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聖女は選択を迫られる 1



 扉の前に、二人の男が立っていた。


「これはまた。ここにしばらくいるだけでも、このあと3日は寝込みそうですね」


 銀の髪を今日は一つに結いて、いつも着込んでいる儀礼服を脱ぎ捨て、簡略化された神官服を爽やかに着こなした男。

 月のような銀色の髪と対になる太陽のような金色の瞳を持っている。


 一方、もう一人の男は、長身の強面。王立騎士団の騎士服を身につけているが、どう見ても強そうだ。周囲に殺気のようなオーラを撒き散らしている。


「あなた様とここでお会いするとは、思いませんでした」

「俺もだ。祭事の時にしかお目にかからないお方にこんなところで会えるとは」


 だが、お互い理解している。

 大神官サイラスと騎士団長ルシェロは、同じ目的でここにいるのだということを。


「しかし、この結界、ハンパないな。精霊の力で作られているのか……。普通の魔法で作られた結界なら通り抜けられるが、これは無理だ。俺の方法では、この建物ごと壊すしかない」

「やめなさい。そんな壊し方したら、王都全域に毒が漏れる。しかも、この建物は王宮ですからね。あなたそれでも、騎士団長ですか?」


 ルシェロの大きな手が、その顔の上半分を覆う。


「……ミシェル」


 怒りのあまりか、ルシェロのもう片方で握りしめた拳から、血が滴り落ちる。


 だが、サイラスも気持ちは同じだ。

 幼い頃から、見てきたのだから。

 天真爛漫で、全てに愛を注ぐミシェルを。


「……ここにいるということは、精霊に会ったのでしょう?」

「……………………そうだ」

「今の間は」

「少し、忘れたいことがあってな」


 あれは、ミシェルが以前、ショーウィンドウに並んでいるドレスを見つめていたのを、思い出して選んだドレスだ。

 だが、流石にあの店の中で、ルシェロは浮いていた。後から考えれば、侍女にでも買いに行かせる手もあったに違いない。


 だが、自分で選びたかったという気持ちを、ルシェロは否定できなかった。


「まあいいです。あなたに関しては、毒は問題ないということで、よろしいのでしょうか?」

「普通の毒なら死ぬ。だが、毒魔法なら別だ」

「噂は本当でしたか」

「ああ。俺には魔法の類は効かない」


 サイラスは、困ったように眉根を寄せて笑った。


「魔法で戦う以外の術がない私のようなものにとっては、天敵のような人ですね」

「幸いなことに、俺たちは、敵ではない」


 そうであってほしいと、サイラスは願う。だが、見ている方向が違う限り、明日敵ではないという保証などどこにもない。

 だから二人は、心の中で、今は敵ではない、と付け足した。


「結界を壊したら、そこから入ってください。すぐに結界を張り直します」

「そのあとは」

「あなたたちが出る時に、もう一度、結界を壊して張り直す必要があるでしょう。ここにいます」

「……3日は寝込むのだろう?」

「……夢の中の方が、祈りやすいくらいです。問題ありません」


 それ以上の会話は、二人には不要だった。

 サイラスが、恩恵の力でいとも容易く結界を壊すと、するりとルシェロが中に入っていく。


 大神官として精霊王に与えられた力を使い、結界を張り直す。


「やはり、作るより、壊す方が得意だ」


 一人残されたサイラスのため息を聞くものは、誰もいなかった。

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