俺の聖獣が卵だった
小説家になろうでは初投稿作品となります!
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この世界では六歳になると神から相棒となる聖獣を授かる。神からというのは教会に行ってお祈りをすると貰えるから。だからそんな風に言われている。
何故六歳なのかとかそこら辺は知らない。ともかく父さんと母さんに聞いた時は知らないって返答しかされなかった。きっと学校とか教会の聖書?とかを読めばきっと分かるんだろうと思う。まあ別にそこまで気になる訳じゃないからそうまでして調べる気は無いんだけど。
ともかく、六歳になると神から聖獣を授かる、それだけだ。
俺がこのことを知ったのはこの世界に転生して一年ぐらい経ってからだったかな?
父さん母さん、それに村の大人たちの傍には常に聖獣がいてそれが何なのだろと身振り手振りを使って必死に聞いてみた成果である。
それで大人には皆いるけど、子どもの中には聖獣を持ってる子と持ってない子がいる謎が解けたのだ。
俺は最初、てっきりテイマーを代々輩出するエリートテイマーの村とかに転生したのかと思っていた。
そんな訳で、一昨年には俺の姉さんが相棒となる聖獣を授かっていた。
ちなみに俺の家は俺を含めた四人家族。それぞれの相棒は父さんが羊、母さんが狼、そして姉さんが蛇の聖獣を授かっている。
そして今年、ついに俺も神様から聖獣を授かる歳になった。
つまりは今年で六歳になるのである。
今日はそんな俺の誕生日前日の夜、六歳を迎えた俺の誕生日を家族で祝ってくれていた。
「「「おめでとう、ライス~!!」」」
「みんな、ありがとう!」
そう、俺の名前はライス。転生する前の世界ではご飯を表す言葉として使われていたそれが今の俺の名前である。
何故、と。そう疑問に思うことは何度もあったけど、人とは不思議なもので呼ばれているうちに慣れてくるのだ。六年間もライスと呼ばれ続けると自然と自分の名前はライスなんだと刷り込まれる。
こっちの世界では別にライスとはご飯を表す言葉ではないらしく、偶然父さんと母さんが考えた俺の名前がライスになっただけのこと。
ただ父さんも母さんもそこまで学がある訳ではないようなので若干、というか普通に都会に出た時に「お前の名前ってお米のことじゃ~ん!」とか言われるんじゃないかと未だに不安に思ってる……
「それにしてもライスも今年で六歳になるのかあ。子どもが成長するのは早いなあ~。この間まではこんなに小さかったのに……」
「そこまで小さかったのは赤ん坊の頃ぐらいだと思うんだけど……」
父さんが両手を使って表現したのがほんの十数cmぐらいの幅だったので、そうツッコミを入れる。
「子どもの成長っていうのはそれぐらい早いってことよ。私だってついこの間までライスがこのぐらいのサイズだったと思ってるもの」
「母さん、それはもはや生まれてないよ……」
母さんが指で何かを摘まむような形で豆粒ぐらいの幅を作った。
「これでライスも相棒持ちね! ライスの聖獣はどんなのがくるんだろう。ねっ、オロチ!」
「……」
姉さんが自分の膝の上にいる蛇の聖獣にそう話しかける。それに応えるように蛇の聖獣がしゅるると舌を出す。
別に俺は姉さんに向こうの世界の神話とかを教えた覚えは無い。本当に無いっ。
だというのに無限にある言葉の組み合わせからオロチという言葉を作ったのが恐ろしい……
まさかそんな化け物にはならないと思うけどひょっとしたらと思うと、姉さんにはオロチには絶対にお酒は飲ませないように言っておいた。あと毎日の日課としてオロチの頭が分かれたり、生えてきたりしてないかを確認している。今のところはその兆候は無い。
「そうだな。ライスはこんな聖獣を授かりたいとかの希望はあるのか?」
「ええ~、そうだなあ。あんまり狂暴、というか怖い見た目じゃない聖獣がいいかな?」
もっと言えば鳥とか竜とか空を飛べる聖獣だと嬉しい。偶にこの村にやってくる旅人とかが自身の聖獣の背中に乗って旅をしているのとかを見ると羨ましくなる。
いいよね~、空の旅。やっぱりジャンボジェットとかじゃなくて単独で空を飛ぶのって憧れるんだよなあ~。
「そこら辺は安心しろ。聖獣は基本的にみんな温厚な性格をしているからな。まあ中には少しやんちゃな奴もいるけど、暴れまわったりするようなのはいないと思うぞ」
「でも私のがーくんは可愛いって見た目じゃ無いけど、怖くはないでしょ?」
「そりゃあ、ね。小さい頃から一緒にいるし、それにがーくんは怖いってよりはカッコいい見た目だから」
母さんの足元で伏せている狼の聖獣が母さんの相棒であるがーくんだ。名前に関しては何も言うまい……
がーくんはイケメンならぬイケ狼ですごく凛々しい見た目をしている。きっと狼界隈ではとびっきりの美形に違いないと思う。
「じゃあ父さんのエリザベスみたいな聖獣はどうだ? 大人しくて可愛くて、まさにライスの理想のタイプの聖獣じゃないか?」
「ああ~、エリザベスみたいな聖獣もいいな~。ふわふわもこもこで見ても触っても癒されるし~」
少し離れたところですやすやと眠っている羊は父さんの聖獣、エリザベスである。父さんのネーミングセンスに関しても、何も言うまい……
確かにエリザベスみたいな聖獣もアリだ。空を飛ぶのも確かにロマンではあるけど、日常の中にもふもふな相棒が出来るのも悪くない。
「まあともかく、だ。明日は朝から教会に行くから楽しみ過ぎて夜更かしするんじゃないぞ?」
「ちょっと、俺だってもう六歳なんだよ? そこまで子どもじゃないって――」
そうして誕生日のお祝いは続き聖獣について話したり、この六年間の思い出話をしたりなどして盛り上がった。
翌日、俺は盛大に寝坊した。
「だから夜更かしはするなって言ったじゃない」
「……ごめんなさい」
だっていざ自分が聖獣を貰えるとなったらドキドキするじゃんっ! 眠れなくなるじゃん!!?
そわそわ、ごそごそと明日に思いを馳せながら寝返りをうったりしていたらいつの間にか表が薄っすらと明るくなっていた。
そして、そういう時に限って眠気がやってくる。
で、結局そんな時間に寝てしまたこともあり今の俺はすっごく寝不足。母さんに叩き起こされなければきっと昼頃までは寝ていたと思う。
「ほら、今日ぐらいしゃきっとしなさい!」
「あい……」
「二人とも、準備は出来たか?」
「まあ寝ぐせも直したしこれぐらいでいいでしょう――こっちも準備できたわよ」
母さんと姉さんはお留守番で、教会へは俺と父さんだけで行く。
確かに聖獣を授かるのは一大イベントではあるのだけど、まあこの世界の人達にとっては恒例行事というか慣れてもいる。
ああでも上流階級の家とかでは授かる聖獣によって出世とか将来に関わることになるから、家族総出で来るという家も珍しくはないとか。
まあうちみたいな田舎村の農家にはあんまり関係ない話ではあるんだけど。俺自身、都会に行って身を立てたいとかそんな夢も無いし。
でも今後一生を共にする相棒たる聖獣を授かる日だ。
いい感じの聖獣が来ることを願っておこう。
そうしてやって来た教会。そこには既に今年で六歳を迎える子どもたちとその親が集まっていた。
この聖獣を授かる日、実は一年の内でこの一日のみ、『聖獣の日』と決まっている。基本的にはその日までに六歳になった子どもが、その日に教会に行き聖獣を授かるのである。
俺の誕生日はその聖獣の日の一日前、つまりもう少し生まれてくるのが遅ければ俺はもう一年この日を待たなくちゃいけなかったということである。
教会のあるこの場所は、俺や家族の住んでいる村から2~3時間ほど馬車に揺られた場所の大きな街に建っている。教会といっても田舎の小さな村全てにには無いので、この街の周辺にある村々の子どもたちはこうして街の教会に集まってくるのだ。
「おお~、今年も中々の数がいるな~。ざっくり数えただけでも――100人ぐらいはいるか?」
「そうだね。これだけの数がいるとかなり時間が掛かりそうだし、これ以上増える前に俺達も受付済ませちゃおう」
「そうだな。よし、こっちだ――」
そうして受付を終えると、順番はギリギリ100番以内だった。ちらちら受付を見ていると俺の後にも続々と受付に来る親子がいたので最後という訳では無さそうだ。というか父さんの言うように朝早くに来てなかったら一体何番目になっていたのやら……下手すると1000番目とかになっていたかもしれない。
暫くして何番から何番までという形で教会の中に呼ばれる。
最初に呼ばれたのは50番目まで、俺は二回目の呼びかけで教会の中に入ることが出来た。
最初の50人が出てきたときには、それこそ多種多様な聖獣が親子と一緒に教会から出てきた。獣、植物、妖精、精霊?などなど本当に色々な種類の聖獣を見ることが出来た。
そしてそのどれもが小さく可愛い見た目の聖獣だった。聖獣は最初から成体の姿ではなく徐々に成長してく。だからあの子たちが授かった聖獣もいずれ大きく逞しく成長するんだろう。
「おっ、あの子は領主様のご息女じゃないか?」
そう言って父さんが見ていたのは桃色の髪が特徴的な美少女だった。
ただその子は自分の周りを飛ぶ鳥型の聖獣を見て何故だか悲しそうな目をしていた。
「良い聖獣じゃなかったのかな?」
「そうかもしれないなあ。領主様の娘ってことは貴族だから色々あるんだろう。それよりも、ほら。ライスも行くぞ」
「うん」
鳥の聖獣だっていい聖獣だと思うんだけどなあ~……
教会の中では子どもが一人ずつ祭壇の前に跪き祈りを捧げる。そうすることで祭壇から光とともに聖獣がその子どもの元にやって来た。
やって来た聖獣の種族名を神父様が読み上げ、同時に聖獣の成長を目で確かめることが出来る『聖獣カード』を受け取る。
聖獣カードには聖獣の種族の他にも基礎能力や聖獣が持つスキルなどについてが書かれている。
父さんのカードを見せてもらった時には本当にゲームみたいな仕様だなと思った。まるでモンスター育成系のゲームのようだ。
そうしていよいよ、最後の方になって俺の番がやって来た。
神父様に名前を呼ばれて祭壇の前に行きそこで跪く。
捧げる祈りはちゃんとした言葉があるが、それも二、三言ぐらいの子どもでも喋れる程度の文言である。
それを口にすると後は神父様の仕事だ。俺の後ろで長々しい言霊を紡ぐと、途端に祭壇が光を放つ。
――狂暴じゃなくて出来れば可愛い感じの聖獣をお願いします
それほど希望が無かったのでそんなことを神様にお願いしつつ俺の聖獣がやってくるのを待つ。
そして祭壇が一際強い光を放つと、一つの影が俺の前に降り立った。
ソイツは随分シンプルなシルエットをしていた。まん丸、というか楕円形? まるで大きな卵みたいな見た目で――
「聖獣の種族は――た、卵っ! ライスよ、この聖獣が汝のパートナーである!」
神父様が珍しく噛んだ。会場が俄かに騒がしくなった。
そして俺は目の前にいる聖獣から目を離すことが出来なかった。
「卵……?」
「……(ピクピク)」
俺の言葉に反応するように細かに動くそれは、紛れもない卵だった。
あらすじでもあった通り、この作品は短編一話のみで書いています。
今後、この作品の構想が広がって連載できそうであれば続きを書いていきたいと思っています。ただし、その予定は未定ですので気長にお待ちください。
それではこの作品、またこの作者が投稿する新しい作品について。
今後ともなろうさんの方で活動していきますので、よろしくお願いします!