1瓶目 鱗の剥がれる病の人魚
こんな話、聞いたことある?
じゃあ教えてあげる。
今から300年以上前に生まれた魔女の話。
その魔女のお母さんは美人だけど落ちこぼれの魔女だったの。なのに生まれたのは美しくて優秀な魔女だったんだって。同じ年に生まれた魔女の子はみーんなダメダメだったらしいよ。
魔法道具も呪文も何もかもが完璧にこなせる魔女だったのに他の魔女は異常的な存在の彼女に寄り付かなかった。何故?って聞くと皆こう言うんだって。
「命命は…壊してしまうから」
可笑しいでしょ?
何を愛してしまうんだかわからないし、それだけじゃ寄り付かない理由にならないでしょ?
300年以上経った今でもこの魔女は若い姿のまま生き続けてるんだって。
なんで私がこの話を知ってるかって?
それは私が魔女の命命だからだよ。
私は異常者だ。
馬鹿な母親と何の魔獣の混血なのか自分でもわからない。
母親は私を残して魔女狩りに遭って死んでしまったし、父親の事を知っている人物はもうどこにも居ない。
昔は魔女がもっと沢山居た。
予言をする者、呪術を得意とする者、魔法道具を作る者、魔法薬を造る者、魔女にも色々な役職があった。沢山あったんだ。
それなのに、魔術を恐れた人間が魔女狩りだなんだと騒ぎ立てて…!
私の母親を返して…!皆返して!
ふと目が覚めた。また変な夢だった。
今は日本のとある県にある魔法界の入り口周辺のオンボロ屋敷に私は住んでいる。
顔を冷たい井戸水で洗ってから、魔法薬を持って近くの森の池へと向かった。
この森は魔女の森と呼ばれていて滅多に人間が入り込むことはない魔獣や魔女にとっての特別な場所。
「おはよう命命。」
人魚のカイン。私と同い年ほどの好青年だ。
この森の池の主で、鱗が剥がれる病を患っており、
私は治療のための魔法薬を、カインの集める魔法薬の材料と引き換えで薬を渡している。
「おはようカイン。今朝の具合は?」
患者の体調によって薬の量を決める。ここら辺は医者と同じだろう。
「あぁ、元気だよ。これ貰ってくれる?」
にっこり笑っているカイン。
その手にはびしょ濡れの袋が握られている。
カインが袋を開けると中には貴重な薬草である
「きらめく水草」が袋いっぱいに詰まっていた。
「きらめく水草…こんなに沢山どうやって…」
きらめく水草は万能薬の材料として使われるが
特別な条件下でしか育つことのない少々面倒くさい
魔植物である。
・水温が40度以上
・日の光ではなく月の光が当たる
・人魚の恋心を肥料にする
「実は僕、サラマンダーと人魚の混血なんだ。」
サラマンダー
蜥蜴のような魔獣。炎を帯びていて素手で触ることは不可能。体温は100度以上になることも。
人魚
下半身は魚、上半身は人の魔獣。体温を低く保たないと命に関わる。
「僕が体温を上げて水温を40度に保った。」
カインは得意気にしていた。
「カイン、無理に体温を上げたら火傷するよ。」
人魚の火傷は治りづらく、下手をすると命に関わる可能性もある。
「サラマンダーの方の血が濃いから…」
カインはサラマンダーの耐熱性を受け継いでいるらしい。
「カイン、鱗見せて。」
カインの鱗を見ると魚の鱗ではなく爬虫類のような細かい鱗に変わっていた。
「綺麗に治ってるよカイン。」
カインはどこか寂しそうにしていた。
「もうこの池には来なくなるんだろ?」
池の周辺には沢山魔植物や薬草がある。来なくなることはないだろう。
「この池の周りには魔植物が沢山育ってる。来なくなることはない。」
カインの顔には安心したと書いてあるようにみえて
なんだか安心した。
「必ず会いに来てくれ。」
カインはそういうと池の中に潜っていった。
「必ず会いに来るよ。」
私は池を後にした。
私には鱗のようなものは身体には見当たらない。
つまりサラマンダーや人魚の混血ではない。
どんな生物との混血なのだろうか。
優秀な魔女の命命の物語は始まったばかり。