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第一首『首だけに首ったけ』

初の本格的な連載作品です。よろしくお願いします。

 晴れた空、白い雲、心地よい風、全てがデート日和。

 今日、俺は、俺の彼女・月見(つきみ)つむぎとの一ヶ月振りのデートで浮かれていた。

「ねぇー心矢(しんや)、やっぱり変じゃないかなぁ」

「変なんかじゃないさ! それより今はデートの楽しもうぜ! せっかく久しぶりのデートなんだから」

「えー、でも、街の人たちみんなジロジロ見てるよー」

 確かに街の人がみんなこちらを見ている。中には怪しげにひそひそ声で近くの人と話し合っている人もいる。

「みんな、俺たちがラブラブで羨ましがってるんだよ」

「絶対違うと思うんだけど」

 つむぎが呆れたような顔でため息をつく。

 そのまま歩いていると、向こうから手を繋いだ親子がやってくるのが見えた。子供は五歳くらいだろうか。母親の手をギュッと握る小さい手がとても可愛らしい。その子に軽く挨拶をした。

「こんにちは〜」

 すると、その子がギョッとした様子で立ち止まった。そして俺の押していたベビーカーを指差して叫んだ。


「生首だ! あのお兄さん生首連れてる!」


 ◇ ◆ ◇


 ――物語は三日前に遡る。この俺、架井心矢(かけいしんや)はバイトもせず、ただ部屋のベッドの上で気の抜けたようにボーッとしていた。

 俺の住んでいるアパートの部屋は無数のゴミで散らかり、足の踏み場もなく、まるで廃墟のようだった。

 まるで俺の荒んだ心の中を表しているかのように。

「つむぎ……」

 うわ言のように呟いた彼女の名前。一ヶ月前に彼女のつむぎを交通事故で突然失った俺は、生きる希望すら見失っていた。

 涙も枯れ、体を動かす気力も消え、心の奥が何かドス黒いものに包まれるイメージが頭の中を駆け巡る。

 まさに全てがドン底に落ちかけた、そのときだった。

「つむぎ……どんな姿でも、どんな形でも良い、もう一度つむぎに会いたい。もう一度……もう一度……」

 そう呟くと、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

心矢(しんや)!」

(あぁ、ついに幻聴でつむぎの声まで聞こえるようになったらしい。とうとう俺は正気を失ってしまったのだろうか)

「ねぇ、心矢(しんや)! 私だよ! あなたの彼女が帰ってきたんだよ」

(そんなわけがない、つむぎはもう居ないんだ)

「ねぇちょっと! ねぇってば!」

 いい加減うるさいので、声のする方へ振り返る。

「うわぁぁぁぁぁ!」

 飛び跳ねてベッドから転げ落ちた。

 生首だ。目の前に死んだはずの彼女の生首がある。もうとっくに火葬は終えたはずなのに。確かにそこにはつむぎの生首があった。

「大丈夫!?」

 生首が喋った。確かに生首が喋っている。

「ど、どどど、どういうことだ! 本当につむぎなのか……?」

「うん、そうだよ! なんかよく分かんないけど、幽霊になっちゃったみたい」

 つむぎのほっぺをそーっとつついてみる。

「……触れるけど」

「幽霊がみんなすり抜けるってもんでもないんじゃない?」

 今度はつむぎのほっぺをグニッと引っ張ってみる。

「痛い、痛い! ちょっとやめてよ」

「痛覚あるんだ……」

 つむぎから手を離すと、つむぎがムゥッとほっぺを膨らませる。

「さっきから遊んでるでしょ、もう」

 つむぎがジト目でこちらを見つめる。この目だ。この綺麗な目を見て俺はつむぎを好きになったんだ。

 俺の脳内に今までのつむぎとの思い出が、そしてつむぎが死んでからの毎日が走馬灯のように溢れ出す。それに合わせて、目からは涙が溢れてきた。

 気持ちをどうにも抑えきれなくなって、目の前の生首を抱き締めた。

「ちょっ、ちょっと急にどうしたの!?」

「生きてる……つむぎが生きてる……」

「いや……多分死んではいると思うんだけど……」

 確かに腕の中につむぎの温もりを感じる。

「おかえり……つむぎ……」

 俺がそういうとつむぎは優しくフフッと笑った。

「ただいま……心矢(しんや)……」


 ◇ ◆ ◇


 そして現在に至る。周りからの視線は痛いが、俺はこうしてまたつむぎとデートできることが幸せだった。ベビーカーに乗せた生首のつむぎも、少し楽しそうに見えた。

「こら、生首を指差しちゃいけませんよ」

 お母さんに連れられ、子供が去っていく。俺はその子に手を振って見送った。

「意外と怖がらないもんだね、私のこと」

 つむぎがヘビーカーから不思議そうにこちらを見る。

「幽霊ってのは暗いところでぼんやり見えるから怖いんだよ、青空の下でこんなハッキリと見える生首を見たって、別に大したことないんじゃないか?」

「そういうもんかなぁ」

「そういうもんだろ」

 そんなことを言いながら歩いていると、突然つむぎが叫んだ。

「なんかきた!」

 その瞬間、つむぎの髪の毛がピンとハネる。つむぎに見たこともないアホ毛が生えたのだ。しかも左右に小さく揺れている。

「どうした? なんかってなんだ?」

「わかんない、でもなんかあっちにいる!」

「あっちってどっちだよ」

「あっちって言ったらあっちだよ! えーと、だから、左の道! 早く!」

 俺はベビーカーを押して、言われるがまま走った。


 五分ほど走った頃だった。俺は、衝撃的な光景を前にして足を止めた。

「――なんだよ……あれ……」

 目の前には真っ黒な色をした、巨大な蜘蛛のようなバケモノの姿があった。八本の足からはフサフサとした毛が生え、顔には八つの赤い目がギラギラと光っている。

 よくみると口に人だったと思わしきものを咥えているが、既に血だらけでぐったりしている。

「あの……バケモノは……まさか……」

 そう呟いたつむぎの顔を見ると、見たこともないほどに恐怖で顔が引きつっていた。彼氏として彼女の手を握ってやりたいが、あいにく今の彼女には手がない。生首だ。

 蜘蛛のバケモノが咥えていた人間を飲み込むと、ゆっくりとこちらへ振り返ってきた。八つの赤い目が一斉にこちらを捉える。見つかってしまったようだ。

「ヤバい……逃げるぞ!」

 すぐにU(ユー)ターンして、ベビーカーを押したまま走り出した。バケモノがカサカサと走ってくる音が聞こえる。

 その時だった。ベビーカーが石につまづいて倒れ、彼女(の生首)が道路に転がった。

「痛っ」

「ごめん……大丈夫……?」

「うん……だいじょう……、心矢(しんや)後ろ!」

 後ろを見ると、目の前にはバケモノの姿があった。巨大な足のうちの一本を振り上げ、こちらへ向かって振り下ろそうとしている。

(終わった)

 もう駄目だ。助からない。そう思ったその時だった。


「危ない!」


 ――そのときだ。空高くから白髪の男が落ちてきて、バケモノに飛び蹴りを食らわした。バケモノがよろめいて体勢を崩し倒れ込む。

 男は新体操の選手かの如く綺麗に着地すると、そのままこちらには目もくれずバケモノを睨み付けた。

「おい! あんた何もんだ?」

 男に問いかけてみる。

「お前たちはとっとと逃げろ、ここは危険だ」

 男はそういうと、地面に右手をついて何やら呪文(じゅもん)のようなものを唱えはじめた。

「カイイシズメシホウグ、アカツキノカマヨ、ワレノチカラ二コタエタマエ……カイイシズメシホウグ、アカツキノカマヨ、ワレノチカラ二コタエタマエ……」

「あの人、お寺の人かな……」

 つむぎがボソッと呟く。

「えっ?」

 確かに。よくみると男は服の上からいかにも和な感じの羽織を羽織っていて、右手首には赤い数珠をつけている。お寺とか神社とか、そういう類の場所にいそうな格好だ。

「出でよ!」

 男がそう叫ぶと、突然男の前に魔法陣が浮かび上り、その魔法陣から巨大な鎌が飛び出してきた。

 男は飛び出してきた鎌を両手で掴みかまえる。

「除霊開始!」

「なんだ……あれ?」

 あまりに現実味のない光景に、俺とつむぎはポカーンと口を開けてしまう。

 男が掴んだ鎌の柄の部分には、何やら玩具の銃のトリガーのような押しボタンが付いていた。鎌にトリガーなんか付けて意味なんてあるのだろうか。

「あ、心矢(しんや)! 見てあれ!」

 つむぎの視線の先を見ると、さっきまで倒れていた蜘蛛のバケモノがゆっくりと起き上がりはじめていた。

 男がそれに気づいてバケモノに鎌を向ける。そして、鎌についたトリガーを三回押し、それを大きく振り上げ叫んだ。

怪異根滅(かいいこんめつ)! デスサイスラッシュ!」

 男が鎌を振り下ろすと、鎌から紫の光のカッターのようなものが発射される。それは起き上がろうとしていた蜘蛛のバケモノの身体を真っ二つに斬り裂いた。

 するとバケモノはサラサラと砂になって消えてしまった。

 男はそれを見届けると鎌をその場でポイッと投げた。投げた先に魔法陣が現れ、鎌は吸い込まれて消えてしまった。

「ケガはないか?」

 男が振り返ってこちらを見る。

「なんだよ……これ……」


「俺様は狩居太(かりいだ)ジン。除霊師(じょれいし)だ」

毎週月曜日17:00頃更新予定!

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