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真実屋

 一軒の家の中、明るいオフィスのような場所が見える。まるで個人事務所のようなその場所に、椅子が一つ置かれており、その椅子になんともけだるそうな寝ぐせ付きの男が座っている。クールビズのような、ネクタイなしのカッターシャツにスーツのズボンという格好で座っている。そんな絵。


           ※


 いらっしゃい。お客さんですね。あ、そこの椅子にどうぞ腰かけて。え? うちの店は初めてだって? なら簡単にうちのシステムを紹介しとこうか。


 うちはね、真実屋っていう名前の通り、お客さんに真実を提供するんだ。お客さんのお求めの真実によって値段はよりけりだけど、お金さえもらえれば間違いなく確かなる真実を、お客さんに届ける。え? 真実をどうやって提供するのかって? 例えば一番簡単なコースだと、俺が思った通りのことを告げるだけ。これは千円。お客さんにだってあるだろう? 自分のことを知人に尋ねたいんだけど、その知人が自らに忖度して嘘を言う可能性があるから、言葉を信用していいのかどうかが分からない。そんなことを感じる時。


 例えば、自分のクラスでの評価を知人に聞いたとする。もしもクラスであなたが本当に嫌われていたとしても、あなたに対して〝嫌われているよ〟そう告げる人は果たしているのだろうか? みんな分かっているんだ。言葉は嘘である可能性を有しているんだ。その言葉の悪意のありなしにかかわらず、嘘かもしれない。そんなこと、当たり前なんだ。だから、僕が真実を伝えてあげるんだ。


 例えば、過去の依頼人はこんな質実を所望されていたね。自分の容姿のレベルはどのくらいなのか? 自分の体臭はどのような匂いなのか? 自分の行っている事業が成功しそうかどうか? そんなことを嘘偽りなく俺に聞きに来るんだ。だから、俺は真実を伝える。もちろん、俺の言葉は絶対に真実だ。そもそも俺が真実を言わないとすれば。俺は詐欺でしょっ引かれる。だって俺は真実を売ってるのに、その売っているものが真実でないとすれば、明らかに俺のやっていることは詐欺だろう。だから、俺の言葉は真実だ。信じてくれていい。


 そして、真実を提供するためであれば、俺は必要な情報をありとあらゆる調査で入手する。その調査が複雑になればなるほど価格は跳ね上がるが、金をもらう以上、何としても真実を提供する。それが、〝真実屋〟だ。


 それで、お客さんはどんな真実をお望みなんだい? え? 自分の性格はどうなのかを知りたいのかって? ふむふむ? もっと詳しく教えてくれるかい? ふむ、自らの性格が全く分からなくて困っているだって? 自らが優しいのか、優しくないのか、人に好かれる性格なのか、人に嫌われる性格なのか? その真実が知りたいだって? なるほどなるほど。


 それで、どの程度の真実が欲しいのかい? 俺がこの数分間あなたと話した情報で俺が勝手にあなたはこんな性格だろうと思っている内容がある。たった数分間の情報だが、その数分間の情報で導き出した俺の中でのあなたの性格に対する真実。それでいいなら、千円ぽっきりだね。もしも、もっとたくさんの人、例えばあなたの知人からそれとなく確かなる真実を引き出して、量の多い真実を提供することもできる。もちろん、後者の方が同じ真実でも、より正確な真実になるだろう。でも、そうすると費用は馬鹿高くなるよ。ん? なら、千円のコースで様子を見たいだって? OK。なら、千円もらおう。先払いだ。OK。確かにもらった。では、俺もあなたに真実を提供しよう。


 あなたの性格。臆病だね。この部屋に入ってから、俺とほぼ目を合わせようとしない。それに、今回の依頼内容だって、自らが他人にどう思われているかを気にしてのものだろうから、やっぱりあなたは臆病だろう。だけど優しさはあるだろう。今回の質問は、他人に迷惑をかけているのではないかという不安心理からのものだろう? つまり、あなたは他人に迷惑をかけたくない、優しさを持っているということになる。ただし、その優しさは臆病さからきた可能性が非常に高い。他人に不快感をあたえると、その報復が恐いから、一応優しくしてみる。優しい人にはそういうタイプもいる。貴方の優しさはたぶんそっちのタイプだろう。

 

 それが、俺が今この部屋であなたと話しているうちに感じた真実だ。要約すると、あなたは優しい。でも、その優しさは臆病さからきたものである可能性が高い。だけど、その優しさの出所がどこかには関わらず優しいのは優しいから、他人からは嫌われないだろう。だけど、そういうタイプはえてして好かれもしないんだけどね。

 

 はい、これがあなたの依頼内容に対する回答。もっとお金を積まれれば、もっとたくさんの真実を用意できるけどどうするかい? あ、いらない。まぁ、そうだろうね。了解。ちなみに言っとくと、もしも他に真実が欲しくなったら、一週間以内にここに来な。きっと、来ないだろうけどね。


 何故かって? うち、もう閉店するんだ。真実を話す、〝真実屋〟はあんまり売れ行きが良くないんだ。取り分け、リピート客、すなわち一回依頼完了したけど、後日別件で再度依頼するっていう客がめちゃくちゃ少ないんだ。何故か? 分かり切っている。〝真実屋〟が閉店する理由は一つだけだ。真実に価値がないんだ。人間社会に本当は真実は必要なく、必要なのは、他人を傷つけないおべっかだ。人間社会なんて、嘘で作られており、そこに真実は邪魔なだけなんだ。だから、〝真実屋〟は閉店するんだ。悲しいね。

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