8瓶目 ウィッチ・ザ・ゾンビマッシュルーム
それにしても…多いな。子供が8人いるのか…?
「じゃあ命命、ついてきて。ほらあんた。いつものとこ行って。」
ヨゾラは夫に指示を出す。
「はいよ。いつものとこね。」
土蜘蛛の旦那は幸せそうに従う。
だからなんでこいつ結婚できたんだ?
「わふっ!」
スカルJr.は私を見上げて待っていた。
「スカルJr.、ついていこう。」
スカルJr.はめちゃくちゃキリッとしている。
「わうっ!」
小さな地獄狼はその足で私の後ろを歩いている。
びしゅっ!
蜘蛛の糸がスカルJr.に纏わりついた。
「仔犬ちゃんが可哀想よ。乗せたげる。」
ヨゾラが土蜘蛛の頭上にスカルJr.を乗せた。
「くぅん…」
スカルJr.はこちらを見ている…くっ!可愛いっ!
ヨゾラが経営しているライブハウスの1つ
「みあもーる」に到着した。
宿泊部屋にはハーフドラゴンの青年がいると言っていた。ドラゴンの男にはいい思い出が無いんだよな…
「命命?来てくれたのか?」
ハーフドラゴンの青年は扉越しに私だと理解していた。
「青年よ、お前の名前は?」
ハーフドラゴンの知り合いはあの子以外居ない。
「レヴィ・ウシュムガル…忘れたのか?」
ウシュムガル…そうか。あの子か…
「悪いね。1000年以上前だから覚えてなくて。」
もう1000年以上前になるのか…
「1000年って!アンタ今いくつよ!!」
若い奴らにはわからない。
1000年以上前の魔法界の歴史上最も残酷な事件。
人間魔族生存戦争。
ウシュムガルというドラゴンの王子が自らの命を犠牲にして、私や魔法を持つ魔族達を救ってくれた。英雄たちの一人息子。英雄たちが遺したこの世でたった1つの宝物。
「私の年齢を気にするよりこいつを助けるのが先だろう?大切なドラマーなんだろう?」
部屋に入るとそこから土のような何とも言えない匂いが立ち込めていた。
「レヴィ?無事か?」
そこには身体にキノコの生えたハーフドラゴンの青年がいた。
「なんとか意識はある。ただ動けないだけだ。」
このキノコ…昔みた気がする。
「龍殺戮者?」
思い出した。
ドラゴンの王子でさえもこのキノコに身体を蝕まれて死の淵を彷徨ってしまうほど危険な植物。
本当の名をウィッチ・ザ・ゾンビマッシュルーム。
ドラゴン以外に感染すると大変だ!
「子供達に感染したら大変だ。レヴィと接触した奴らをここに集めろ!全員隔離する!」
レヴィと接触した奴らを集め、隔離した。
「エルフの村の奴らに手紙を送ったから…応援は確実に来るだろう…」
レイメイに手紙を託し、リリアンにも連絡は済ませた。あとは材料と道具さえ手に入れば…
しかし、なぜこんな危険なキノコが?
レヴィは馬鹿な赤子ではない。危ないものだと教えたからわかっているはず。
独りの蜘蛛女が何かを飲んでいた。
「なんだそれは…」
漢方の粉末…?だろうか…
「疲れを取る薬だよ。蜘蛛の都で今流行ってる品なんだよ。魔女様はご存じないの?」
疲れを取る薬…?そんなもの雑に粉末にしたら効果は無くなる。
「失礼を承知で言わせろ。お前ら馬鹿だろ。」
ウィッチ・ザ・ゾンビマッシュルームは上級悪魔が麻薬として使用するもの。表側に来るはずがない…どうやってこっちに来たんだ?
「マモンが安く売ってくれるのよ。」
あの強欲野郎…やりやがったな。
これで殿下が死んだらあいつはどうするつもりなんだよ。
「それを買えるとこ教えてくれるかい?」
感染原因である薬物が買える場所へと私は急いだ。
都の端に構えている「強欲堂」という店だ。
こんな形で最悪な再会を果たすことになるとは私も予想できなかった。
「マモン・N・マンモン!!」
そう彼のフルネームを呼びながら入ると
「命命?!なんで…何のようだ!」
あいつは慌てていた。
「幼馴染みが会いに来てやったんだ。何も隠すことはない。私の逆鱗に触れたくなかったらな。」
マモンは
「幼馴染みじゃなくて元恋人の間違いじゃないか?そうだろう?メイ、ハニー、ベイビー?」
本っ当に馴れ馴れしい!
このデブ、昔はイケメンで優しくて強かったが例のキノコを見つけた途端に強欲になりやがった。
速攻、離れて正解だった。
「元恋人じゃない!こんのド屑のインチキ強欲野郎!!」
マモンの胸ぐらを掴んでひたすら暴言を浴びせた。
「おいおい相変わらず性格悪いな。」
お互い様過ぎて返す言葉がない。
命命の幼馴染みの上級悪魔マモン。
なんとなくただの幼馴染みではない予感?!
次回へ続く。