表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/23

第七話 パーティー


 試験に無事合格してついに仮免の取れた冒険者となれた。

 まぁ、仮免の代わりに新人がついてしまうが、正式な冒険者に変わりはない。

 そんな新人冒険者の歓迎会が、恒例行事として開かれている。

 冒険者組合の偉い人のスピーチを聞きつつ、美味い料理や飲み物を味わう。

 そして、この歓迎会パーティーにはもう一つの役割がある。

 一団パーティーの結成だ。

 歓迎会兼出会いの場でもあるこのパーティーは、相手を見つけてパーティーを組むためのものでもある。

 話によればこの場で相手が見つからなかった新人は一生ソロ活動をすることになるらしい。

 これもただのジンクスだけど、ジンクスは侮れない。


「よう、穂人」

「よう、育人。決まってるな、別人みたいだ」


 フォーマルな堅苦しい格好の育人は見慣れていないせいで他人みたいだ。


「だろ? 実はこれから面接なんだ」

「面接? マジか、どこのパーティーだ?」

「あれだよ、あれ」


 育人の視線の先には見覚えのある顔ぶれがいる。


「うわ、凄いな。あれ、成績上位集団じゃん」

「あぁ、そう。実は俺、試験に合格したの上から三番目だったんだ。それで」

「お前の優秀さに気がついたってことか。おめでとう」

「ありがとう。穂人のお陰だ。カナンでの一言がなかったら、きっと失敗してた」

「そんなことない。全部、育人の実力だ。そう思わないと面接でヘマするぞ」

「おっと、そうだ。自信は大事だよな。よし、行ってくる」

「あぁ」


 そう言ってすこし不自然な歩き方で育人は面接へと望む。


「育人」

「ん?」

「頑張れよ」

「あぁ!」


 笑顔で返事をし、育人は止めていた足を動かした。

 歩き方が直ってる。

 あの様子なら面接でも大丈夫だろう。


「さて、不味いことになったな」


 俺は知っての通りコピー機で通っている。

 役立たずの代名詞的な存在として認知されていると言っても過言ではない。

 そんな俺と仲良くしてくれたのは育人くらいなものだ。

 俺とパーティーを組んでくれそうな唯一の相手がたった今、いなくなってしまった。


「こりゃソロで頑張るしかなさそうかな」


 ジンクスをあまり信じたくはないけど。


「なにを頑張るの?」

「うおっ」


 不意に声が掛けられて、驚いて振り向く。


「なんだ、山谷か」


 そこにはドレスを身に纏った山谷がいた。


「この前ぶり。ドレス、似合ってるな」

「ほんと? ありがとう。お気に入りなんだ」


 その場でくるりと一回転する。

 ドレスがふわりと軽く浮かんだ。


「それで、ソロがどうのって聞こえたんだけど」

「それ? ジンクスだよ。ジンクス」

「あぁ、相手が見つからないとって迷信だね」

「そう。このままだとソロ活動になりそうでさ。信じてる訳じゃないんだけど」

「ほかに相手は?」

「いたらこんなに嘆いてない」

「そっか……」


 なにか意味ありげに言って、山谷は俯く。

 かと思えば視線が持ち上がって目と目が合う。


「あのっ、あのね」

「あ、あぁ、どうした?」

「よければなんだけど、私たちのパーティーに入らない?」

「山谷のところに? そりゃありがたい話だけど」

「ほんと!?」

「あぁ、でも、なんで急に? たしか女子しかいないだろ」

「うん、そうなんだけど」


 歯切れ悪く、山谷の視線が逸れる。


「えっと、あのね。やっぱり女子だけだと、不便なこともあって。それで、やっぱり男手が欲しいなって話をしてたの」

「それで、俺?」

「うん。彩原くん、試験で親切にしてくれたし、悪い人じゃないと思うから」


 そう思ってくれるのは嬉しいけど。


「でも俺で大丈夫か? 本当は悪人かも知れないぞ」

「悪い人なの?」

「いや、悪くはない、かな?」

「じゃあ、大丈夫だよ」


 そうきっぱり言ってくれると、そんな気がしてくる。


「わかった。じゃあ、世話になろうかな。俺もずっとソロにはなりたくないし」

「ほんと!? やった! じゃあ、早速紹介するね」

「おっと」


 手を引かれて仲間のもとへと導かれる。

 そこで試験のとき遠巻きに見ていた二人と顔を合わせた。


「あっ、うまく誘えたみたいだね。綴里ちゃん」

「うん、伊吹のお陰だよ」

「へへー。それで、キミが噂の」


 全身を眺められる。


「ふーん、ほーん」

「な、なに?」

「いや、べつに。それより自己紹介。私は足立伊吹あだちいぶき! 二人の親友!」


 肩の上で揺れる金の髪が目を引く、快活な女子。

 三人の中で背は低いほうで、だが一番元気がありそうにみえる。

 明るい性格の彼女とは話が合いそうだった。


「で、隣にいるのが沼地志鶴ぬまちしずちゃん」

「よろしく」

「あぁ、よろしく」


 対照的に沼地は大人しい性格のようで言葉数も少ない。

 三人の中でも背は高く、すらりとしている印象がある。

 艶のある長い髪をすこし揺らして、沼地はすぐに俺から視線を逸らした。


「それで改めまして、だね。私、山谷綴里」

「あぁ、知ってる。じゃあ、俺も改めて」


 小さく咳払いをする。


「彩原穂人だ。首にならないように頑張るよ」

「あはは、いいじゃん、いいじゃん。うまくやっていけそう」

「そうね」

「これから四人で頑張ろうね」


 こうして仲間が一気に三人増えた。

 山谷が誘ってくれたお陰で、どうにかソロで冒険者人生を終える未来はなくなった。

 ジンクスはジンクスだけど、回避するに越したことはない。

 新しい仲間と新しい環境で、これから頑張って行こう。

よければブックマークと評価をしてもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ