。
「気をつけるバケ! アイツは怪異を人工的に生み出そうという危険な実験をしてジョレードを追放された最低最悪の男バケ!」
「解説どうもありがとう。 お褒めにあずかり光栄だよ」
カンがニヤリと笑う。
「ジョレードを壊滅させたのはあなたなの!?」
つむぎがバイクのライトをチカチカ光らせながら尋ねる。
「そうさ。ずっと復讐したかったんだ。僕を追放したジョレードと……、それから……、君もだよ、架井心矢」
「俺……?」
「当たり前だ! お前さえ居なければ、ぼくの最愛の兄が死ぬことなんて無かったんだからね!」
カンが俺を指さし睨みつける。
「そんな! それは別に心矢のせいじゃ!」
「うるさい! ぼくは一度憎んだ相手には絶対に復讐する主義だ! 手始めにジョレードへの復讐は完了した。あとはお前だけだ!」
そういうと、カンはポケットから小さな黒い箱を取り出した。
「それは……?」
「ぼくの作った、人工伝説怪異さ。近頃ぼくの実験のせいで噂になってただろ」
「えっ!? 噂になってた伝説の怪異って心矢のことじゃ」
いや、それはあり得ない。俺が怪異になったのは、最初につむぎの前でなったのを除けば、つい最近、貝の怪異との戦闘終了後が最初だ。
だから、その前に俺が噂になっているわけはなかった。
(でも……まさか伝説の怪異が……)
そんなことを考えていると、カンが黒い箱をヒョイっと空へ投げた。
「さぁいでよ! 伝説怪異。コードネーム:アルティメット!」
黒い箱は空高くで突然爆発し、内部から大量の黒いガスが噴出する。その黒いガスはみるみるうちに細長い塊となり、やがて目や鼻ができ、黒い龍を形作った。
「あれが……やつの作った……」
「グワァァァァァァ!!」
龍が空に向かって咆哮する。その大きな唸り声に驚き、近くの電信柱に止まっていた雀たちが一斉に羽ばたいてどこかへ飛び去っていく。
「いいぞ! そのまま全てを飲み込んでしまえ!」
龍はその声に応えるように、勢いよく地面に向かって飛んできた。そして――。
「ん? なんだ? やめろ、こっちじゃない! くるな!」
――近くにいたカンをパクっと食べると、グシャグシャと噛み砕いて飲み込んでしまった。
バラバラ血だらけになったカンの身体が地面にボトボトと落ちる。
「そんな……自分の生みの親を……なんで……」
「おそらく、全てを飲み込めという命令を、そのまま受け取ってしまったんだバケ……」
ついに現れた最強の敵。いよいよ、最後の戦いが始まろうとしていた……。




