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第十六話 ミラーダンジョン


 ミラーダンジョンはその名の通り鏡の迷宮である。

 床も壁も天井もすべて鏡になっていて、ふと見れば幾つもの自分と目が合う。

 加えてここに出現するモンスターは、鏡から飛び出してくる。


「次、左からくるぞ!」


 指示を出しつつ、正面の鏡から飛び出してくるモンスターを切り伏せた。

 一撃でHPゲージをゼロにすると、真っ白な光となって掻き消える。


「よし、これでッ」


 剣崎が剣を振るい、左の鏡から飛び出てきたモンスターを叩く。

 アシスト機能をフルに生かした一撃は、俺と同じくHPゲージをゼロにした。

 それの亡骸が掻き消えると、ひとまずこれでモンスターは全滅だ。


「ふぅ、大変だった。キミがいてくれてよかったよ。流石はガチ勢。それでアシスト切ってるなんて信じられない」

「まぁ、これくらいは出来ないと冒険者にはなれないからな」


 エンジョイ勢と違って、こっちは訓練も受けているし。


「おーい、目印置いておくぞー」

「あぁ、任せた朱音」


 天音が魔法を唱え、空中に火の玉を配置した。

 それが目印となって迷うのを防いでくれる。


「しっかし、頭がくらくらしてくるよ。いっそ全部割っちゃうか!」

「鏡は割れない仕様なので無駄なことは止めてください」

「だよなぁ」


 二度三度と得物を振るい、天音は剣を鞘に戻した。


「ほら、行くよ」

「あぁ、待って待って」


 一息をついて、また鏡の通路を歩き始める。


「あっ。そう言えばさ。あたし、優子を見てて思ったんだけど」

「はい」

「床も鏡だから丸見えになるよな、色々と」


 瞬間、鈴野が素早くスカートを押さえ、俺たち男組は視線を明後日のほうへと向ける。


「あははっ、優子。顔真っ赤じゃん」

「じ、自分がパンツだからって」

「大丈夫だって。ほら、下、見てみなよ」

「あ……きちんと見えないようになっているんですね」


 どうやら見えてはいけないものが見えないように描写処理がなされているみたいだ。

 鏡の反射をつかって悪いことは出来ないようになっているらしい。

 それを聞いて、俺たちは互いにほっと安堵の息をつく。


「お騒がせしました」

「いや、今のは……」

「うん、朱音が悪い」

「えぇ!? ちょっと悪戯しただけじゃん! な? 優子、な?」

「すみません。しばらく話かけないでもらえますか?」

「ご、ごめんてぇ!」


 必死に謝る天音を見て口角が上がる。


「賑やかでいいな」

「いつも騒がしくて困ってるよ」


 そう言いつつも、すこしも迷惑そうではなかった。

 そんなこんなありつつも足を進めていく。


「そうだ。聞こうと思ってたんだけどさ」

「なんだい?」

「本当に俺が傭兵でよかったのか? 普通は一回でも攻略した奴のほうがいいだろ?」

「あぁ、それ? いいや、逆だよ」

「逆?」

「僕たちは最適解が欲しいんじゃない。攻略を楽しみたいんだよ。だから、未攻略で実力者な傭兵が欲しかったんだ。キミはぴったり」

「なるほどな。納得したよ」


 俺たち冒険者は修練の場としての認識が強いが、一般人はカナンをそう見てない。

 彼らに取ってはこの上ないゲームで、面白いもの。

 攻略情報を見て最適解をいくよりも試行錯誤を楽しみたいと思うのは当然だ。

 俺はその辺の認識が抜け落ちていた。


「おっ、話しているうちに」

「うん。ここが最奥だ」


 この先にボスがいて、そいつを倒せばダンジョンクリアだ。

 特殊な魔法を手に入れられる。


「行くぞ、せーの」


 息を合わせて鏡の扉を押し開き、薄暗いボス部屋へと足を進める。


「鏡開きー、なんちゃって」

「どうやら一人だけ正月気分のようですね」

「そ、双一ぃ! 優子が冷たいぃ!」

「冗談です」


 中央の辺りまでくると照明が灯り、周囲が明るくなった。

 ボス部屋は相変わらず鏡が敷き詰められていて、どこに目を向けても自分たちが映る。

 けれど、その鏡の中に自分たち以外の者を見る。

 それは実際にはいないが、鏡面にはたしかに映っていた。


「あれがボスか」


 そいつは鏡面から手を伸ばし、淵を掴むと体ごとこちらにやってくる。

 ピエロのような派手な衣装にシルクハット。

 周囲に幾つもの鏡の破片を浮かべ、不気味な声で大笑いする。

 表示された名は鏡の道化師。

 それがこのミラーダンジョンのボスだった。

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