Chapter1-9
次の日ーーーー
パチッ!
遼太郎は目を覚ますも、その景色は昨日の久遠の屋敷と全く変わりがない。
朝に目を覚ませば、そこは元の世界、とはならなかったことに遼太郎はがっくしと肩を落とす。
そんなことをしながら、布団から出て、差し出された寝間着から元より着ていた私服へと着替える。
「遼太郎、起きているか」
すると、襖から久遠がそう言って入ってくる。そのそばには帰蝶も一緒だ。
「ああ、おはよう。久遠」
「なんだ、起きてるではないか。おはようだ遼太郎。それではこれから城に行くぞ」
朝の挨拶をすると久遠から訳もなく内容を伝えられる。
「今日はお城で評定が開かれます。そこで家中の者たちにお披露目が行われます」
久遠の言葉に添えるように帰蝶から説明が入る。
「そう言うことだ。そこでお前を我の夫だと紹介するのだ。ふふっ」
ニヤリとイタズラ顔をする久遠を見るに、遼太郎は凄く嫌な感じに襲われる。
「織田の家中は武闘派が多いからな。納得のいかないことは腕っぷしで解決するんだ。覚悟しておけよ」
「おい…マジかよ…。いやな感じが的中だよ、チクショウ!けど……まぁ、自分の住みかと食事のためやってやりるつもりだけどな」
久遠からの脅しに遼太郎は覚悟を決める。
そんなやり取りをして、遼太郎と久遠は屋敷を後にし、城へ向かうのであった。
城への道中、賑わい始める城下町の通りをあるきながら、遼太郎は久遠から評定についての説明を受ける。
(まぁ評定は、会社の定例会議とかと一緒って感じだな。組織構成自体も部長課長係長とおんなじみたいだし)
さらに追加として、久遠が治めるこの尾張の土地は海があり、農産物も豊富であることから、比較的お金のある国であるということを遼太郎は教えられる。
それからしばらく久遠と雑談をしながら歩いていると、前方にまばゆいばかりのお城が見えてきた。
「おおー!立派なお城だな」
「ふふ、そうだろう。まぁこれでも比較的小さな部類には入るんだけどな」
遼太郎が思わず出した言葉に久遠が答える。
「だがそんなのんきであっていいのか?これから家中の猛者たちと喧嘩があるんたぞ?」
「まぁ殺し合いなわけじゃないからどうにかなると思うんだよな」
「ふふ、豪気なのか馬鹿なのか」
「まぁ俺は後者に一票かな」
などと話ながら二人は城へとはいっていくのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
ここは城の小さな一室。
遼太郎は久遠とは別行動となり、別室で待たされることしばらく待っていると
「遼太郎さん、評定の間にお連れしますよ」
襖を開いて麦穂がやってきた。
「これはどうも。前日ぶりです」
お姉さん雰囲気もあってか遼太郎はこの女性に対しては安心していられるようであり、軽く挨拶をする。
「はい、昨日振りですね。遼太郎さん。それと私のことは麦穂とお呼びください。お願いしますね」
「了解しました。麦穂さん、よろしくお願いします」
「それでは久遠様がお呼びですので評定の間までご案内しますね」
麦穂のその言葉に遼太郎は気を引き締めて、改めてホルスターを着け直す。
「うー、緊張するなぁー」
麦穂の後ろについて城の廊下を移動しながら遼太郎はそんなことをこぼす。
「ふふ、そんな柄でもないでしょうに。昨日のお手並みからはとても見えませんよ」
麦穂がクスクスと上品に笑う。
「そんなこと言ったって、昨日のもう一人の大柄の女性とかがいっぱいいんるでしょ?それで緊張するなっていうのは無理ですよ」
「そんなことはありませんよ?その女性壬月様だって遼太郎さんからは見ればきついように見えるかもしれませんが、普段は優しく面倒見がいい方ですよ?」
いかにも年上お姉さんな感じで麦穂は遼太郎を諭すように言う。
「話し半分に聞いておきますよ」
そんな麦穂の雰囲気はあっても、やはり遼太郎としてはあの大柄の女性壬月さんと呼ばれる人には慣れるまでに時間がかかりそうだと感じる。
「あら、私の言うことを信じてくださらないのですか?」
「そうじゃないですけど、やっぱり自分の目で見てたしか見なくちゃわからないですからね」
そんな遼太郎の本音にたいし、クスクスと笑いながら麦穂は相づちをうってくれた。
「それと遼太郎さん?わたしことは麦穂と呼び捨てで構わないのですよ?あなたは久遠の様の夫となる立場なのですから」
そんな麦穂の言葉に遼太郎はぎょっとしてしまう。
「いやいや、さすがに年上の人を呼び捨てにはできないですよ。むしろ麦穂さんこそ、俺のことは呼び捨てでも………」
「いいえ、それこそできませんよ。私達の殿の夫なのですから。でも、ふふ、その、なんでしょう。遼太郎さんは好青年なのですね。少し可愛く……いえ、申し訳ありません。これは失礼でしたね」
麦穂は言葉を滑らしてしまったかのように言い直す。遼太郎はさすがに聞こえしまいお互い顔を赤らめてしまう。
「まぁ、なんですかね。良いように受け取ってもらえて嬉しいです。これから信用してもらえるように頑張っていきますよ」
目的地らしき場所に近づいたことを悟った遼太郎が、先手をうって話を纏めようとする。
「そ、そうですね。では、遼太郎さん。ここが評定の間です。準備はよろしいですか?」
とある大部屋の襖の前で立ち止まった麦穂が遼太郎に準備を促す。
(いきなり昨日みたいな抜き打ちがないことを願おう)
遼太郎も覚悟を決める。
「ええ、お願いします」
そして、麦穂に開けられた襖から遼太郎は評定の間へと入っていった。
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