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Chapter1-6

遼太郎が布団に入って寝てから数時間後、辺り一帯は完全に日がくれているときのことであった。


久遠の屋敷内、つまり現在遼太郎がいる家での話である。


「全く……。我らに相談も無しにそのようなことを決められるとは」


織田家家老の一人柴田勝家こと壬月が頭に片手をおきながら困ったように言う。


「別に構わないだろう。壬月達が心配するようなことはないぞ」

久遠が返す。


「いったいなにを根拠にそんなにも信用するのですか?」


同じく家老である黄緑色装束の丹羽長秀こと麦穂が反論する。



「瞳だ。あやつの瞳の奥に力強い意思がみてとれる。別のものとは全く違う強さなのだ。だから我は奴を信用した」


久遠はさも当然のように答えるが、これには二人の家老もため息をつく。



「家老の二人の言う通りよ。久遠。あんな不審者をいきなり夫にするだなんて」 


久遠の妻の帰蝶もここぞとばかりに家老二人の加勢をする。



「ふむ…。なぜわからんかな。我はあやつを中々骨のあるやつだと見ているのだが」

久遠はそれでも意見を曲げないが、壬月、麦穂は続けて反論する。


「しかし、あのような不明な現れをした者を簡単に信用するなどそうはできません」


「久遠様の家老として、私も壬月様に賛成です」


「頑迷なやつらだ。ならば貴様等の目で直接検分するといい。その代わり何か1つでもあやつを認めるとこがあれば我に従うと」


「「御意」」


久遠の言葉に壬月と麦穂の二人は肯定する。


「お前もそれでいいな」


「ええ、あいつが何者かわかれば無用な心配をしなくていいんだから」


今度は帰蝶が久遠の言葉を肯定する。遼太郎のことを本人の了解を得ずに決定されてしまうのであった。


「よし、でやつはどうしてる?」

久遠が遼太郎の現状を帰蝶に尋ねる。


「さっきまでは寝ているみたいだったわ」


「よし、ならば寝込みを襲うとしよう。殿が仰るほどの男ならば難なく対処して見せるでしょう」


帰蝶の返答に壬月が提案をする。


「我は自分の目を信じる。好きにせい。ただ、刀を振るうのは一度のみにせよ。我の屋敷内を荒らされては困るからな」


久遠はやれやれと仕方ない様子で、隣室で寝る遼太郎を襲う許可家老二人に出すのであった。




ーーーーーーーーーーーーーー




そんなやり取りが廊下でされるときのこと。


(ん?なんだか襖の向こうに人がいるなしかも複数人で久遠と帰蝶以外にも知らない女性の声がするな…)


「…し、……ば寝込みを襲うと…よう…」


遼太郎の知らない声が、断片的に襖の向こう側からきこえてくる。


(はっ!?いきなり襲うとか何を考えててんだ!?)


とにかく、布団から離れてこの先の対策を考える。


「……ただ、刀を……のは一度のみ…な。我の……」


(これは久遠の声…か、なら初撃をフェイクで避ければいいってことか…)


部屋の隅々を見渡す遼太郎が、あるものを視界に捉える。


(これなら…)



ーーーーーーーーーーーーーー




視点は変わり、遼太郎のいる部屋の襖の前のこと。

家老二人の壬月と麦穂は刀を抜き臨戦態勢であった。


「いいか、麦穂。三つ数えたら襖を引いてくれ。討ち入るぞ」


「了解しました。壬月様。それではいきますよ。一、二、三!」


麦穂のカウントと共に襖が勢いよく開けられ、膨らんだ布団の切断するように壬月が刀を振るう。


「ハァーッ!」


"ガチャッ!"


しかし、鳴り響くのは無機物の割れる音。布団の音とも、人を切った音とも似つかないものであった。


「な、なんだこれは?」

切り込んだ壬月は思わず膨らんだ布団をめくる。そこには壺やら陶器やらが敷き詰められていた。恐らくこの部屋に飾ってあったものだろう。


討ち入りにきた壬月が唖然としているのを確認したところで、その罠を作った本人が声を発する。


「いや、寝込みを襲うとかやめようよ。万が一気が付かなかったら俺死んでたよ?」


遼太郎的には先ほどの会話を聞いていたので、一撃を避けられて大丈夫だと思っていた。


が、現実はそう甘くはなかった。


「そこです!」


切り込んだ壬月ではなく、襖をあけ壬月を追うように入ってきた麦穂が、振り向くと同時に刀を横殴りに繰り出そうとしてきた。


(うそ!?まさかもう一人いたのかよ…)


さすがに一般人で武術を嗜んでいない遼太郎に避ける手段はなく、自己防衛的に体が後ろに退き始めようとしたときであった。


視界の真ん中に、ゲームで見慣れたボタン型のコマンド表示が現れる。


      "伏せ回避"


遼太郎は反射的に反応して、身を委ねる。いつもと日常やり込んでいたゲーム感覚の甲斐あってか、ミスタッチするとこなく要求コマンドに答えることができた。


すると、遼太郎の体は意思とは関係なく動きはじめる。


回避行動に移ると、同時にさらに新たなコマンドが表示される。


      "足払い"


連続コマンドだ。しかも今度は回避型出なく、攻撃型のもの。

遼太郎はさらにコマンドに沿い、連続で行動をする。


「きゃっ!」


麦穂が遼太郎の足払いを受け体勢を崩す。


そんな状況となったのを見た久遠が帰蝶とともに部屋へ入ってきた。


「いや、やるな。思った以上であった」

先程まで命のやり取りをしていた空気には思えないほど嬉々とした表情と口調で久遠がそう告げる。


「まったく、勘弁してよ。気が付かなかったら死んでたかも知れないんだよ?」


遼太郎をすかさずそんな久遠に対して文句を言うが


「でも、お前は気が付き今まさに抜き打ちを避けられたじゃないか」


やはり久遠は満足そうに言う。これには遼太郎も呆れてしまう。


「それで、壬月、麦穂よ。どうであった?」

先程の約束にあったように久遠は家老二人に問う。


それに対して壬月は、

「即刻追放すべきかと」


(え?俺うまくやれたはずじゃないの?)

壬月のまさかのダメ出しに遼太郎は驚きと疑問半々の感情が出てしまう。


「ほう、訳を聞こう」

久遠が尋ねる。


「布団に仕掛けた罠、ほぼ不意打ちであった麦穂の一撃を避ける体裁き、計算されたように転ばせた麦穂を盾として私からの二撃目を防ぐよう仕組んだ計算力、これらから判断するにあまりにも怪しすぎます。どこかの国の草(忍者)以上の働きかと」


壬月が遼太郎を冷静に分析をして結論を出す。それを聞く遼太郎は内心自分の行動を誉められ嬉しかったりする。


「麦穂、お前はどうだ?」

久遠が今度は麦穂に問う。


「私は……………、久遠様の意見に賛成致します」


「なっ!麦穂、お前が直接味わったようにこの男は草の真似事だけでなく体術もさながら武士、いやそれ以上の手練れほどだぞ!怪しすぎるだろう!」


麦穂が久遠に賛成したことに驚きを隠せない壬月が説得するが、


「確かにその可能性もなくはありませんが、万が一そうではなく違っていた場合、これほどの人材を他国に易々と渡してしまうと言うのが……」


「うっ、それは確かにそうだが…」


今度は麦穂の意見により壬月が揺らがされてしまう。


そんな壬月を見ていた久遠が言う。

「壬月よ、お前は遼太郎の技術や機転を認めるような発言をしたな。それは先程の約束に当てはまるのではないか?」


「うっ」


「ならば駄目だとは言わせぬぞ。わかったな」

多少熱くなっていた壬月は、久遠との抜き打ち前の約束を思いだし渋々と認めるのであった。


「お前もこれで認めだろう?いいな?」

久遠は帰蝶に対しても尋ねると


「嫌よ、私は私が信頼に足る奴だって認めるまでは疑い続けるわ」


「…お前はまた、頑固と言うかなんと言うか」

帰蝶の返答に久遠はあきれ半分になっていたが


「俺もその方がいいな。そう簡単に認められないってことは逆をとれば自分の行動次第で認めてくれるってことだろ?なんかやる気でるじゃん」

まさかの遼太郎本人からの助言であった。


こうなると久遠としても妥協せざるをなくなり、

「わかった。ならお前の好きにすればいいさ」


「ええ、そうさせてもらうわ」

夫婦間でも納得がいったようであった。


こうして遼太郎の抜き打ちが終わった。


(それにしても、あのコマンドは……似てる何てもんじゃないよな…)


麦穂の攻撃の際に現れたコマンド表示に、遼太郎はやり込んだゲームを思い浮かべるのであった。




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