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再会と啓示 2


 ***


 時は、戦線が崩れる少し前だ。


「シグル様」

「……なんだ」


 返事をするだけましだろう。

 食事もまともに摂らず、かといって死ぬこともできない。

 どちらかといえば、人間の中では、精霊に近い存在なのかもしれない、シグルは。


「戦線が、崩れます」


 その変化は、鮮やかだった。

 ただ、遠くを見ていた闇色の瞳に、焦燥が浮かぶ。


「っ……なにをしているんだ、ルシェロは?」

「毒にやられました。裏切りですよ。第二王子は、どうしても聖女が邪魔なようです。どうしますか」

「……俺には、何もできない。俺が外に出たら」

「言い換えましょうか。……どうしたいですか」


 初めてかもしれない、出会ってから、その意思が、シグルの瞳に宿ったのは。


「救いたいに決まっている」

「……はぁ。これは、人間がいうところの、絆されたという状態なのでしょうか」

「カルラ?」


 こんなに、カルラとシグルが真っ直ぐ見つめ合うのも、初めてなのかもしれない。

 カルラ自身も、不思議に思っていた。

 なぜ、カルラは、未だにシグルのそばに、いるのかと。


 先代聖女の、シグルを救ってほしい、という願いは、あの時もう叶えたはずなのに。


「失敗した場合、死んでもいいですよね?」

「……厭わない」

「まあ、死なないかもしれませんけど」


 カルラは、シグルの横を通り抜けながら、一度だけぐしゃりとその頭を撫でた。

 それは、二人の出会った時の再現だ。


「カルラ?」


 ポカン、とカルラを見上げたシグルの表情すら、あの時と同じだ。


「精霊の力を、もう一度、分けてあげますよ。少しの間だけ、その恩恵も抑えられるでしょう」


 あの日、先代聖女の祈りに応えて、カルラはこの地に舞い降りた。


 もちろん、祈りに応えたのは、シグルの魔力が気に入ってしまったというのもある。

 そして、母を失い取り残された小さなシグルに、一度だけカルラは触れた。なぜそうしたのか、カルラには、今でもよくわからない。


 それでも、それが、二人の関係の始まりだ。


 その日から、他の精霊と違い、カルラは人と同じ形をとるようになった。先代聖女のイメージ通りの執事の姿を。


 そして、精霊の力は減り、代わりに人が持つ魔力を手に入れた。


「カルラ、お前」

「あと一度きりです。だから、騎士団長に、ふざけるな、ちゃんとやれ、と言っておいてもらえますか?」


 精霊は、人間に触れることが、許されない。人と精霊を隔てる手段はそれしかないから。


 かつて、その線引きを越えた精霊は、現在精霊王と呼ばれている。精霊というには、あまりにも人間側に寄りすぎた存在だから。


 順位など関係ないはずの精霊なのに、王と呼ばれるのもそのせいだ。


「すまない」

「……シグル様に、触れるのも、すでに2回目ですからねぇ。本当に、次あたりは、精霊ではなくなってしまいそうです」


 先ほどより、どこか人間臭い印象のカルラ。その体からは、人の持つ魔力が香る。


「早く帰ってきてください」

「ああ」


 転移魔法なんて、高度な魔法を簡単に使いこなして、目の前から消えたシグル。

 シグルがいた場所を、金色の目を細めてカルラは見つめる。相変わらず、風も吹かないのに、その水色の髪をなびかせながら。


「うーん。さっきまでは、当たり前のように見えていたんですけどね」


 精霊の力を半分以上失ったカルラには、今までのように未来が手に取るようには見えない。


「でも、暗闇の先には、一筋の希望の光が見える。そんな気もします。それに、わからないというのも、楽しいものです」


 精霊にも個性があるに違いない。それともそれは、人と触れ合いすぎた弊害なのか。

 どちらにせよ、カルラは主が不在の部屋で、いつものように食事の準備を始めたのだった。

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