1.追想
数年前に8割ほどノリで書いたものですが、せっかくなのでテスト投稿することにしました。
最後まで読んでいただけたなら幸いです。
瞳を開いた時、見えたのは白黒でもない灰色の世界。
堕ちそうな瞼で前を見ると、目に入ったのは輝くばかりの星空ではなく、地上の業火に照らされた赤き漆黒。
けれどそれすらも灰色で、出来の悪い夢を見てるかのよう。
今なお広がる戦火は降り続ける雨に反抗するように熱を増しているかのようだった。
「………ごふっ」
不意に込み上げた嫌悪感を吐き出すと、そこには黒っぽいナニカが地面を濡らしていた。
おかしいな、瞬きする前はこんなことにはなってなかったんだが。
ほんの一瞬だけ、どうにも気絶していたらしい。
「———っ、……ぁぁ———」
這ってでも進もうとしたけど、どうにも動かない。体中どこに力を入れても際限のない痛みが奔るから。
身体の内側から大小問わず杭が突き出しているくらい痛い。
その上から茨が纏わりついた肢体を無理やりに動かすが如き愚行。ただ動かしただけで怪我が増えてしまうのだからどうにもこうにも敵わない。
「……ぐ、が———っくぅ…」
なんでこんなにボロボロなのか、簡単だ。
———俺は負けた。
体中痛い、立ち上がればまた同じような目にあうだろうな。
俺は嫌なことがあれば逃げる方だ。出来れば痛い思いはしたくないし、これ以上立ち上がる必要もないからこのまま終わってもいい。
そも、立ち上がれるかどうかも分からないくらいだ。
視界が黒に侵食され始めた。
「———、……———」
絶望が心の底から染み出してくる。
ゆっくりと水位を増す黒い水は己を見つめ直すたびに過去を映し出す鏡。
未来のない人間は、黒き過去の積み重ねによって沈むのだと、今初めて知った。
(ああ———、もう本当に終わりってか……)
黒に浸かった部分から温度が失われていく。とうの昔に過ぎ去った過去が鎖となって死へと引きずり込もうとしている。
眼を開けていても閉じていても映る景色が同じなら、もうどちらでも同じことだ。
なら、力を抜いてしまった方が楽だろう。どうせ終いなら最後くらい楽な方が良いに決まっている。
「——————、………ぁぁ」
けれど、どれほど黒に塗りつぶされようとも、失われない光があるのならば。
それはきっと、終わりの中でこそ輝きを追想する。屑星の如き記憶なのだから———。