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聖女は選択を迫られる 3



「行かせてよかったのですか?」

「……こんな場所、彼女には似合わないだろう」


 カルラは、ため息をつく。

 本当は止めたいと思ってしまった。

 それは、精霊であれば、決して感じるはずのない不合理な感情だ。


「泣いてましたけど? いや、ガチ泣き」

「黙れ」

「……我が主の仰せのままに」


 精霊ともあろうものが、たった二人の人間に、他の人間とは違う感情を向けるなんて、道理に反する。それでも。


「ミシェル様は、出ていかれる時に、祈りを」

「……力が戻ったのだろう。理由はわからないが」


 それはあなたの、と言いかけてカルラは流石にそれは精霊としての最後のラインを越えてしまうと口をつぐんだ。


「ミシェル様に待っているのは、戦いの日々ですよ。たぶん、ここにいた方が」

「っ、この場所に縛り付けて、俺だけを見て、笑っていてほしいと」

「正直でいいではないですか」

「だが、ミシェルは聖女だ。聖女であることは、彼女の誇りだ」


 シグルは正しい。

 ミシェルは、この場所にいて幸せだろう。

 それでも、王国の民の危機に、自分だけが幸せになったと、自分を責めて心を壊してしまうに違いない。


「……俺は、おかしいか? 死ぬよりも、心が死ぬのが恐ろしいなんて」

「人間というより、精霊の考えに近いとは、思いますけどね……」


 でもきっと、二人の幸せだって、あるはずだ。

 カルラは、そう願わずにはいられない。

 それはすでに、精霊としての思考ではないのだと知りながらも。


 * * *


 バタンと扉が閉まる。

 次の瞬間、ほんの一瞬、結界は解かれて、ルシェロとミシェルは、外の世界へと飛び出した。

 間髪入れずに、結界は再び施される。


「無事か?」

「精霊王の加護があるのです。無事に決まっているでしょう」


 そういうサイラスの顔色は悪い。

 この短時間であれば、命までは奪われないにしろ、やはり3日は寝込みそうだ。


「ふん」

「えっ、何する」

「送り届けてやるんだよ。ひ弱な大神官様をな?」

「頼んでない」

「人の好意は、ありがたく受け取るもんだ。そう習わなかったか? なあ、ミシェル様?」


 真っ赤な瞳のまま、サイラスとルシェロを交互に見つめたミシェルは、「その通りです」とこくこく頷いた。


 諦め顔のサイラスは、荷物のようにルシェロに担ぎ上げられる。事実、サイラスが神殿まで歩いて帰るなんて、困難なのだから。


「……力が、戻ったみたいなんです」

「そうか」

「王国のために」

「…………俺が言うのもなんだが、自分のために使ったらいけないのか?」


 ミシェルは思う。絶対に、シグルのために、祈ることだけは、やめられないのだろうと。

 ミシェルは、誰かを恨んだことがない。

 誰に対しても平等だ。

 今まで、そうやって生きてきた。


 それなのに、シグルに対してだけは違う。


 そばにいられれば嬉しい。

 拒絶されれば悲しい。

 離れてしまえば切ない。


 こんなに誰かに対して、強い感情を向けたことが、ミシェルにはなかった。

 それが、聖女という生き物だ。


 聖女は王国を愛する。

 それは、精霊王が王国を愛しているから。


 聖女は王位継承者を愛する。

 王位継承者こそが、王国の礎なのだから。


「王国を守ります」


 ミシェルには、祈ること以外、それしかできないから。

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