第五話 稲妻
「さっきはよくもやってくれたな、コピー機野郎」
厄介なことになった。
見つからないことを願っていたのに、見つかった。
「くだらないジンクス背負わせやがって。だが、迷信は迷信だったな。こうして会えた」
「俺たちは寛大だから許してやるよ」
「ある程度痛めつけて欠片を奪ったあとでな」
耳障りな笑い声が通路に響く。
隣の山谷は怪訝そうに顔を顰めていた。
「お前らの言いたいことはわかったよ。でも、彼女は関係ない」
「誰だ? その女」
「さっきそこで会った人だ。仲間とはぐれたんだってさ」
「へぇー、そりゃ大変だ」
「俺と違って優秀だ、いいスキルも持ってる。巻き込んだら、わかるだろ? 通してくれるよな」
「……まぁ、いいだろう」
そう言って三人は道を開けた。
「俺たちは紳士だ。女は通す、お前は通さない」
「そりゃどうも」
視線を山谷に合わせる。
「さぁ、行って」
「でも、大丈夫なの?」
「あいつらはまだ俺のことをコピー機だと思ってる。楽勝だ」
「……わかった。次に合う時は冒険者だよ」
「あぁ」
そう言って山谷は歩き出す。
開いた道を通り、三人と擦れ違う。
抵抗されるのを嫌ってか、奴らは手は出さなかった。
そのことに安堵して、振り返った山谷に軽く手を振る。
そして改めて三人と視線を合わせた。
「さて、覚悟は出来てるか?」
「あぁ、準備万端だ。どこからでも来いよ」
そう返事をすると三人は顔を見合わせる
「お前、状況がわかってんのか?」
「もちろん。今朝と同じだ」
「……はっ、ついに現実と仮想の区別もつかなくなったか」
「あぁ、かもな」
スキルを発動。
「強化魔法」
魔法の詠唱により強化された身体能力で、弾かれたように駆け出して加速する。
全速力で駆け抜け、目にも止まらぬ速さで蹴りを放ち、三人のうち一人を吹き飛ばす。
「ぐぅッ……あぁッ」
「な、なんだよ。なにが起きたッ!?」
三人ともなにが起こったか理解できないみたいだ。
一人はいきなり蹴飛ばされ、二人は振り返ったら仲間がのたうち回っていた。
これで混乱しない訳がない。
「俺はもうコピー機じゃないってことだ」
スキルを発動。
「中級風魔法」
風の魔法を詠唱し、蹴飛ばした奴を再び吹き飛ばす。
人間大砲の弾として打ち出し、もう一人にぶつけてみせた。
「お前、どうして……いつの間にッ!」
「ついさっきだよ。ほんの二時間くらい前」
「くそっ、おい! 立て」
蹴りを食らったほうも、人間大砲を喰らったほうも、苦しそうに立ち上がる。
「ここはゲームじゃないんだ。三人でやれば負けるはずない!」
そう叫び、それぞれがスキルを発動する。
何度もちょっかいを掛けられて、時には戦ったこともある。
だから、知っている。
三人が連んでいるのは同系統のスキルを持っているから。
「灰になれ!」
燃え上がる火炎が三つ合わさり、特大の火球となって放たれた。
太陽が迫ってくるような威圧感があり、熱風に頬を撫でられる。
一気に汗が噴き出すような感覚に陥ったけれど、問題はない。
この程度の攻撃ならカナンで飽きるほど体験してきた。
「上級水魔法」
スキルを発動して魔法を唱え、瞬時に足首まで水が満ちる。
水面は波紋を描き、波紋は波を起こし、高く伸びて壁となり、迫り来る火球を呑む。
まるで怪物が太陽を喰らうように消火した。
「うそ、だろ」
最大火力であろう攻撃が意図もたやすく無効化されて三人は愕然とする。
もう奴らに勝ち目はない。
「俺もジンクスは信じてないんだ。でも、今日から信じることにする」
スキルを発動する。
「上級雷魔法」
「おい、やめっ」
暗雲が頭上に立ちこめ一条の光が轟音と共に落ちる。
稲妻は三人を狙い撃ち、感電させ、その意識を奪う。
カナンと違って肉体が消滅したりはしない。
奴らは揃って地に伏し、敗北した。
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