第二十首『みタコとない! 迫る触手の恐怖!』
やっと主人公が戻ってきました。
ベロたんは、ふっ飛ばされてそのまま意識を失った。この俺、心矢は目の前の湖を睨む。無数の黒い触手が湖の中でウニョウニョ動いている。
「これは……いったい……」
すると次の瞬間、湖からザバッと音と飛沫を上げて巨大なものが顔を覗かせた。
――タコだ。
巨大なタコの怪異がその姿を現したのだ。
「つむぎ! ベロたんを頼む!」
俺は咄嗟に叫ぶ。
「頼むって!? 私生首なのに何をどう頼まれればいいの!?」
そうだった、今のつむぎは生首で身動きが取れない。そしてベロたんも気絶している。
(つまり守れるのは俺だけ……)
「心矢、前!!」
「しまった!」
俺が考え事をした一瞬の隙をついて、タコの怪異が触手を伸ばしてきた。
俺は逃げるまもなくその触手に絡め取られ、体を締め上げられてしまう。
タコの怪異の力は強く、全く身動きが取れない。
「ちく……しょう……」
まずい、このままではつむぎも、ベロたんも、みんな怪異の犠牲になってしまう。
だが、左腕までしっかり締め付けられたせいで左手首の数珠を使って除霊師になることすらかなわない。
(俺に……俺に力があれば……)
そのとき、俺の脳裏にある考えが過った。一つだけ使える、唯一の奥の手。
「――怪異の、力……」
そうだ。
俺自身の中にある怪異の力。あの力を使えば、俺はこの怪異を倒せるかもしれない。
しかし、それは危険な賭けだった。もしまた暴走したら?
ベロたんが気絶している今、俺の暴走を止められるものは誰もいない。
今度こそ本当に、つむぎやベロたんの命を奪ってしまうだろう。
頭の中に恐怖が渦巻く。
タコの怪異はどんどん俺の体を締め付ける。
(どうする……どうする……?)
『大丈夫。大丈夫よ……』
そのとき、頭の中に響いたのは、さっきのベロたんの優しい声だった。
そうだ。つむぎは恐怖を乗り越え、怪異の俺と一緒にいることを選んでくれた。
ベロたんが恐怖を乗り越えて俺に語りかけ続けたおかげで、俺は怪異の力を抑え込むことができた。
その二人を守れるのは、今俺しかいない。
そうだ。今度は俺が恐怖を乗り越える番だ。
俺は、俺のうちに秘めた力を解き放つ!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
俺の姿がみるみるうちに変わっていく。
だがもうあの全身真っ黒な禍々しい姿では無い。
全身が純白に染まり、眩く光を放つ。その眩い光は一瞬にして、タコの触手を焼き切った。
俺は触手から解放され、湖の目の前で着地する。
水面に映った姿はとても美しく、自分でいうのもなんだが、まるで天使と見紛うほどだった。
「これが……俺?」
「心矢……大丈夫……?」
つむぎの声を聞いて、俺は振り返る。つむぎはとても心配そうな顔でこちらを見つめている。
俺は、つむぎをそんな心配を吹き飛ばそうと、決めポーズをキメて、声高らかに叫んだ。
「あぁ、俺はもう負けない! 俺の新しい姿、心矢・ハイパー除霊師の誕生だ!!!」
来週の更新はお休みです。




