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Chapter1-8

月明かりが照らす中、遼太郎はすでに店じまいをしたであろう通りを歩いていた。


(うーん、こうやって外を歩いていると違う所にやって来たって実感するな)


まるで京都の映画村のようだ、などと考えながら遼太郎は辺りをぶらつく。街灯も電気もないため月明かりのみが足元を照らす。


遼太郎の歩く通りを挟む建物は全て木造。その形は統一されているわけでもなく屋根の形から素材まで多種多様である。


(はぁ、大変なことになったなぁ。けど嘆いたって変わらないし一つ一つ歩を進めていくしかないよな。まぁ何とかして生き残って元の世界へ帰ろう)


遼太郎はこの世界での目標を定め気合いを入れようとするところであった。


道の傍らに、この時代には合わない黒いコートにフードを被った人影が遼太郎を手まねく。


遼太郎は自分のことであろうか、と回りを見るも視線の先には遼太郎しかいない。この世界に元からの友人や知人などいるはずもない遼太郎にとっては、どう見ても怪しい人物だ。


「なんだ?俺に用があるのか?」


思わず左肩から背中にかけたナイフを手に取ろうとしてしまう。


すると、その男は遼太郎の気を引けたことを良しとしたのか、路地裏の月明かりがほとんどないところへと入っていく。


(俺を誘導してるみたいだな)


一瞬罠かと考えた遼太郎だが、この季節時代に似つかわしくない服装から何かあると思い黒フードのあとを追うことにした。


しばらく歩くと前を歩く黒フードが立ち止まる。何事かと思うと奴は足元に置いてあった、何か箱のようなものをこちらへ投げて寄越す。


「うわっ!なんだよこれ!」


急なことに声を上げてしまう遼太郎。しかし投げられたものに注意を引かれている隙に、先程の黒フードの姿はなくなっていた。


(なんだ?これを俺に渡すためだけってことか?)


とにかく遼太郎は渡されたものを確認しようとした。どうやら金属でできた箱のようである。外見に特に変わりはないが、どうやら開けられるらしい。遼太郎は意を決して箱をあける。


(おいおい、マジか?これ)


そこに入っていたのはサバイバルゲームお馴染み黒塗りの小型銃、ハンドガンであった。しかも弾1ダースや予備弾倉、さらにはハンドガン用のレッグホルスターまで入っていた。


(どうしてこの時代にハンドガン?それにあの黒フードの男はいったい…)


またまた混乱に陥る遼太郎であったが、とにかくあるものは活用しようと装備を整えていくのであった。


準備が終わり、遼太郎が通りへ戻ろうとしようとしたときであった。



何やら路地のさらに奥からヒタヒタという足音と、何かを地面に引きずるような音が合わさって近づいてくる。


(いったいなんだよ、次から次に)


遼太郎は銃の入っていた空である箱、アタッシュケースを手にして音のする方向へと目を向ける。


路地の奥、物陰になって月光が遮られ真っ暗である場所から、その音の発生源が徐々近づいてくる。


そして遼太郎から数メートル、物陰が切れて月明かりが照らす位置にその音の正体が姿を現し始めた。


月影から現れたのは、おぞましい化け物だった。大きさは二メートル程だろうか、人型と言えば聞こえはいいかもしれないが、体色は黒ずんだ灰色一色、鋭い鎌のようなシルエットの長い腕や、口元から生えた顎下まであろうか大きな二本の牙など、どう見ても化け物である。


(ちょっ!なにこれ!?リアルで化け物とかやめようよ!)


遼太郎がショッキングな音の正体の登場により、呆然とする。


だが幸いなことに、化け物は遼太郎を目にしてもすぐに襲いかかるようなことはしなかった。


それをみて、とにかくその場から、化け物から距離をとろうとして、遼太郎はあとずさろうとした時であった。


ふと、その化け物が何かを持っていることに気が付いた。恐らく、なにかを引き摺る音の発生源はそれではないかと遼太郎は考えた。そして、よく見てみればその手には、人の足であろうものを手にしていたが………



その足の人物であろう胴から上、つまり上半身が失くなっていた。まだ、時間がさほど経っていなかったのか、地面には未だ刻々と生鮮な血が流れ出て、地面に赤い水溜が出来ていた。



「お、お前!ふざけんな!人を殺したのか!」


人の死体という初めての光景に、遼太郎は思わず化け物に対して怒鳴ってしまう。しかし、それが仇となってしまい、対する化け物は今まで興味のなかった遼太郎を敵と認識してしまったようだ。


化け物が唸り声をのような重低音を出しながら、遼太郎に向き直り、遼太郎に視線を向ける。


(何か来る!?)


遼太郎がそう思い、化け物のその動作に対して構えをとろうとしたときであった。


化け物は手にした人の足を放り投げると、その牙で遼太郎に襲いかかってきた。


      "避ける"


遼太郎の視界にコマンドが表示される。コマンドの向こう側では化け物がみるみると距離を詰めてくる。


あまりの恐怖にミスしそうになるもののなんとか回避に成功する。その反動を利用して、遼太郎は化け物からとっさに離れる。


(接近されたら危険すぎる!とにかく距離を置かなきゃ!)


ゲームであっても、稀にコマンドを誤操作してしまうことがあったのである。今現状でのミスは、ゲームから判断すると、即座に自分の死を意味するのだから。遼太郎は極力コマンド表示が起きないように立ち振る舞おうと決めた。


(ナイフだけじゃ分が悪すぎる!やっぱりこれを使うしかないのか?)


遼太郎は先程手に入れたレッグホルスターに納めたものを手にする。

遼太郎はいくらシューティングゲームをやり込んでいたとしても、現実はただの学生であったのだ。


銃という今までゲームの中など、フィクションに近い存在であったものを扱わなければならない恐怖や、躊躇いがあったのだ。


しかし、目の前の化け物を前にしては覚悟を決めざるを得ず、レッグホルスターから銃を抜く。ハンドガンを手にして標準を付ければ、先程まであった恐怖よりも、むしろ心地よさや頼もしさまでも感じてしまう。


(ナイフの時といい、やっぱりそう言う仕様なのかな?)


遼太郎は頭の片隅でそんなことを考える。


遼太郎が銃を構え終えると同時に、化け物が狭い路地で突進の反動から体制を整える。その隙に稼いだ距離は四メートルと言うところだろうか。遼太郎は右手でハンドガンを持ち左手で支えをつくる。


再び化け物が突撃しようと予備動作を見せた時のこと、遼太郎はハンドガンの引き金を引き、弾丸を打ち出す。


"ヴァァ!"


遼太郎の放った弾丸は、化け物の腹部に命中し、化け物が呻くように声を発する。弾丸はしっかりと効いているようで遼太郎は安堵する。


しかし、一撃とはいかないようである。化け物は怯む様子を見せるも再び、遼太郎を視界の中心にに捉える。


(まずい!)


遼太郎は咄嗟に地面を蹴り、その場を飛び退く。ほぼ同時に、化け物が今度は鎌のような腕で遼太郎が元いた空間を切り裂いた。その余波で、路地に積み上げられていた空箱や木材がバラバラに破壊される。


(コマンドミスは、即死ってとこだな。初見さんには優しくない設定だな)


今回は予測して避けられたものの、やはりコマンドが表示されるほど窮地には立ちたくないと、遼太郎は嫌でも感じ取った。


化け物の凄まじい威力の攻撃で再び隙が生じる。遼太郎もここは逃す訳にはいかない。


(次は定石通り頭だよ!)


一撃で仕留められないならば、セオリー通り遼太郎は生き物の弱点の頭部に照準をあわせて引き金を二回続けて引く。


ようやくこちらに向き直った化け物には、その弾丸を避ける時間も術もない。


弾丸が命中した化け物の頭が弾け飛び、銃弾を受けた反動により背中から倒れる。遼太郎は気を抜かず銃を構えたまま照準を化け物に向け続ける。


恐らく倒したが、万が一のため遼太郎は化け物が起き上がってこないか集中していた。


(生き返ったりしてくれるなよ…)


そんな状態のまま、どれ程の時間が経過しただろうか。


「おい、麦穂!先程の炸裂音はこちらでいいんだよな!」


「はい、確かにこちらの方向で……って遼太郎さん!こんなところに!それにそこに倒れているのは…?え?」


先程の戦闘の音や発砲音を聞き付けたのであろうか、壬月と麦穂がやってくる。


「小僧、これはお前がやったのか?」


遼太郎の背後から壬月が倒れた化け物をみて声を掛ける。頼もしい味方が来たことで安心し、遼太郎は銃を下ろし二人に説明をする。


「この裏路地に入ったところ、奥の方からその化け物が、上半身のない人の足を引きずる所を目撃しまして。思わず声を出してしまい、戦闘になりました。」


「なるほどな。ところでお前が手にしている黒いそれはなんだ?」


屋敷を出るまでは持っていなかった装備をみて壬月が質問をしてくる。


「えっと、これは銃といって。さっき不審者を追っていたら急に渡されまして。そのあと間を置かずにこの化け物と遭遇となり生き残るため使ったって流れです」


一瞬、銃について説明しようかと思った遼太郎だったが、よく考えれば織田信長が生きるこの時代には、南蛮銃など海外産のものが多くはないがすでに出回っていることに気が付いたのでスルーすることにした。


「不審な者…か、まぁいい」


不審者というワードに疑問を覚えたようだか、現状化け物とはあまり関係がないようなので壬月はとりあえずは納得したようだ。


「ですが、遼太郎さんが持つものは私が知る鉄砲とは違った色形をしていますね」


壬月を納得させると今度は麦穂が尋ねてきた。


「ええ、これは俺の故郷、国で小型化されたものでして。大きさから、南蛮銃のような威力は出せないのが欠点でしょうか」


確かに南蛮銃とは、弾や火薬をその都度補給する必要があり、連射はできなかったり、細かな狙いが効かないデメリットはあるが、ライフルとも変わらない大きさから放たれる威力はかなりのものである。


遼太郎は世界が違うと言うことは濁しながらも説明を加える。そして何気なく先程倒した化け物に目を向ける。


するとどうだろう。倒した化け物がまるで蒸発するように消えていくのだ。


やがて、化け物が完全に蒸発して消えるとそこには、ポツンとハンドガンの弾が残されていたのだ。


(おいおい、こんなところまで似ているのかよ…)


「とにかく、今夜の散歩はもう切り上げろ。久遠様の屋敷まで送る」


壬月にそう言われた遼太郎は、化け物とも遭遇したことからその方が安心だと思い、従うのであった。





※銃器及び装備の補足

・ハンドガン(拳銃):ハンドガンの弾を使用して発泡できる銃。大きさは20cm弱ほどの掌サイズ。

ここでは1発の威力を100として、他の銃器と比較する。


・レッグホルスター:太股に装着するタイプのホルスター。遼太郎はここにハンドガンを入れる。

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