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第十三首『カイ異の世カイはちょう不可カイ!』

「うっ……ここは……」

 あたいは寝ていた状態からゆっくりと立ち上がると、辺りを見回した。

 何もない。床も天井も見えない、ただただ真っ黒なだけの世界に、一人立っていた。

「そうだ、あたいはあの怪異(かいい)に食べられて……」

 自分がどうしてこんな所にいるのか考え込んでいると、誰かがポンポンと肩を叩いた。

「誰? 心矢(しんや)? ……うわっ!?」

 振り返ると、そこに居たのは一輪車に乗ったピエロだった。白塗りの顔に赤い鼻、片手には小さいカラフルなボールを三つ掴んでいる。

「なんでピエロ……。心矢(しんや)……じゃないよね?」

 正直、あたいはピエロが苦手だった。小さい頃、友達の家でお泊まり会した時にピエロが主役のホラー映画を観て以来、ピエロが怖くなってしまったのだ。

「あ……えっと……ハロー……」

 おそるおそる挨拶をする。ピエロは私の挨拶にはひと言も返さず、ただニコッと笑うと、持っていたボールでジャグリングを始めた。

 一輪車に乗りながらジャグリングをしている様は実に見事だ。あたいは恐怖も忘れて思わず拍手をした。

「すごいすごい!」

 すると、ピエロが突然ジャグリングが辞めてしまった。表情からも笑顔が消えて、一気に無表情になる。

(あれ? なんか悪いことした? もしかして、やってる途中で拍手とかしちゃったの不味かった? 芸の邪魔して怒らせちゃったとか?)

 さっきまで忘れていた恐怖が一気に蘇る。


 ――そのときだった。ピエロが持っていたボールの一つを、すごいスピードでこちらへ投げてきた。

「危なっ!」

 あたいは咄嗟にそれを躱す。すると、地面に落ちたボールがけたたましい音を立てて爆発した。

「嘘でしょ?」

 ピエロは更に真顔で残り二つのボールも投げてくる。あたいは咄嗟に飛び上がって後ろに下がりそれを躱す。ボールが落ちると、目の前で大きな爆発が二つ起こった。

「あんたなんなの! どういうつもり!」

 ピエロは無言のままゆっくりと一輪車で迫ってくる。あたいはミッドナイトブラスターをブラスターモードにして構えた。

 明らかにやつは普通の人間じゃない。だが、かといって怪異(かいい)にも見えない。まずピエロの怪異(かいい)なんて聞いたこともない。得体のしれない何かだが、とにかく自分の敵であることだけはハッキリとしていた。

 ピエロは一輪車でゆっくりこちらに迫りながら、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。そして、ポケットからボールを取り出すと、すぐさまそれをこちらに投げてきた。あたいはそれを撃ち落とし、なんとか防ぐ。

 ピエロは一輪車でこちらに迫りながら、尚もポケットに手をつっこんでは、中からボールを取り出して投げてくる。

 あたいは次々投げられるボールを撃ち落ながら、後ろ歩きでピエロから距離を取ろうとする。だが、ピエロの迫ってくるスピードは少しずつ上がり、中々距離を開くことができない。

「だったら……!」

 あたいは思いっきりジャンプし、空中で1回転してピエロの背後に着地した。そしてピエロがこちらへ振り返るより早く、ミッドナイトブラスターの引き金を引いた。発射された銃弾はピエロの後頭部をしっかりと貫く。

「しまった! ついクセで撃っちゃった! 正体も分からないのに……人間だったらどうしよう」

 ピエロは一輪車から落ちてグッタリとその場に倒れる。一輪車もその拍子にバタンと倒れた。あたいはすぐさま、そのピエロにかけ寄る。

「ちょっとあんた! 大丈夫!」

 あたいはピエロの前にしゃがみ込み、ピエロに触れようとした。その瞬間、ピエロの身体は霧になって一輪車ごと消えてしまった。 

「どういうこと……いったい何がどうなってるっていうの?」

 再びあたいは、真っ暗な世界で一人ぼっちになってしまった。一緒に怪異(かいい)に食べられたはずの心矢(しんや)の姿は、どこにも見当たらない。

心矢(しんや)ーー! どこにいるのーー!」

 あたいは真っ暗な闇に向かって叫んだ。すると叫んだ方から何やらキラキラと光るものがこちらに向かってくるのが見えた。

「あれは……心矢(しんや)? いや、どうみても違うわ……あれは……」

 キラキラがだんだんと近づいてきた。キラキラと光るソレは粉だった。沢山の粉が舞いながらこちらへ向かってきているのだ。

 ……いや、違う。そうでもない。粉がこちらに向かってきているのではなく、羽からキラキラ光る粉を撒き散らしながら、パタパタと沢山の小さな命がこちらへ向かってきているのだ。

 そう、それはこれはこの世で最も美しいとされ、同時にあたいがこの世で最も嫌いな虫。

「ちょ、ちょ、ちょうちょだーーー!!!」

 あたいはすぐに蝶の大群に背中を向けて、一目散に走る。だが蝶はものすごいスピードでこちらへ向かってくる。走りながら一瞬振り向くと、蝶の大群はもうあたいのすぐそばまで来ていた。

 あたいは更に全速力で走って逃げようとする。だが蝶の大群はどんどんこちらに迫ってくる。もう後ろを見なくても気配で分かる。あと後ろからキラキラした粉がちょっと飛んできてる。

(……もう、やるしかない!)

 覚悟を決めて立ち止まると、蝶の大群の方をしっかりと見た。そしてミッドナイトブラスターを構え叫んだ。

「ちょうちょさん、あなた達に何も罪はないけれど、でも……でも……ごめんなさーい!」

 あたいはブラスターの引き金を引いた。発射された銃弾は大群の中の一匹の蝶に当たり爆発、それが周りの鱗粉や他の蝶に引火し、目の前がものすごい炎に包まれた。

 あたいは、その爆発にビックリして思わず目を瞑った。

「ごめんなさい! 殺しちゃってごめんなさい!」

 爆発が収まると、あたいはおそるおそる目を開いて目の前を見た。

「あれ!?」

 おかしい、先ほど爆発したはずの蝶たちがパタパタとその場で飛んでいる。

「そんな! なんで!」

 再び蝶の大群に銃口を向ける。すると、不思議なことに、蝶の大群の前に急に霧が立ちこめ、ゆっくりと大群がその霧に包まれて消えてしまった。

「あれ……?」

 目をこすってもう一度前を見ると、もう立ちこめた霧すらも消え去っていた。

「いったい……どういうこと……?」

今日のサブタイトルは私が個人的に好きなドラマシリーズのリスペクトをしていたりしていなかったりします。

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