もう一度手を握って
[ゴメンって言えないんだ]
秋の紅葉が寂しく宙を舞っている。
「はぁ、お前なんて……反省しろ」
「あぁ?こっちのセリフだ。馬鹿千夏!」
「ブーメランだぞ。」
「黙れや!」
千夏と喧嘩した。
どこかに行ってしまう後ろ姿に正直になれなかった。
俺が悪い。どう考えても。
一人の昼は久しぶりだ。
いつもは…千夏がなんだかんだ言って一緒に食べてくれる。
アイツの弁当はいつも美味しそうで一つおかずをくれる。
一人の帰り道は久しぶりだ。
いつもは、いつもアイツの隣で俺が一方的に喋っている。
いつもよりも蝉の鳴き声が小さい耳に入る。
一人の登校は久しぶりだ。
毎朝アイツがなんだかんだ言って待っていてくれる。だけど、今回は待ってくれていなかった。
いつも人がいる電柱前は、寂しい風が流れている。
一人の移動教室は久しぶりだ。
一人で歩く廊下は足音がよく響く。各教室から聞こえる笑い声が俺と境界線を引いていく気がする。前で笑っている千夏に声をかけられなかった。
その少し寂しそうな後ろ姿に。
伸びた手は寂しい空気も掴めず下に落ちた。
謝ろうと何度も思ったが謝ることができなかった。
謝り方を知らない。
ゴメンなんて言葉を言えば済むわけではないんだ。俺が許せない。
一度喧嘩したら、今まで繋いでいた手が離れたような気がするんだ。
その手のひらににもう一度手を置くのは、それ相当の勇気と許しを乞う必要があると思う。
相手が望んでいなくても、俺はそう考える。
だけど、ゴメンっていうのも正直怖い。
かと言って聞ける友達もいない。どうすればいいのだろう?
直接いうのは恥ずかしいし、電話は顔を見れないから逃げた感じがする。
机の上にはノートとシャーペンが一個づつ。
俺は思いついたかのようにいうに座った。
次の日。
朝いつもより早めに出て、千夏の家の前で待っていた。いつもと同じ時間に出てきた千夏。こちらを見るなり瞳を大きく見開いた。
「なんだ?」
「あ、あの千夏……」
「ん?」
「あの、コレ」
「手紙?」
「コレ、その…」
「開けていい?」
声が出なくて小さく頷く。
手紙を開けて一分後。
「ゴメンなさい」
小さく呟いた俺の声は君に聞こえただろうか?
「ふふっ、いいよでも」
「ラブレターかなにか?」
「はぁぁぁあ」
「嘘だよ」
「でもさ、わざわざ手紙って…それにど真ん中に大きくゴメンねって」
「…悪いか」
「いいや、馬鹿すぎて」
「あ?」
「いいや、馬鹿は好きだ」
「そうかよ」
いつも通りの朝に戻った。
そこには温かい風が流れている。
小さく呟いた。
「一人は寂しかったなぁ、」
「なんか言った?」
「いいや」
いつも横にいると思っている君は簡単にどこかに行ってしまうんだね。
「ほら行くぞ」
と笑う背中は嬉しそうな温かい背中に見えた。
「私も寂しかったよ。」
「なんかいったか?」
「うんん」
秋の紅葉が楽しそうに宙を舞っている。
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