王位継承順位と新たな精霊王
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ミシェルを抱き上げて、再び結界の外に出たシグル。
精霊の力を失ってしまったカルラが、先代聖女とともに構築した結界は、すでに機能を果たしていない。
その瞬間、大神官サイラスは、再び精霊王の定める王位継承順位が入れ替わったことを確信した。
「ミシェル様は、シグル殿下と一緒におられるようです」
「は? どういうことだ」
「何かが起こったのでしょう。結界が消えました」
「おぉ? 俺以外の人間は、不味い状況ではないか?」
走り出したサイラスは、毒で己が害される可能性など、ほんの少しも考慮していないようだ。
被っていた神官の衣装のフードが外れ、その長い銀色の髪が、風にたなびく。
「お、おい! 毒の影響があったらどうする。俺が先に」
その時、王都に再び金色の光をまとった花弁が舞い落ちた。
その光が差す場所は、二人が向かおうとしている、まさにその場所だ。
「――――精霊王」
つぶやいたサイラスの周囲が、破壊されていく。
王城にたどり着いたサイラスの足元は、粉塵のようにもろく崩れ去る。
「おい! 落ち着け! サイラス!」
唯一、魔法である恩恵の影響を受けないルシェロがその腕を掴まなけば、王城はきっと破壊され尽くして廃墟になったに違いない。
「…………ルシェロ殿」
「落ち着けと言っている。サイラス」
深呼吸とともに、再び紡がれた祈りは、サイラスの恩恵を隠し、その力を沈めた。
ほっと息を吐くルシェロ。
冷静さを幾分か取り戻したサイラス。
「行くぞ」
「ええ……。この目で見なくては」
「俺にはよくわからないが、ミシェルとシグル殿下の結末は、見なければならないだろう」
おそらく二人の大切にしているものは全く違う。それでも、不思議なことに見ている方向は同一で。
そして、この結末がもたらす出来事が、王国にとって大きな意味をなすのも事実だ。
「……王位継承」
それは、精霊王に祝福された初代国王に起こった出来事と同じ。
そして、聖女の誕生とも。
「……正当な王位継承者と、聖女の婚姻」
だが、王都中に降り積もるほど降り注ぐ金の花弁のような祝福の光。
それだけでは、説明がつかない。
「新たな精霊王」
だが、物語は変わる。
新たに生まれた精霊王と王位継承者に恋物語はない。
王位継承者が愛するのは、宿命の通り聖女なのだから。
でも、今はまだ、そのことを誰も知らない。
知っているのは、愛する人を失い時間の流れに取り残され、それでも愛する人と精霊の間に残された王国を守り続ける精霊王だけだった。
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