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第一話 仮想空間


 コピー能力と言えば、どの物語でも強い能力だとされている。

 相手の能力を模倣する。相手の容姿や身体能力を模倣する。相手の技術や経験を模倣する。

 苦もなく手間もなく、相手と同じ舞台にまで上がれて五分の勝負が出来るなんて強くない訳がない。

 そんなコピー能力を、俺はスキルとして授かった。

 それが判明した時、思わずガッツポーズを取ったのを憶えている。

 冒険者として絶対に成功できると確信して疑わなかった。

 その詳細を知るまでは。


§


 およそ半世紀ほど前、地球に天変地異が起こり複数のダンジョンと魔物が出現した。

 環境が激変し、生態系が根底から覆される。

 地球の勢力図は大きく塗り替えられた。

 その影響は人類にも例外なく与えられ、人々はスキルや魔法と呼ばれる能力を身につけた。

 火を噴いたり、電気を帯びたり、風を巻き起こしたり、能力は多岐に渡る。

 このスキルや魔法を生かした職業こそ冒険者である。

 架空の物語は現実となって実在する人物がファンタジーなことをするようになった。

 そう言う意味ではもう一つ、人類に大きな影響を与えた物がある。

 物というか、作品だ。

 魔導式MMORPGと呼ばれるそれは魔法によって実現したバーチャルリアリティの世界。

 作品名は、カナン。

 仮想空間での経験が現実の肉体に反映される画期的なこの作品は、冒険者の修練の場としても活躍している。

 こんな風に。


「――ギャアァアアァアアアアアッ!」


 果てしなく広がる草原の上に、巨大な龍が足跡を付ける。

 吐き出される火炎は植物を焼き焦がし、太い尾は大地を揺らす。

 レベル38、ラージノイド。

 一見して無傷に見えるその巨龍は、しかしすでにHPゲージがミリ単位しか残っていない。


「これでとどめッ」


 地面を蹴って跳び上がり、巨龍の正面へと陣取る。

 体をひねり、両手に力を込め、振るった一撃は額を穿つ。

 大きく怯んだ巨龍のHPゲージはゼロとなり、地面に倒れ込むと跡形もなく消滅した。


「ふぃー……よしっ」


 大きく息を吐いて達成感を噛み締める。


「えーっと」


 左手でウィンドウを開き、所持品の一覧に目を落とす。

 見慣れた装備をさっと流してスクロールすると、ドロップしたアイテムを見つけた。

 巨龍の鋭爪、巨龍の堅鱗、龍の瞳、などなど。

 戦果は上々。まぁ、これらが目的じゃないんだけれど。


「おーい、穂人ほびと!」


 ドロップを確認し終えると、近くに誰かがワープしてくる。

 現れたのは見知った顔。同期の育人いくとだった。


「悪い、さっき何度かドジしちまってさ。全回復エリクシール使っちまったんだわ」

「わかった。いいぜ、そのくらい」

「助かる。ありがとな」


 そう言いつつ育人はショートカット機能を使い、右手にエリクシールを呼び出した。


「ほい」

「あぁ」


 投げ渡されたそれを受け取り、俺自身のスキルを発動する。

 スキル模倣コピー

 それにより右手のエリクシールが、空だった左手にも現れる。


「何個ほしい?」

「んー、三個」


 左手のそれを投げ渡し、残り二個もコピーした。

 三つともを受け取った育人は満足そうにそれをアイテムボックスにしまい込んだ。


「助かった、ありがとな。常にストックしとかないと落ち着かなくて」

「それはわかるけど、大丈夫か? 今日試験だろ、俺もだけど」

「だよなぁ、幸先悪くて嫌になる」


 ため息をつく育人の肩を叩く。


「大丈夫だって。俺みたいな底辺より全然可能性はあるだろ」

「自虐ネタは反応に困る」

「はっはー。まぁ、でも、こうは考えられないか? ここで失敗したから、本番では大丈夫だって」

「なるほど……たしかにそうだ。ははっ、ありがとな、穂人。元気でた」

「あぁ」


 がっしりと手を握り合う。


「それじゃ、俺は一足早く試験にいくよ。成功は本番に取っとかないと」

「あぁ、俺も三十分前には到着してるよ。ダンジョンで会おうぜ」

「じゃあな」


 手を軽く振って、育人はログアウトする。

 光の粒子となって瞬く間に消えてなくなったその名残を見届け、代金代わりのエリクシールをアイテムボックスに仕舞った。


「俺たちのアイテムもコピーしてくれよ」


 振り返ると、にやついた三人組がいた。

 いつも俺にちょっかいを掛けてくる野郎どもだ。


「答えはわかってるだろ? 嫌だ」

「なんでだよ、お前の存在価値なんてそれくらいしかないのに」

「そうそう。現実だとクソ役立たずのくせに」

「現実のお前なんてコピー機といい勝負だぞ」


 あはははは、と声を揃えて三人は笑う。

 なにがそんなに面白いんだか。


「つべこべ言わずにやれよ、コピー機」

「あのなぁ」


 魔法を使い、右手に雷を灯す。


「現実じゃたしかにぱっとしないが、仮想世界ここじゃちょっとしたもんなんだぞ」


 天候が変わり、暗雲が立ちこめ、稲光が明滅する。


「な、なんだよ。その上級魔法だって現実じゃ使えねーだろ」

「あぁ、そうだ。でも、今は使える」


 更に雷雲を発達させた。


「こんなジンクスがあるの知ってるか? 試験直前にPKされると不合格になるんだってよ」

「そ、そんなの迷信だろッ」

「そっか、じゃあ試してやるよ」


 魔法を詠唱する。


上級雷魔法ライトニング

「あ、おい、やめっ」


 明滅する稲光が激しさを増し、天から光の一条が落ちる。

 その直撃を喰らった三人は感電し、光の中で消滅した。


「ふぃー、すっきりした……はやいとこ戻ろ」


 ジンクスが本当であることを願いつつ、奴らがリスポーンする前にログアウトする。

 先ほどの育人と同じくアバターが光の粒子となって散り、現実世界へと帰還した。

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