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理想郷にて

 私はお酒が好きだ。甘いものも好きだ。犬が好きだ。ロボットが好きだ。そんな私だ。そんな私にとって、この絵はとても素敵だ。お酒の絵だ。甘そうなケーキの絵だ。犬もいる絵だ。ロボットもかっこよく立っている絵だ。まるで、私の好きなものばかり集めたようなそんな絵だ。そんな私の好きなもの達の中に、一人の少女がいる。白いワンピースを着た白髪の、可愛らしい少女。私は人間は嫌いだ。そんな絵。


          ※


 ようこそ、ここは理想郷。ここにはあなたの好きなものは何でもあるよ。飲み物も食べ物も動物も、あなたが望めばなんだってここに現れるの。うふふ。ここは理想郷。


 現世には絶対にない理想郷が、ここには存在しているのよ。うふふ。ここではあなたはただ望むだけでいい。それであなたが欲しい物はなんでも手に入っちゃう。あら、目をきらめかせているわね。気持ちは分かるわよ。嬉しいんでしょう。ここにこれて嬉しいんでしょう。まあ、そうでしょうね。ここに来たばかりの人たちは、みんな目をきらめかせてルンルンとているわね。そりゃあそうでしょうね。人間は、いや、そもそも全ての生物は自らの希望を叶えるために行動しているのだからね。そりゃあ、自らの欲望が何でも叶うと分かったら大手をあげて喜ぶでしょうね。


 私? 私はこの場所の案内人よ。ここに来た人に、この場所の説明をするためにいるの。もっとも、説明することなんて何もないんだけどね。ここではあなたが望めばなんでも手に入る。はい、以上。終わり終わり。さぁ、あなたの欲望を満たしなさい。うふふふふ。


 え? なんでこんな素晴らしい場所があるのかって? それは聞かない方がいいんじゃない? この場所で永遠にあなたの欲望を満たし続ければ、きっとそれが素晴らしいのよ。ほら、ロボットに乗り込みなさい。出発させなさい。うふふふふ。ほら、ケーキをたらふく食べなさい。うふふふふふふ。何よ? その目。なんでこんな場所があるのかっていう質問に答えてないのを怒っているの? まったく。この世界の使い方が分かっていないわね。この世界、望めばなんでも叶うの。ほら、頭の中で〝なんでこの世界があるのか?〟の答えが欲しいって願ってみなさい。きっとその答えは、すぐにあなたのもとに届くから。


 うふふ。願ったのね? 願ってしまったのね。もう、そんな疑問持たなければ幸せだったでしょうに。そうよ、ここは正式名称を優しいゴミ捨て場、ダスっていうのよ。ここは何でも望めば手に入る。そんな世界なの。とってもとっても退屈な世界なの。きっと、ここにいると、一週間もしないうちにこの世界が退屈な場所だってことが分かってしまうはずよ。なんでも手に入るからこそ、あなたは何にもする必要がなくなってしまうの。だから、あなたは、金輪際、消費する以外の活動をしなく、いや、できなくなるの。だから、ここはゴミ捨て場なのね。本当に、ここの名前をつけた人は恐ろしい奴よね。でも、言いえて妙なの。ここは、ゴミ捨て場。人間世界でもはや、なんの成長も見込めなくなったものを、ここに放り込むの。この退屈だけど、不満は出ようはずもない理想郷にね。ここで、死ぬまで暮らす。つまり、それは成長の停止を意味するのよ。だから、なんの成長もできなくなったものは、ここに放り込まれる。


 うふふ。望めば、この世界からの出口も現れるわよ。でも、一度この世界から出れば、もう二度と、この世界に戻ってはこれない。あはは。あなたなら分かるでしょ。人間世界ですごすのは苦しい。人間世界でさんざん苦しめられ、心おられ、天界からもはや成長できないと判断され、せめて苦しさをなくしてやろうと思われて、この理想郷にぶち込まれたあなたなら分かるでしょう? 人間世界に戻らずに、苦しみはきっとないこの場所で暮らすというのは、一つの選択肢になりえるのよ。


 あら、それはこの場所からの脱出するための扉ね。願ったのね。あら、足がすくんでるわね。その扉を抜ければ、あなたはまた人間社会で戦うとことになる。それはきっととても苦しいこと。それも分かっているんでしょうね。うふふ。なら、頑張りなさい。苦しいのがいいなら、苦しみなさい。この理想郷を捨てて、人間世界でせいぜい頑張りなさいな。バイバイ。


 あなたはきっと、いいえ、勇敢なあなたは絶対、とても素晴らしい人間になれるわ。本当にもう、ここをゴミ捨て場なんて名付けた奴はセンスがないわね。まぁ、私なんだけどね。でも、これからはここの名前を変えることにするわ。そうね、成長すべき人間の選別地。安直だけど、そんな名前の方がきっとここには似合うわね。うふふ、それじゃまぁ、頑張りなさいなね。ばいばい。

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