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第十三話 宝石獣


 綿飴のような毛を纏い、額の宝石が赤く輝くカーバンクル。

 周囲に結晶を浮かべてこちらを睨み付けてくる。


「綺麗なもんだな、実物は」

「言ってる場合?」

「カナンで何度も戦った相手だからな。どう仕掛けてくるかはわかる。問題は」

「戦うか、逃げるか、ね」


 選択肢はなにも戦うだけじゃない。

 逃げることだって選べる。


「ギュル、ギュルッ!」


 声と共に額の宝石が光を放つ。

 集束し、一条となり、放たれた閃光ビームが真っ直ぐに伸びる。

 それは弾丸や矢の如き速度で放たれたが、躱すことは容易だった。

 俺たちは知っている。

 奴が閃光を放つ時、必ず予備動作が入るということを。

 予備動作を見た段階で回避に移っていれば、当たることはまずない。

 何度閃光を打ち込まれても、結果は同じだ。


「どうする? あまり考えてる余裕はなさそうだけど」

「……」


 閃光から逃れながら沼地はほんの少し沈黙し、決断を下す。


「後のことを考えると、ここで倒しておいたほうがいいわ」

「同意見だ。気が合うな」


 沼地がスキルで戦うには安全な足場が必要だ。

 二人と合流するために上への道を登り始めたら、崖崩れの懸念からスキルを使えなくなる。

 確実に追ってこられないようにするには、戦って討伐するしかない。

 カーバンクルも、その気だしな。


「よし。じゃあ、仕掛けよう」

「えぇ、初手は私が」

「任せた」


 結論を出し、沼地の足が止まる。

 額の宝石を輝かせたカーバンクルと向かい合い、スキルが発動する。


地形操作ダイアストロフィズム


 地面が水面のように波打ち、カーバンクルの足下から杭が突き出る。

 魔物の群れを一度に串刺しにしたその攻撃は、しかしそのすべてが防がれた。


「ギュル、ギュル」


 杭が突き出た瞬間、カーバンクルは全身を結晶で覆ったからだ。

 色取り取りの結晶を繋ぎ合わせた手製の鎧。

 その見た目はステンドグラスのようで、下半身から全身が覆われようとしていた。


「一筋縄じゃいかないわね」

「下がダメなら上からだ」


 スキルを発動する。


上級雷魔法ライトニング


 空に暗雲が立ちこめ、轟音と共に一条の光が落ちた。

 落雷は鎧に覆われる前にカーバンクルを襲う。


「ダメか」


 直撃の寸前、周囲の結晶によって落雷が引き寄せられた。

 まるで避雷針。

 その結晶は砕け散ったが、新しくまた出現する。

 そして頭の先まで結晶に覆われ、額の宝石を残したすべてが包まれた。


「やっぱり現実でもカーバンクルに魔法は相性が悪いか」


 カナンでも魔法の通りが悪かった。

 それが確かめられただけ、よしとしよう。


「さて、どうするか」


 結晶の鎧を身に纏ったカーバンクルは近接攻撃も通らなくなる。

 見た目は硝子でも硬度は比じゃない。


「これならどう?」


 沼地のスキルが地形を操作し、うねる触手を形成した。

 その先端にはハンマーのような岩の塊があり、鞭のようにそれがしなる。

 強烈な一撃は見事にカーバンクルの側面を襲い、巨体を浮かせて結晶の鎧を打ち砕く。


「ギュルッ!?」


 砕け散った結晶が舞い、カーバンクルは地面を転がった。

 すぐに四肢に踏ん張りを効かせて体勢を立て直すも、その頃には俺が間合いに踏み込んでいる。

 鎧が剥がれた箇所は無防備だ。

 なんでも通る。


上級火魔法プロミネンス


 左手に宿した火炎の塊を投げ、火球の剛速球がカーバンクルを襲う。

 綿飴のような体毛を焼却し、皮膚を焼いて肉を焦がす。


「ギュゥウウゥウウッ!?」


 強烈な一撃に悲鳴を上げたカーバンクルは次の瞬間、自身の周囲に結晶を精製した。

 沼地のスキルのように、結晶の杭が全方位に向けて伸びる。

 至近距離にいた俺にもそれは迫り、急いで鞘を納刀した。

 紫電となって躱すつもりだったが、スキルを発動する直前にその必要はなくなる。

 沼地が地形を操作し、頑丈な壁をせり上げてくれた。

 結晶の杭が打ち込まれても、それは崩れずに俺を守り通してくれる。


「助かった」

「お礼なら後でいいわ。それより」

「あぁ、だな」


 その場を離れて沼地のもとに駆け寄った。


「今のではらわたが煮えくり返ったらしい」


 脇腹に大火傷を負い、カーバンクルの怒りは頂点に達していた。

 戦いを経て学習したのか、結晶は形を変えて剣を模し、その乱舞が周囲を切り刻んでいる。

 無差別に、敵の有無すら関係なく、発狂していた。

 そうして周囲に当たり散らした後に、憎い相手を再びその大きな瞳に捉える。


「ギュルッ、ギュルッ、ギュルッ!」


 無数の結晶剣が放たれ、地面を切り刻みながら押し寄せた。


「私がッ」


 目の前に高い壁がせり上がり、結晶剣を受け止める。

 いくつも突き刺さり、剣先が突き抜けるもそれ以上は進むのを許さない。 

 だが、そうなれば当然、それ以外は回り込んでくる。


「伏せてろッ」


 沼地にそう言いつつ、ショートカット機能で装備を変更。

 刀から大鎚へと得物を変え、それを振るって結晶剣を打ち砕いていく。

 だが、砕けど砕けど、キリがない。


「このままだとジリ貧だ」


 また一つ、結晶剣を砕く。


「流石に疲れてきた」

「打開策が必要ね」


 重い大鎚を振り回しつつ考える。


「ねぇ、カナンではどう戦っていたの?」

「被弾覚悟で額の宝石を砕く」

「そうよね、私もよ」

「やっぱり仮想と現実じゃ違うな」


 カナンでは無理が利くが、現実だとそうはいかない。

 何十体と倒して来たけど、やっぱり現実と仮想は勝手が違う。


「……カーバンクルの動きを止められるか?」

「なにか良い考えでも?」

「あぁ、次で片を付ける」

「……わかった。準備は?」

「いつでも」

「じゃあ、行くわよ」


 大きな壁が平らな地面に戻され、再びカーバンクルを目視した。

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