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第十二話 地形操作


「沼地、無事か?」

「え、えぇ」


 腕の中で返事がする。

 どうやら無事に助けられたみたいだ。


「そうか、よかった。起きるぞ」


 片手をついて身を起こす。

 体中に亀裂でも走ったみたいな痛みが走る。


「ふぃー……体が軋む。老人になった気分」


 でも、我慢できないほどじゃない。


「あなたのお陰で助かったわ」

「あぁ、パーティーは助け合わないとな。よっと」


 二人して立ち上がり、頭上を見上げる。


「うわ、あんなに高い所から落ちたのか」

「下手をすれば私もあなたもああなってたわ」


 沼地の視線の先には、地面と激突して命尽きた魔物の死体があった。

 文字通りの粉々で原形はほとんど残っていない。

 ほかにもたくさん、似たような死体が転がっている。


「だな。そうならなくてよかった」

「……」


 そう返事をすると、考え事でもするように沼地は沈黙した。

 けれど、それも長くは続かない。

 沼地の携帯端末に着信が入ったからだ。


「もしもし」

「大丈夫!? 生きてるの!」


 スピーカー設定になってもいないのに、山谷と足立の声が俺のほうまで聞こえてくる。

 あまりの声量に沼地も携帯端末を耳から離していた。


「平気よ。ちゃんと生きてるわ。彼もね」


 そう言いつつスピーカー設定に切り替えた。


「よかったぁ。彩原くんが駆け下りて行ったときはどうしようかと思ったよぉ」

「悪いな。一瞬も迷ってられなくて」

「まぁ、二人とも助かったなら結果オーライ。ありがとね、親友を助けてくれて」

「当然」


 お互いに無事でよかった。


「どう? 合流できそうかな?」

「無理ね。この断崖絶壁は登れないわ」

「あぁ、下りは出来たけど、昇りは無理だ」


 紫電一閃の効果が切れた瞬間、真っ逆さまに落ちる。


「志鶴ちゃんのスキルでも無理?」

「えぇ、下手に使えば崖崩れが起こるわ。上にいるあなたたちまで危険よ」

「そっかぁ。じゃあ、私たちは下に降りる道を探してみる。鈴、持ってるよね?」

「えぇ。私たちも上を目指すわ」


 試験の際に俺が修復した鈴と同じものが沼地の懐から出てくる。

 それを軽く揺れて音色が二人にまで届いた。


「じゃあ、そういうことで。彩原くん、志鶴ちゃんを頼んだよ」

「あぁ、任せろ」

「それじゃあね」


 今後のことが決まり、通話が終わる。


「平気?」

「あぁ、ダメージも抜けたし、大丈夫だ」

「そう。なら、行きましょう」


 沼地は背を向けて歩き出し、俺もその後を追うように歩き出した。


§


地形操作ダイアストロフィズム


 沼地のスキルが発動し、地面が水面のように波紋を描く。

 それは魔物たちの足下を揺らし、次の瞬間には地面から突き出た杭に貫かれる。

 沼地のスキルは地形を自在に操作するもの。


「だから上では使えなかったのか」

「えぇ。使いどころを誤ると返って被害が出るから」


 なら、落ちていく最中もずっとスキルを使うのを堪えていたのか。

 怖かっただろうに。


「行きましょう」

「あぁ、だな。先に進もう」


 杭が引っ込み、平らな地面へと戻る。

 俺たちは魔物の亡骸と血だまりを避けながら先へと進む。


「登れそうな道は見当たらないな」

「えぇ」

「上の二人も心配だ」

「そうね」

「はやく合流しないとな」

「もちろん」


 淡々と会話は進んでいく。

 あまりにも淡々と。


「……あのさ」

「なに?」

「俺に直してほしいことってある?」


 そう聞くと先をいく沼地の足が止まり、こちらに振り返る。


「なぜ、そんなことを?」

「いや、なんと言うか……ほら、俺たち会話は続くけど、淡々としてるし、ちゃんと話せてない感じがして。だから、俺になにか問題でもあるのかなって」

「……」


 沼地からは沈黙が帰ってくる。


「そんなに多いのか?」

「いえ、違うわ。そうじゃない」


 首が横に振るわれる。


「べつにあなたに問題があるわけじゃないわ。あるのは私のほう」

「沼地の?」

「えぇ。私、男の人が苦手なの。それが態度に出ていただけ。それだけよ」

「あぁ、そういう……それはよかった」

「よかった?」

「あぁ、いや。このよかったはそういう意味じゃなくて。俺が個人的に嫌われてる訳じゃないって知れて安心したんだよ。それだけ」

「……そう」


 でも、そうか。

 男が苦手か。


「ん? じゃあ、なんで俺をパーティーに?」

「それは――」


 その言葉の続きを言おうとした沼地の視線が俺から逸れる。

 言い辛いことだったからとか、気を遣ってという訳ではないらしい。

 その目は険しく、俺も後ろを振り返る。

 視線の先に捉えたのは、一つの結晶だ。

 その塊が道の真ん中にぽつりとある。透き通っていて、綺麗だ。

 それがつい先ほど通った道にある。

 あんなに目立つ位置にある結晶を、話しながらとはいえ見逃すはずない。


「なぁ、いつ出来たと思う?」


 そう問いかけた直後、黒い影が俺たちを通り過ぎる。


「決まっているわ」


 影の主は俺たちの目の前に降り立ち、砂埃を舞い上げた。

 そして周囲のいたるところに数多の結晶が構築される。


「今よ」


 数多の結晶の中心に立ち、咆哮を上げる獣。

 額に宝石を宿す、白い毛並みの魔物。

 それの名はカーバンクル。

 結晶を操る、このダンジョンに棲む強敵だ。

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