第十二首『ベロたんのよく分かるカイ説?』
こんなタイトルですが、ちゃんと本編です。
「さてと……リハビリがてらやってやるわ!」
あたいの名前は狸谷ベロたん。怪異って呼ばれるバケモノと戦う除霊師をやっているわ。といっても、つい最近まで除霊師の仕事をお休みしてたのだけど……。
怪異っていうのは……ほら、そこ。目の前にいるアレ。あの口を閉ざした真っ黒な二枚貝みたいなヤツ。人々を襲う悪いヤツなの。
「デカい貝だな……自動車くらいあるぞ……」
隣でそう呟いたのは、あたいと同じ除霊師の心矢。新米だけど中々見どころのあるヤツよ。
「美味しそう〜〜、でも、倒したら砂になっちゃうのかな……」
その横に飛んでるドローンの上にくっついた生首は心矢の彼女のつむぎさん。正直言って怪異よりもよっぽど異様な見た目してるけど、怪異じゃないわ。良い人よ。
怪異は人間を襲い、その命を奪う。だからあたいら除霊師はそいつら怪異を倒して人々の安全と平和を守っているの。それがあたいらの仕事。
「あの貝の怪異はあたいも初めて見るわ。気をつけないと」
あたいはそういうと服のポケットからおニューの緑色の数珠を取り出し、左手首にはめた。するとあたいの服の上に白い羽織りのようなものが出現する。これは除霊装束といって、除霊師の活動に無くてはならない仕事着なの。
そもそもあたいら除霊師の使う数珠には「除霊力」という怪異を倒す為の力が込められていて、その力を引き出すにはさっきいった除霊装束が必要で……。
「ねぇ、さっきから説明長くない?」
「なんであたいの心読めてるの!?」
ビックリした。つむぎさんが急にあたいの心を読んできた。そんな能力あったなんて初耳だ。
「いや、普段は全然聞こえないんだよ。でも、たまーに、ごく稀ーに、なんか頭のセンサーが感じ取っちゃうというか……まるで小説の地の文みたいなのが流れ込んでくるというか……」
「えぇ……」
つむぎさんが自分の頭に生えたアホ毛を揺らして見せる。この人と出会ってかなりの時が流れたが、いまだによく分からないところがある。
「いいからさっさと倒すぞ。今のところ動きは無いが、怪異は怪異だ。何を仕掛けてくるか分からない」
いつの間にか手首に赤い数珠をはめ、除霊装束を身に纏った心矢が、いつまでも戦いを始めないあたいを窘めた。
たしかにあたいは久しぶりの戦いで、少し浮足立っていたのかもしれない。目を瞑り、深呼吸をして、気持ちを引き締め直す。
そして、カッと目を開くと、目の前の巨大な貝を睨みつけて叫んだ。
「さぁ! 除霊開始よ! ミッドナイトブラスター!」
「アカツキノカマ!」
あたいと心矢の手中に怪異を倒す為の武器が出現する。
あたいの使う武器はミッドナイトブラスター。ブラスターモードとダガーナイフモードの二種類のモードがある便利な武器。ブラスターモードは遠距離から攻撃に長けていて、ダガーナイフモードは接近戦を得意とする。
心矢の使う武器はアカツキノカマ。これは巨大な鎌のような武器で……。
「いや、だから、早く戦いなよ。地の文で解説してないで。尺稼いでんの?」
「ごめんなさい」
怒られたので解説はこのあたりで切り上げて、あたいは早速、貝の怪異を銃撃した。
「喰らえ!」
――カキンカキンカキン。
「弾かれた!?」
あたいの撃った銃弾は全て巨大な貝殻に弾かれてしまった。
「だったらこっちの番だ! デスサイ手裏剣!」
心矢が思いっきり鎌を振り下ろすと、刃から手裏剣状のエネルギー弾が発射される。それはものすごい勢いで飛んでいき、全て貝の怪異に着弾した。着弾した瞬間、エネルギー弾は爆発し、あたりに爆風が立ちこめ、一瞬で怪異の姿が隠れてしまう。
「やったか!?」
心矢は何度も大きく鎌を振って霧払いをする。あたいも負けじとミッドナイトブラスターをダガーナイフモードにして、爆風を払い除ける。そして爆風が全て払い除けるとあたいらは怪異の状態を確認した。
「嘘でしょ……」
あたいらは目の前の光景に絶望した。無傷だった。ビックリするほど貝殻は綺麗なままだった。
「いったいどうすれば……」
あの貝殻、相当な硬さだ。下手したらダイヤモンドよりも硬いかもしれない。貝の口が閉じている限りあたいらは一向に攻撃できない。
「せめて……あの貝が口を開いてさえくれればな……」
あたいも同じ気持ちだ。しかし、どうすれば開くんだろう。貝の方から口を開けてくれたら助かるのだけど……。
そう思った、次の瞬間だった。
――パカッ!
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「「「え〜〜〜〜!?!?」」」
開いた。開いちゃった。どうやって貝殻を開けようか考えてたのに、驚くほど簡単に開いちゃった。
「開いた……?」
「開いたね……」
心矢もつむぎも呆気にとられて、口をポカーンとしている。
「い、今がチャンスよ! 撃てーー!」
あたいは咄嗟にミッドナイトブラスターをブラスターモードに戻して、貝の怪異の口に銃口を向けた。心矢もあたいの掛け声に合わせて鎌を振り上げる。その時だった。
「なに!?」
「なんだ!?」
突然、身体がグイッと引っ張られるのような感覚に襲われた。貝だ。あの貝怪異がダイ◯ンの掃除機が如き勢いであたいらを吸引している。
あたいも心矢も必死に踏ん張ろうとするけど、どんどん身体は貝殻の方へ近づいていく。
「大丈夫!? 二人とも!」
すばやく上空へ逃げたつむぎさんがあたいらを心配して声をかけてくれている。「大丈夫!」と答えたいけど、実際これは大丈夫じゃないかもしれない。
「ぐっ、くっ……いやぁぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
遂にあたいらの足は地面を離れ、身体は貝の口の中へと飛んでいった。
――そして、あたいらが口の中に入ったところで貝は口を勢いよく閉めてしまった。
「心矢〜! ベロたん〜!」
遠くで、つむぎさんがあたいらを呼ぶ声が聞こえた気がした。