三節 第十三話 天界
長い間更新できず申し訳ありません。三節スタートのです!
「っは……!! はぁ……はぁ……ここは?」
悪夢から目覚めるように瞼を開けると泉の中央にあるベッドにいた。体を起こし周りを見渡す。塔のように天井は高く、泉の周りを囲うように真っ白な鈴蘭が咲き誇り、水は綺麗に透き通り、優しく粼と歌声が聞こえた。
困惑していると中央へと続く通路から純白の修道服を着たお淑やかな女性が数名此方にゆっくり歩いてきた。
「お目覚めになったのですね。ガブリル様」
「目覚めた……? ではここは……」
「神歌の泉でございます」
〈神歌の泉〉
神の涙と呼ばれる泉を中心に十五基の塔が建設されている憩いの間。そこでは傷付いた天使を癒すため、各塔に三十二名の癒しの天使が配備されている。彼女達の歌声はどのような傷も癒し、更には精神の傷までも癒す奇跡の力。癒しの天使には清く正しい心を持ち、他者へ無償の愛を捧げることの出来る淑女にしか成れないとされている。
「しかし何故ここに……?」
「ガブリル様には呪いが掛けられておりました」
「呪い、ですか……?」
「はい。我々も詳しい事は聞かされておらず、これ以上お答えする事が出来ません」
───屈辱だ……あの者は必ず僕が……!
あの時の記憶が蘇る。自身の想定外の事が起き、息を着く間も無く圧倒された。まさに完膚無きまでにとはこの事だ。プライドに傷がつき怒りで震えていた。
すると淑女はベッドの傍まで近寄り、左手で軽く握った右手を包み拝むように手を組み、片膝をついた。
「ガブリル様の心の痛みを感じます。わたくし共の力が及ばないばかりに申し訳ございません。なんなりと罰をお与えください」
その声はなんとも美しく、荒立つ心の波が嘘のように消えてなくなった。我に返りこれではいけない、神に仕える天使ともあろう者が他者へ憎悪の念を向けるなどあってはならない事であると自らを戒める。
「申し訳ありません。少し冷静さを欠いてしまいましたが、貴方の声で穏やかな気持ちを取り戻しました。流石は癒しの天使ですね」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「ガブリル様、こちらをどうぞ。お召し物でございます」
連れ添っていた侍女が綺麗に折りたたまれた衣服を差し出してきた。
ベールを脱ぎ捨て渡された服に袖を通す。上下共に白一色の背広だった。シャツのボタンを首元まで閉め、ネクタイを通す。背広を羽織りボタンを二つ閉めした。
───取り敢えず事情を知っていそうな方を伺うとしますか
水面を見るとそこには正装した自分の姿が映っていた。髪を整え、顔を整える。これで準備万端だ。
「それでは僕は失礼します。ありがとうございました」
「健闘を祈っております。何卒お気を付けて行ってらっしゃいませ」
淑女は深く頭を下げ、その横をガブリルは通り過ぎる。大きな扉を開き外に出ると、雲ひとつ無い青空に、暖かい日差しがガブリルを迎えた。
眩しい太陽に目を細め、両手を広げ天を仰いだ。
「とてもいいお天気。まるで最高神様が祝福してくださっているようですね……」
「おーい! ガブリルーー!」
聞き馴染みのある声が聞こえた。声のする方へ目をやると真っ白な二枚の翼を持ち白銀の鎧に身を包み、薄橙色の馬の尾の様な髪を揺らし少女が手を振り上げ走ってきていた。
「はぁ……こんなにも素敵な祝福を受けて早々、何故貴方の顔を見なければならないのですか……」
「ちょっとそれどういう意味!? 折角ガブリルの唯一の親友の私が見舞いに来ているのだから「ありがとうございます。来てくれてとても嬉しいです」くらい言えない訳!?」
「頼んでもいませんし願ってもません。気分を害されました」
「ムッキー! なによ! そこまで言わなくていいじゃない!!」
少女は顔を真っ赤にして地団駄を踏み始めた。
彼女の名はイエゼル。ガブリルとは古くからの知り合いであり、互いに切磋琢磨してきたガブリルを親友だと自称している。知的で聡明なカブリルとは真逆で熱血で脳筋な彼女。
しかし彼女はガブリルと同様、十三熾天使の一人。十三熾天使一束であり、天命騎士団の団長も務めている。彼女が戦地に赴けば勝利は間違いなしと謳われる程、近接戦闘において彼女の右に出る者はいなかった。
「そんなことより、貴方がこんな所へわざわざ来るという事は僕に何か用があるのでは?」
「全く、仕事話に関しては敏感なんだから。そうよ、十三束の花園を開くそうよ。起きてたら一緒に行こうかと思って来たのよ。しかも全員参加らしいよ!」
十三束の花園とは天使が住まう世界、天界に於ける最上位の存在である十三人の熾天使が一堂に会する定例会の事である。だがどういう訳か二人が参加するようになった時は空席が目立っていた。
「そうですか。それはちょうど良かったです」
「それにしても、カブリルが負けるなんて、珍しい事もあるもんだね」
「貴方は耳が早いですね」
「そりゃ団長ですから!」
彼女の底無しの明るい性格は尊敬すべき所なのだろうが、この性格にいつも振り回されているからか素直に褒める事が出来ないのだ。
「というか、五日も寝てたんだもん。流石に知ってるわ」
そんな彼女から耳を疑うような事を聞かされた。経験上、彼女は虚言を口にしたことは一度も無い。この状況で自身を騙す様な悪ふざけだとしたら、その頭に手刀を入れたくなるが、良くも悪くも真っ直ぐな彼女がそんな事をするとは思えなかった。
「それは本当ですか?」
「うん、聞いてないの?」
「えぇ、何かご存知ですか?」
「ううん、知らない」
とキッパリした態度にガクッと肩を落とす。
「なんとも本当に、期待外れで予想通りです……」
「ちょっと!折角心配して来てあげたのに!私は長い付き合いの友達!親友でしょ!?もっと大切にしなさいよね!」
「はぁ……では僕の事も大切にしてほしいものです。まずはキンキンと五月蝿いその大声をどうにかしてください」
ガブリルは翼をはためかせ、空へ颯爽と舞い上がる。イエゼルがまた何かキーキーと声を上げていたが気にする事なく飛び続ける。それに今は自身に起きた事態を確認する事と十三束の花園への参加が優先事項だ。もしかするとこの事態を知っている人物に出会えるかもしれない。そう思い先を急ぐことにした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
三年もの間更新できず申し訳ありません。榊ナギです。
本当に長い間を空けてしまったことに深く反省しています。
さて、ようやくスタートしました三節ですが、今回は天使回ですね。
ガブリルくんとイエゼルちゃんのようなこういう幼馴染の絡みを書いてみたかったんですよね。
信頼とはまた別な思いでずっといる。いわゆる腐れ縁ですね。友情にも様々な形がありますから。そういった人に寄せる思い、言葉にはしない態度などを考えながらやっていたので、書いていて本当に楽しかったですね。
天使回は今後も何度か登場すると思います。沢山のキャラが登場しますが、正直完全に自爆しました。
キャラ多すぎて書く内容に困ったり、時々名前出てこないこともしばしば……
それでも設定を忘れたりとかはないです。みんな私のキャラですから。これからもたくさん出てくるのでぜひ名前を覚えて、好きになってくれれば幸いです。
以上榊ナギでした。
ファンティアもこれから順次更新、進捗報告なども行っていきます。
リンクはXから確認できます。ぜひそちらもよろしくお願いします。