第十七話 鏡の道化師
「フフフフフフフフフフ」
不適な笑みを浮かべ、鏡の道化師はシルクハットを取って会釈する。
「意外と礼儀正しいな」
同時に、破片が俺たちに襲いかかった。
「そうでもないみたいだね」
飛来する鏡の破片を各自で対処する。
俺と剣崎は剣で、天音は槍、鈴野は魔法で、打ち落とす。
そうしてすべて凌ぎきると、こちらが攻める番だ。
「よーし! あたしの実力みせてやる!」
いの一番に天音が飛び出し、先陣を切る。
「いつもああなのか?」
「そうだよ。猪突猛進」
その後に続いて俺も鏡の道化師へと仕掛ける。
すでに槍が振るわれ、HPゲージが微減していた。
そこに加勢し、鳴神を抜刀して斬りかかる。
「硬いな」
得物を振るうたびダメージは与えられているが、減りはいまいち。
人数に応じてHPが上昇するカナンの仕様のせいだ。
「僕たちも」
「はい」
そこへ残りの二人も参戦し、攻撃の回数が増える。
HPゲージの減りもよくなってきが、何事もなく終わるはずもない。
「うわわっ!?」
鏡の道化師は浮かべた破片に手を突っ込み、別の位置にある鏡から手を伸ばす。
その大きな手が天音へと迫り、つかみ上げて拘束する。
「いたた! いたいいたい!」
「待ってて!」
握り締められる天音を助けるため、三人で攻撃を加えるが間に合わない。
攻撃は拘束から投げに移行した。
「うわぁあぁぁぁあああッ!?」
大きく投げ飛ばされ、鏡の壁に激突する。
鏡には蜘蛛の巣状のひびが入り、天音は鏡の地面と激突した。
「ぶへぇ!? ひ、酷い目にあった」
「大丈夫ですか? HPは?」
「あぁ、まだ半分くらい残ってるよ。いたたー」
天音は背中に触れつつも、問題なく立ち上がる。
現実ならただじゃ済まないけど、カナンの中なら軽傷だ。
「でも、今のでかなりダメージを稼げたな」
誰かを拘束している間は、攻撃を入れ放題だった。
「そうだね。朱音にもう一回やってもらおうか」
「もう二度と御免だ! これでも喰らえ!」
怒りと力任せに天音は得物の槍を投げる。
放たれた矢のように真っ直ぐ飛んだそれは標的を貫き、ダメージを与える。
投げた槍が手元に戻ると、HPゲージが半分まで減った。
そして鏡の道化師に変化が起こる。
「おっと、来たぞ。第二形態が」
白いオーラを纏い、姿見のような鏡を四つ並べる。
それらには俺たち四人の姿が一人ずつ映っていて、鏡の中の自分たちが鏡面から這い出てくる。
それも何体もだ。
「ドッペルゲンガーだ」
見た目は全く同じで隣に並べば見分けはつかなくなる。
鏡から出てきた癖に左右が逆じゃない。
「ちょっと悪戯しただけじゃん!」
「正月気分のようですね」
「あぁ、任せた」
「行くぞ、せーの」
加えて、これまでの俺たちの会話が録音再生されていた。
「どうしますか? 入り乱れになれば見分けはつかなくなります」
「合い言葉! 合い言葉を決めよう!」
「それも録音されるのが落ちだと思うけど」
「そっかー! どうしよう!」
打開策は見つからず、ドッペルゲンガーたちが押し寄せてくる。
「くっそー、もうダメだー!」
「とりあえず自己防衛に徹しよう!」
瞬く間にドッペルゲンガーと本物が入り乱れ、あっという間に混乱に陥った。
攻撃した相手が本物だったらと思うと、防戦一方にならざるを得ない。
「こーなったら、本体狙いだ!」
天音はドッペルゲンガーたちを無視し、鏡の道化師に再び槍を投げる。
しかし、以前は通った攻撃が、今回はすり抜けてしまう。
「ずるいっ! 無敵になってるっ!」
「ドッペルゲンガーをどうにかしないとダメそうだね」
「面倒なボスだな」
現実じゃ戦いたくない相手だ。
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