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第6話 村長の証言

 難民キャンプは、寄せ集まるようにいくつものテントが張られていた。そして、外で洗濯物を干している女性のエルフがいる。


 バネットは、その女性のエルフに声をかける。


「すみません。カーネスト商会保険事業部のバネット・バックラーと申します。先日の村の火事のことで、お話を伺いたいのですが……」


「ああ。保険会社の方ですか…… それはどうも」


 女性のエルフは、ペコリと丁寧にお辞儀をする。それからバネットに言った。


「話でしたら、まず村長にお聞きいただければと思います。ご案内しますので、こちらにどうぞ」


 女性のエルフに案内されて、バネットとミネアは村長のいるテントに向かった。


 その途中、ミネアはふと誰かに見られているような気がして振り返る。


 テントの陰からフード付きのマントを着た小柄な人影があった。子供のエルフだろうか? 頭にフードを深く被っていて顔は見えなかった。


 ミネアの視線に気づくと、その小柄な人影は逃げるようにテントの奥に消えて行った。


「何してるんだ? 新人! 置いて行くぞ!」


 バネットの声が聴こえて、ミネアは「待ってくださいよー!」と慌てて追いかける。



 村長のいるテントの中に入る。テントの中は狭く、大人3人が入るとやや窮屈だ。


「私が、村で村長をしております。グリウェルと申します」


 見た目が60代くらいの老人のエルフが名乗った。エルフは人間に比べて寿命が長い。人間では60代くらいだが、実際に何歳なのかは分からなかった。


 バネットが村長に自己紹介をする。ミネアも続けて名乗る。


「はじめまして。カーネスト商会保険事業部のバネット・バックラーです」


「ミネア・ストーリアです」


 村長は、丁寧に頭を下げる。


「これはこれは、お忙しいところお越しいただきありがとうございます。見てのとおりの有様で、何のおもてなしもできませんが、ご容赦ください」


「お気遣いなく。さっそくですが、先日の村で起きた火災についてお話をお聞きしたいのですが」


 バネットが話を進めると、村長はゆっくりとした口調で答えた。


「ええ。1週間前の夜のことでした。突然、出火いたしましてな。それからは、火の回りが早く。あっという間に村全体が燃える大火事になってしまいました」


「出火の原因に心当たりはありますか?」


 バネットが尋ねると、村長は首を横に振った。


「いえ。分かりません。丁度、夕飯時でしたからな…… 台所などの火の不始末が原因じゃないかと思いますが……」


 昨日、バネットとミネアは現場で魔力感知器を使って魔力の痕跡があったことを把握している。魔術によって火災が起きた可能性が高いことを把握していた。


 しかし、バネットはそのことに触れずに話を進めた。


「今回の火災で怪我をされた方はいなかったと聞いておりますが……」


「ええ。不幸中の幸いでした。村人全員が速やかに避難できましたので。もう少し遅い時間だったら、就寝中の者もいてそうはいかなかったでしょう」


 エルフの村の住居は、全て木製の小屋だった。石造りの建物はない。火の回りは、かなり速かっただろう。しかし、それにも関わらず47名の村人が全員無事に避難できたのは驚きだった。


 ここで、バネットが話題を不意に変える。


「ところで、エルフの皆さんは生まれつき魔力の高い方が多いと聞いています。村人の中に炎の魔術をお使いになられる方はいますか?」


 それを聞いて、村長の目が一瞬泳いだような気がした。村長は少し間を置いてから質問に答えた。


「いいえ。確かに、村人全員ではありませんが…… 魔術を使える者は何人かいます。しかし、我々は森に住む森エルフ。古くから炎の魔術は禁呪とされていましてな。故に、炎の魔術を習得している者は1人もおりません」


「そうですか…… ちなみに、火災が発生した時。誰か魔術を使いましたか? 例えば、火を消すための水の魔術とか?」


 バネットは質問を続ける。


 魔力感知器により、魔力の痕跡があることははっきりしている。しかし、それが炎の魔術とは限らない。消火のために水の魔術を使っていれば、その痕跡かもしれないのだ。


 しかし、村長は首を横に振って答えた。


「いいえ。魔術が使えると言っても、我々は所詮ただの村人。日常的に魔術を使うことはありませんし。その魔力も微々たるもので…… 火を消すほどの水の魔術など使える者はおりませんな」


「そうですか…… 分かりました」


 では、あの魔力の痕跡は何だったのか? やはり誰かが炎の魔術を使ったのだろうか?


 バネットは最後に村長に言った。


「火災の原因について、まだ調査したいので、他の方にもお話を伺いたいのですが…… よろしいですか?」


「ええ。もちろんです。我々にできることは何でも協力させてもらいます」


 村長の許可を得ると、バネットとミネアは礼を言ってテントの外に出た。


 バネットは、懐から1枚の紙を取り出す。事前に把握しておいた村人の名簿である。


「よし。新人! これから他の村人にも1人づつ話を聞いていくぞ」


「はい! 先輩。村人は47名ですから、今話を聞いた村長を除けば、残り46名ですね!」


 その後、バネットとミネアは、名簿にチェックしながら村人たちに話を聞いて回ったのだった。



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