第二話 スキルの使い方
本当のことを言うと現実よりも仮想空間のほうが好きだ。
あの三人組の言っていたことは紛れもない事実で覆しようのない真実。
俺のスキルは他人の能力を模倣することも、容姿や身体能力を模倣することも、技術や経験を模倣することもできない。
できることと言ったら、本当にコピー機にできるようなことしかない。
そういう意味ではカナンは救いだった。
どういう訳か、仮想空間でならアイテムをコピーすることができたからだ。
お陰で素材が一つでもあれば複製してアイテムや装備を合成できる。
ほかよりずっと速く強くなることができた。
まぁ、その大半というかすべて、現実世界では使えないものだけれど。
§
「よっと」
光の粒子が寄り集まり、自分の体を形成する。
地に足を付けると、そこはもう現実世界。
約二時間後には試験が始まってしまう。
冒険者にとって仮免が取れるかどうか、本物になれるかどうかの大事な試験だ。
コピー機程度の役にしか立たない俺でも、頑張れば合格できるはず。
合格しないといけないんだ。
「……とりあえず、再確認だな」
持って行く物を確認するため、所持品のウィンドウを開こうと右手を動かす。
「――なにしてんだよ。はぁ……」
ついいつもの癖でウインドウを開こうとした。
たまにあることで慣れてはいるけど、起こるたびに自分が馬鹿になったような気がする。
試験の最中に出たら大変だ。気を引き締めないと。
「荷物は――あ?」
周囲を見渡してすぐ、違和感に気づく。
自分の右側にあり得ないものがあったからだ。
半透明なプレートに綴られた文字。
所持品一覧。
たしかにそう書いてある。
それは仮想空間で幾度となく目にしてきたもの。
ウィンドウだ。
「……マジか」
すぐにテーブルの上に置いてある携帯端末を取る。
アプリの一覧からカナンを見つけると、やはり表示はログアウトだ。
カナンがリリースされてすぐ、現実と仮想を混同してしまう人が続出して問題になっていた。
そのための処置がログアウト表示。
今、俺はたしかに現実世界にいる。なのに、カナンにいる時のようにウィンドウが開いてしまった。
これはいったい?
「……もしかして」
思いついた仮説を実証すべく、自分のスキルを発動する。
コピーするのは先ほどもしたエリクシール。
それを明確にイメージすると、右手にずっしりと重い物が現れる。
恐る恐る目を落とすと、俺は赤い液体が入った瓶を握っていた。
間違いなく、エリクシールだ。
「――マジか、マジか、マジかッ!?」
エリクシールを片手に部屋中を意味もなく練り歩く。
「待て、落ち着け。つまり、どういうことだ?」
数秒、黙って思考を巡らせる。
「あぁ、ダメだ。考えが全然まとまらない」
再び部屋を練り歩く。
練り歩きながら考える。
「えーっと、だから俺のコピーはダメダメだけど、仮想のものならコピーできるってことか? そうだとしたらどこまでコピーできる?」
ぴたりと足を止めた。
「アイテムボックス」
ウィンドウが新たに開き、アイテムボックスに収納されたアイテムの一覧が表示される。
「ショートカット」
右手に使い慣れたなじみの剣が現れる。
「初級火魔法」
左手が燃え上がる。
「間違いない……」
魔法を掻き消し、確信する。
「スキルの使い方がわかったぞ」
もう誰にもコピー機だなんて言わせない。
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