未完は甘え
無酸素で書き上げた100の駄作の一つです。
なので見直しもしてないです。
たぶん支離滅裂です。
それでもゴールテープを切ることに意味があるはず。
あとタイトルなんですけど
蜜柑はあめえ
って読むとそりゃそうだろって思いますね。
俺は考える。
創作はアートだ。
組み立てた木枠に皺ひとつないキャンバスを張り、自分だけの世界を構築する。
そこには一点の妥協もあってはならない。
線を引いては消し、色を乗せては捨て、思い描いた理想が形になるまで探究を続ける途方もない旅なのだ。
私は考える。
創作は落書き帳よ。
思いつくままに書き殴り、短距離走のように無酸素で書き上げる。
何度も何度も何度も何度も、手がかりを見つけては、それを手繰り寄せるように、暴力的に言葉に変換する。
100の駄作を書き上げれば、一つくらい名作が紛れているはず。
空白の方が割合の多いキャンバスをペインティングナイフで切り裂き、アーティストの苦悩を気取るなんて滑稽だわ。
完成させなければ何も始まらない。
私はそう信じている。
だから私は今日も、ペンに鞭を入れ、止まりそうな足を加速させる。
金賞、佳作、入選
俺の絵は評価された。随分幼い頃から。
線だったのか構図だったのか、色味なのか。
今となっては何が評価されたのかもよくわからない。
中学の時、公募展に応募してみないかと先生に言われた。
当然引き受けた。自信があったからだ。
が、結果から言うと、駄目だった。
漏れたのではない、そもそも描き上げることが出来なかったのだ。
振り返ってみると、今までは
描いた絵の出来がいいからたまたま賞が付いてきた
という状態。
俺は 賞を取るための絵 を、描いたことが無かった。
とにかく恐ろしかった。
別にプロの画家でも何でもないと言うのに、引いた線が蛇足のように感じられては消し、見たままの色を表現するとありきたりだと笑われるような気がし、奇抜さを求めれば、アーティスト気取りの擦れた子供だと嘲られるのではないかと。
何を表現すればいいのか見当もつかない。
抽象的な線を引いては不鮮明な色で画面を埋め尽くし書き直す。
穴を掘っては埋めるような作業、詰まるところ、俺は期待に応えられる絵を書き上げる自信を失ってしまったのだ。
はっきりいって調子に乗っていた。
描き上げれば評価されるのに。
描き上げさえすれば評価されるものが出来るのに。
下手なものは見せられない。
一片でも気に入らない作品を提出したなら、天才の価値が下がってしまう。
気付くとそんなくだらない思考に囚われていた。
私はいつも夢想し、空想する。
見たこともない世界を。誰かが作った世界の続きを。語られなかった物語を。
最初は昔読んだ漫画からだっただろうか。
バイトで生計を立てながら、バンド活動をする青年
私は何故か彼の行く末にとても興味を引かれた。
だが、彼はその作品の主人公では無かった。
その物語の中心ではない彼が夢を諦めたのか、アーティストとして大成したのか語られることは無かったのだ。
私はそれに酷く憤った。
何故作者はこの人物の人生をちらと垣間見せたのだろう。メンバーとの軋轢やバンドとしての行き詰まり、その後彼らはどうなったのか?
幸せなカップルとして結ばれた主人公達のことなど頭に入ってこなかった。
私は想像した。
きっと彼は地に足のついた職にシフトチェンジしようとするメンバーを説得し、勝負の一曲を、渾身の音源を作成し、レコード会社へ持ち込むのだろう。
そこではボーカルは評価されたが、演奏の評価は芳しくない。
ソロでなら上に掛け合ってみても良い、腕に覚えのあるサポートメンバーなら心当たりがある。
そんな言葉をかけられ、夢と絆の狭間で苦悩するがバイト先ではそんなことはお首にも出さず、余裕綽々を装う。
なんて。
後にそれが二次創作と言われるものだと知った。
私はどうしても納得がいかなかった。
彼の人生のゴールとまでは言わずとも、通過点のいくつかを見届けたいと強く思っていた。
だが、それは彼の言い分、彼だけの言い分。
メンバーは?レコード会社の担当者は?
その時どんな思惑が動き、どんな苦悩を抱えていたのだろうか。
物語が無限であることに気付いた時、私は興奮を隠せなかった。
二次創作に限らず、私は
誰かの人生を想像すること
の楽しさに取り憑かれた。
公園の砂場、一人で砂山を作る少年。
名札に研修中の文字がある、白髪の高齢男性。
雨の中歌いながら歩く女性。
全てに今とっている行動の起因があり、そうしたい理由が、そうせざるを得ない事情がある。
私のノートは瞬く間に埋まり、本棚の一角を侵食していくことが誇らしかった。
私の創作意欲は、未完から来ている。
正確に言えば、未完ゆえに描かれ無かった未来への渇望だ。
だから私は未完というものがどうにも好きになれない。
片鱗を見せた以上、ある種のゴールを提示して欲しいのだ。
それが納得いくものにせよ、そうでないにせよ、その世界を構築した本人の口から語られるのならそれが正伝となる。私はそれが見たいのだ。
私の兄は小さい頃から誰かに評価されていた。
幼い私も、兄が描き出す世界にわくわくしたものだ。
だが、兄は変わってしまった。
いつしか片鱗をほんの少し見せては世界を閉じてしまう、魅力的な光景が姿を覗かせては完結することなく巻き戻される、さながらタイムリープのような時間軸に迷い込んでしまった。
どちらが正しいとか間違ってると言う話ではない。
私は結末が知りたいのだ。
それが見知らぬ誰かの夢になる世界を作り出せる人間が負うべき責だと思う。思っている。
私は勝手に思っている。勝手で悪いか。
今日私は兄と戦います。
捻れてしまった時間を、メビウスの輪、なんて洒落た名称の何かを、ちぎってもちょんぎってもいい。時間が正しい流れを取り戻すなら、その捩れをくいと少し押し戻すだけでもいい。
思いつく限り口汚く言ってやる。
面白そうな予告編ばかり撮ってないで本編をみせろと。