第八話 廃村
ダンジョンをクリアすると報酬が与えられる。
金一封や形あるものではなく、それは潜在能力だ。
カナンのレベルやステータスは、現実世界の肉体を参照して数値化されている。
試験の朝の時点では俺のレベルは32だった。
しかし、試験を終えた俺のレベルは現在37になっている。
ダンジョンをクリアしたことにより、潜在能力が引き上げられたからだ。
冒険者はこうして強くなり、次のダンジョンへと挑む。
その最終目標は未だかつて何者もなしえなかった最終ダンジョンの踏破である。
§
パーティーで初めてダンジョンへと挑戦する、その前日。
「ふぃー……さーてと」
ワープを終え、荒れ果てた地に降り立つ。
周囲には焼け落ちた家屋の残骸や、錆び付いた刀の墓標、荒れた畑、動物の死骸などが目立つ。
フィールド名は廃村。
ここにはとある魔法、というより剣技を修得しにやってきた。
俺のスキル模倣は実物がないと模倣できない。
ゆえにまだカナンで入手していないアイテムは現実に持ち出せないし、同じ事が魔法や剣技にも言える。
そのため一人でここにやってきた。
「どこにいるかな」
標的を探して一人、奥地へと足を進める。
途中で現れるモンスターは和風のものばかり。
狐の形をした青白い炎、狐火。
地中から這い出てくる腐りかけの落ち武者。
NPCに扮して不意打ちをしてくる化け狸。
それらを軽く斬り伏せながら進んでいると、目当ての標的を見つけることが出来た。
「ここか」
円形の平らにならされた、いかにもな広さのフィールド。
その中心に刀を突き刺し、あぐらを掻いて瞑想する一人の人物。
その舞台に一歩踏み込めば動き出し、立ち上がって刀を引き抜く。
表示された敵の名称は、霧彦。
こいつを討伐すれば目当ての剣技を修得できる。
「いざ、尋常に」
その言葉と共に霧彦が駆ける。
それに合わせてこちらもショートカット機能で右手に剣を持つ。
間合いは一気に詰まり、間合いに踏み込まれる。
閃いた一刀が薙がれ、俺の首へと吸い込まれた。
とてつもない速度の一撃は常人には見切れない。
冒険者として鍛えてきた俺でも無理だっただろう。
ダンジョンをクリアする前なら。
「――」
刀の軌道上に剣を差し込み、剣撃を受け止める。
鍔迫り合いに持ち込み、互いに力を込めて拮抗し合った。
「アシストなしでも戦えるな」
カナンは冒険者の修練の場としてでなく、一般向けゲームとしての側面も持っている。
冒険者ほどの戦闘経験や身体能力がなくても楽しめるよう、戦闘においてはアシスト機能が働くようになっている。
もちろん俺は切っているが、アシストを受けるとかなり凄いらしい。
曰く、自分がスーパーヒーローにでもなったような感覚に陥るとか。
それはそれで羨ましいが、現実とのズレが著しくなるので冒険者には非推奨になっている。
「まだまだ」
鍔迫り合いから互いに弾き合い、剣と刀を翻して剣撃を見舞う。
俺たちの間で幾度も刃が重なり、甲高い音と火花を散らす。
剣撃の応酬は一刀一刀が冷や汗を掻くようなスリルがあって冷や汗を掻く。
だが、それがまた楽しくもあり、攻略できた時の達成感はやみつきになるほどだ。
「そこッ」
繰り出された刀を弾き上げ、がら空きの胴に蹴りを放つ。
それをまともに受けた霧彦はHPゲージを微かに減らし、後方へと吹き飛んだ。
「はっはー」
思わず笑みを浮かべつつ、畳みかけに向かう。
蹴飛ばした先へと向かい、追撃を繰り出そうと駆ける。
そんな俺を見据えつつ、霧彦は深く腰を落とした。
得物を納刀し、息を吐く。
そして――
「紫電一閃」
閃いた紫電が隣を掠め、背後に霧彦が現れる。
なにをされたのか、一瞬理解できなかった。
けれど、脇腹に走る鋭い痛みで理解する。
あの一瞬で一撃を浴びせられたんだ。
脇腹に目を落とすと、ざっくりと深くまで斬られていた。
通常なら致命傷。
見ればHPゲージが八割ほど吹き飛んでいた。
「びっくりするほど速いな」
かなりの重傷だが、痛みは酷くない。
カナンの仕様上、痛覚は数十分の一になっているからだ。
「絶対欲しい」
そして、この紫電一閃こそ俺が修得を目指している剣技だ。
これが現実世界で使えれば活躍すること間違いなし。
なにがなんでも、絶対に霧彦を倒して修得してやる。
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