7瓶目 蜘蛛の都へようこそ
ご存じかしら?
命命の古い馴染みの女郎蜘蛛。
彼女、命命の事が好きだったみたい。
でも命命は振り向かなかった。
どんな関係なのかしらね。
「ハイエルフの末裔…お前にいくつか試練を与え、我が弟子にふさわしいか確かめさせてもらう。かまわないな?リリアン・ルエルフよ。」
私の変わりようにリリアンは気が揺らいだように見えた。やはり所詮は幼子。魔女の弟子になれるはずはない。この…忌み子は、リリンの曾孫は違った。
「いいよ。僕、男の子だから!」
覚悟は決まっているらしい。
「待て待て、お前男の子だったのか?」
リリアンはどちらかといえば女性的というか…
「よく言われます。」
可愛らしい顔立ちだからなのか、リリンの曾孫だからなのかはわからない。私はリリアンに不思議な感情を抱いている。
「わふっ!」
スカルJr.が大釜の下から出てきた。
白銀の毛が煤だらけになっていた。
「わぁ!地獄狼!」
リリアンの一言に驚いた。
「なぜ…お前はこの仔犬の種類がわかるんだ?」
人間界に地獄狼は存在しない。
ならなんで…この子は知っている?
「曾祖母が言ってました。魔法界には地獄狼というケルベロスの末裔がいるって!」
あの女…!!
人間界に魔法界の情報を流して…
私らを滅ぼす魂胆だったのか!
「書物か何かがあったの?」
書物か何かが出回っているとまずい…
魔法界にいる皆が危ない目に遭ってしまう…
「曾祖母がおとぎ話?を書いてました。」
やられた…いつかは狙われる!
「お前には厳しい試練を与え…」
突然、直したばかりの窓ガラスが割れた。
「カァー!!カァー!!」
足に手紙をくくりつけられた月詠烏が突っ込んできた。
「命命!何これ!はじめて見た!」
月詠烏に近づいていくリリアン。
「こいつは…月詠烏!」
月詠烏を捕まえ、手紙を取り外した。
「ご苦労さま。行っていいぞ。」
月詠烏を外へ放った。
「ってことは…」
蜘蛛の糸を織ってつくられた布に炭で書かれた達筆な漢字、間違いない。
「誰からですか?」
リリアンに問いかけられた。
「私の…古い馴染みの女郎蜘蛛さ。」
昔、勝手にあの女郎が私に惚れ込んだだけだけど。
恋を拗らせて、その悲しげな声が魔法界に響き渡って、今や「蜘蛛の歌姫」と呼ばれているんだとか。
何のようで手紙を寄越したんだか。
「命命とどんな関係なんですか?!」
このガキ…
「さあな。昔の事だから忘れちまった。」
手紙を読む事にした。
命命、まだあんたは独りなの?
いい加減いい歳なんだから結婚して幸せになりなさいね!っていうのは嘘。
うちのドラマーが調子悪いみたいでさ、
診てやってほしいんだけど。
明日あたりこっちに来れない?
どこまでも自分勝手なんだ…
「リリアン、行くぞ。」
問答無用で無理矢理杖に乗せた。
今回はスカルJr.も護衛として連れていく。
蜘蛛の都には150年振りくらいに訪れた。
蜘蛛の都は日本の妖怪が多く暮らしている場所で、
酒が特に旨い。織物の質がずば抜けて上物で、反物は1つ数千万もの値がついたものもあるんだとか。
私の服はあのお節介な女郎が寄越したもので数億もの価値があるらしい。
「リリアン、お前の試練はここで女郎蜘蛛の目と呼ばれる植物を探してくること。」
蜘蛛の都のどこかにあると言われている幻の植物。
美しい赤の果実をつけるらしい。
「わかりました!」
リリアンは探しに行った。
「やっぱり来るんだ?来ないと思ったのに…」
ムカつく声がする…
「呼んだのはお前だろう?ヨゾラ。」
可愛げの無い女郎がなんで歌姫になったんだか。
「蜘蛛の都へようこそ。命命。」
そこには足の無いヒト型の女郎蜘蛛が山蜘蛛の背中に乗っていた。
「あんたは相変わらず、性格悪いね。あんたデブなんだからさ、山蜘蛛が可哀想だ。」
山蜘蛛はヨゾラの夫。110年前に結婚したらしい。
「おめぇは相変わらず古臭いねぇ。この人は山蜘蛛じゃなくて土蜘蛛。アタシはデブじゃない。グラマーなんだよっ!」
自慢の大きく熟れた果実を見せつけてきた。
「へーんだ、子持ち熟女のクセに!」
結婚して子蜘蛛が沢山いるのを知っていた。
「んだと!この子無し熟女が!」
勢い余ってヨゾラは夫の背中から転落した。
「ママ!ママ大丈夫?!」
どこからか背中に蜘蛛の足が生えた娘がヨゾラを助けに現れた。
「父ちゃんの背中に乗せて!」
夫の土蜘蛛はというと…
「ヨゾラ…どうしよ…」
オロオロするばかりで頼りなかった。
なんでこんな雄蜘蛛と結婚なんかしたんだか。